Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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イタリアの新名花が南青山に再登場

2010年03月02日

 ロイ・ハーグローヴ・ビッグ・バンドで出演経験があるロバータ・ガンバリーニが、自己のグループとしては初めて「ブルーノート東京」のステージに立った。昨年4月来日時のドラマーだったジェイク・ハナが2月に他界したことで、バンド編成の変更を余儀なくされたようだ。今回ロバータをバックアップするのは、ヴォーカリストの伴奏経験が豊富なエリック・ガニソン(p)。ジョージ・シアリングとの共演で知られるニール・スウェインソン(b)の帯同は、思わぬ収穫となった。ステージはまずロバータ1人が登場し、無伴奏で「ソー・イン・ラヴ」を歌唱。短期間で世界的にその名を知らしめたロバータが、昨年とは違う新機軸をいきなり打ち出した格好になった。中盤では口トロンボーンの至芸を披露。お客様をもてなすことを第一に考えたロバータのプログラム作りに共感した。最期の自身のアナウンスは定番の「ガンバリマス」。この初心を忘れなければ、今後も期待できる。
 渋谷「JZ Brat」へ移動し、西山瞳トリオを観る。西山は同店のスタッフとインティメイトな関係を作り、定期的な出演を実現させている。コアなファンが集い、満足度の高いイヴェントとなった。

フュージョン・ファン垂涎の特別バンド

2010年03月04日

 ランディ・ブレッカーとビル・エヴァンスをはじめとするオールスターズを、六本木「ビルボード・ライブ東京」で観た。ミュージックペンクラブ・ジャパンのHPに寄稿したレポートを以下に転載しておく。
 クレジット上はこの2人と他の5人を含むメンバー全員のスーパー・プロジェクト。エヴァンス&ランディは2004年のツアーを収めた共同名義のライヴ作を発表している関係で、今回の7人バンドはそのヴァージョン・アップ版とも言えよう。幕開けとなったブレッカー・ブラザーズの代表曲「スポンジ」では、息の合った2フロントのコンビネーションでいきなりヒートアップ。70年代に若者の間で絶大な人気を得たブレッカーズの、亡きマイケル(ts)の勇姿がエヴァンスと重なる。その一方で名声を高めた80年代のマイルス・デイヴィス・バンド時代と変わらぬプレイが嬉しい。エヴァンスのルーツがデイヴ・リーブマンであることを再確認。タイプの異なる2ギターリストのスティーヴ・ルカサー、ロベン・フォードもソロで持ち味を発揮。ロドニー・ホームズ(ds)の強力なソロを含むアンコールの「サム・スカンク・ファンク」で観客も大満足だった。

フュージョン鍵盤奏者の大御所が丸の内に初登場

2010年03月11日

 ジョージ・デュークといえば、クロスオーヴァー/フュージョンが台頭した70年代にキャリアをスタートさせ、80年代前半にディスコ・ブームとリンクして人気を獲得したキーボード奏者だ。今夜は「Cotton Club」への初出演。バンドでの久々の来日である。当時はコンサート・ホールの出演が普通だったので、クラブ・サイズで観られるのはかなり贅沢な気分だ。デュークは日本のファンのニーズを意識してくれたようで、キャリアを参照する選曲で構成した。「ブラジリアン・ラヴ・アフェアー」「アイ・ワズ・ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」と、代表曲のラインアップが嬉しい。ピアノ独奏の「星影のステラ」から「スウィート・ベイビー」へとつなげたアイデアもいい。バンド・メンバーでは昨年リーダー作を発表したベースのマイケル・マンソンの仕事ぶりが特筆もの。デューク自身の歌唱はすでに高音域がオリジナル・レコーディング通りに行かないことがわかっており、男女2名のバック・ヴォーカリストがサポート役を求められた。にもかかわらず男性歌手は高音域が弱く、その点だけが残念。会場はほぼ満席で、根強いファンの存在が確認できた。

人気女性アーティストの初デュオ・ライヴ

2010年03月13日

 2枚のストックホルム・スタジオ録音作で鮮烈な印象を与えたピアニスト西山瞳。バークリー音大で学び、ジャズに参入してたちまち頭角を現したヴァイオリニスト牧山純子。この2人が初めてデュオで出演するライヴを池袋「アップル・ジャンプ」で観た。30席足らずのインティメイトな空間で、美形人気者2人を間近に観ることができる幸せは何物にも変えがたい。「フォーリング・グレース」から始まったステージは、MCも務めた西山が主導する形で進行。ピアノ&ヴァイオリンのデュオはそれほど多くはなく、日本では里見紀子&井上ゆかりが認められるくらい。西山&牧山はお互いの自作曲を提供し合いながら、パット・メセニー曲なども盛り込んで、独自のデュオ世界を作り上げた。先日の牧山レコ発ライヴを見逃した自分にとっては、ノン・マイクでのヴァイオリン演奏をたっぷり聴けただけでも大収穫。所属レコード会社が異なる2人だが、牧山のMC場面を増やして大人女性度をアップすればブレイクする可能性を大きく秘めていると聴いた。

若者から絶大な支持を得るカリスマ・ギタリスト

2010年03月14日

 カート・ローゼンウィンケルの今回の来日ツアーは、ほとんどがソールド・アウトだと聞いていた。以前の来日公演がそうではなかったことと合わせて、何故今回人気が沸騰したのか。その疑問の答えを得る目的を抱きながら、新宿「ピットイン」に向かった。開演15分前に入店すると、すでに立ち見の場所を確保するのも大変な集客状況。若者が多い。中には大学生と思しきピットイン初心者も散見され、カートのリアルな人気ぶりを目視する。ファースト・セットのプログラムは「ルビー・マイ・ディア」「インヴィテーション」「ライク・ソニー」「シェリル」と、スタンダード・ナンバー中心だった。カートの演奏は生真面目な性格が垣間見れるもの。ギター+ベース+ドラムスの基本編成は昨年発表作『リフレクションズ』と同一。しかし内容は異なっていた。バラードでは心地よすぎる音空間を現出し、それはこの満員電車状態とはかけ離れていたほど。聴き進めるにしたがって思ったのはレコーディング・メンバーと違うことが、このライヴ・サウンドのオーソドックスな印象の理由だということだった。ロドニー・グリーン(ds)は近年の米黒人の代表的なテクニシャンと認知されていると思うし、ぼく自身も同じ認識だった。ところが近作と同じ編成のトリオであるにもかかわらず印象が異なったのは、アルバム参加ドラマーのエリック・ハーランドとグリーンのスタイルの違いに起因することがわかったから。もちろんクオリティの高いステージだったが、もう一歩踏み込んだ時に、新たなテーマが生じたことを明らかにしておきたい。演奏の素晴らしさとは別に、ドラマー問題を再考させられるステージとなった。

日本を代表する女性シンガーの初春コンサート

2010年03月21日

 これまでにバート・バカラック集やボサノヴァ集に取り組んできた平賀マリカは、昨年11月にカーペンターズ結成40周年を記念したアルバム『シング・ワンス・モア』をリリース。同作が「ジャズ・ディスク大賞ヴォーカル賞(国内部門)」を受賞したことと合わせて、原宿クエストホールで記念コンサートが開催された。同作で同賞の3年連続受賞となり、名実共に日本を代表する女性ジャズ・ヴォーカリストの地位を揺ぎ無いものにした感が深い。2部構成のステージはカーペンターズのナンバーを中心に、他のレパートリーも盛り込んだもの。サウンド・プロデューサーを務めた笹路正徳をはじめ、レコーディング・メンバーを揃えたバック・バンドは理想的なセッティングであり、さらに8人編成のストリングスまで加わって、実に贅沢極まりない。ヴォーカリストに歌唱力が求められるのは当然で、平賀はこの点を楽々とクリアしながら個性を表現するばかりでなく、温かい人柄が伝わってくるMCでも楽しませてくれた。第2部では話題の高校生アルト奏者=寺久保エレナが2曲に客演。ぼくは初めて観たのだが、噂に違わぬ実力に驚きを禁じえなかった。近々NYで著名人を起用したデビュー作を録音するという。アンコールではアコースティック・ギター2本だけをバックに、「雨の日と月曜日は」をしっとりと聴かせた。

団塊ジャズ・フェスティヴァル・ファイナル

2010年03月22日

 ドラマーの小林陽一が毎年主催する「団塊ジャズ・フェスティヴァル」は、これまで文京シヴィックホールで開催されてきた。今年は「ファイナル」と銘打って、会場を赤坂Bフラットに移動。100数十席のチケットは完売で、ぼくは取材のために座席を確保することができた。イヴェント名は団塊世代に向けたジャズ・ライヴという意味が込められていて、確かに年配のお客様が数多く来場されていた。アート・ブレイキーから影響を受けて自身のドラム・スタイルを築いた小林の音楽性に共感するファンが大半ということで、モダン・ジャズが流行した青春時代を重ね合わせる人たちが、このイヴェントのリピーターなのだと感じさせられた。第1部は若手3人をフロントに据えた「ニュー・スター・セッション」。第2部は小林率いるジャパニーズ・ジャズ・メッセンジャーズ。ブレイキーに心酔する小林の、30代ミュージシャンを起用したクインテットが、5月発売の新作『チュニジアの夜』収録曲をいち早く披露した。メイン・イヴェントの第3部では村田浩(tp)、大森明(as)、太田寛二(p)らのヴェテランが登場。中でも久しぶりに生演奏を観た大森の健在ぶりを確認できたのが収穫であった。満員の観客がスタンダード・ジャズを堪能した一夜。このようなJジャズの世界も大切にするべきだと思った。

黒人女性ジャズ・ヴォーカルの第一人者

2010年03月23日

 これまでに2度のインタヴューを通じて、ミュージシャンとしての内面と人柄に触れたダイアン・リーヴス。六本木「ビルボードライブ東京」でのステージを観た。以下、ミュージック・ペンクラブ・ジャパンのホームページに寄稿したライヴ・レポートを転載する。
 現代黒人女性ジャズ・ヴォーカリストのトップに位置するダイアン・リーヴス。30年のプロ・キャリアを誇るヴェテランが実力者4人からなるバンドを率いて、六本木のステージに登場した。今夜のリーヴスは意識的にそうしたのか、“静”の面を多く打ち出すプログラムを聴かせてくれた。最新作からのリラクゼーションに満ちた「ソーシャル・コール」、ピアノとアコースティック・ギターだけをバックにしたバラード「アイム・イン・ラヴ・アゲイン」。ウッド・ベースとのデュオで歌い始めた「ワン・フォー・マイ・ベイビー」では、自身も歌手役で出演した映画『グッドナイト・アンド・グッドラック』の世界を再現し、ストーリーテラーとしての奥深さを実感させられた。後半に進むとスケール感豊かでドラマティックな歌唱により、リーヴスらしさを発揮。アンコールの「ユー・トート・マイ・ハート・トゥ・シング」ではマイク無しのスキャットで退場する貫禄ぶりだった。

大物フュージョン・サックス奏者が丸の内に初登場

2010年03月24日

 ジェラルド・アルブライトはもう20年以上もウォッチし続けているフュージョン・サックス奏者だ。今回は丸の内Cotton Clubへの初出演であり、自己名義ではおそらく14年ぶりの来日公演となる。何故これほどのブランクが生じたのかは不明だが、来日できないほどの多忙な売れっ子状態が続いていたと考えるべきなのだろう。今回アルブライトは4人編成のバンドを率いて来日。久々に日本のファンの前でパフォーマンスをするという意識があったのか、新旧のレパートリーを網羅する形になったのが嬉しい。初期の「バミューダ・ナイツ」でキャリアを振り返り、『ライヴ・アット・バードランド・ウエスト』から「インプレッションズ」「ジョージア・オン・マイ・マインド」でジャズ・ルーツを明らかにする。6月リリースの新作から、ハイチ災害への思いを捧げた「ロード・トゥ・ピース」を含む新曲2曲を披露してくれたのも収穫。さらなるファン・サービスはアンコールでやってきた。「何十年ものファンなんだ」と明かして、故グローヴァー・ワシントンJr.の名曲「ワインライト」をカヴァー。完全コピーした上で、自分のレパートリーにまで高めたアルブライトの“グローヴァー・ラヴ”が伝わってきて、両者のファンである自分には感慨深い場面を演出してくれたのだった。

大阪のジャズ・シンガーが名手と再会

2010年03月26日

 ジャズ・ヴォーカリストの清水ひろみは、今年に入って東京でのクラブ出演を増しており、勝負の年だと位置づける意気込みが伝わっていた。その最初のピークが今回企画されたドン・フリードマンとのデュオ・ツアーである。1週間前に観た赤坂Bフラットを皮切りに、清水の本拠地である大阪「JAZZ ON TOP」で2リズムを加えた編成で、ライヴ・レコーディングを実現。今日はおそらく気分的には一段落したであろうツアー終盤を、「お茶の水NARU」で観た。2007年にNYでデュオ作『ワルツ・テンダリー』を制作し、あまり歌伴奏作を制作していないフリードマンを本気にさせた清水との関係が深まっている様子が、ステージから感じられた。ピアノ好きからすると、各セットの冒頭でフリードマンが独奏曲を披露してくれたのが収穫。ヴォーカリストのステージの場合、インストを1、2曲入れることは常道だが、今回はフリードマンだけに意味が違う。「星影のステラ」「アイ・ヒアー・ア・ラプソディ」等の独奏曲にあって、「オール・ザ・シングス・ユー・アー」の匠の技は、この曲を聴くためだけに来場した価値があると思ったほどだった。今年、清水はヨーロッパのジャズ・フェスティヴァルに出演する。日本が誇るジャズ・ヴォーカリストに羽ばたいてほしいと、切に願う。

若手サックス奏者のレコ発ライヴ

2010年03月27日

 1月に新作『Bebop at The Savoy』をリリースした矢野沙織のライヴを、渋谷Duo
Music Exchangeで観た。まだ高校生だった時に初めてインタヴューしていて、その後ドメスティックな活動を重ねて、他に競合しない独自のポジションを築いている。ステージは「ブルース・ウォーク」「アリゲーター・ブーガルー」と、昨年の「東京JAZZ」に出演した超ヴェテラン・サックス奏者ルー・ドナルドソンへのオマージュで、今の矢野の気持ちを表明。最新作の収録曲であるジョー・ヘンダーソン「ザ・キッカー」も盛り込んで、ビバップ?ハード・バップにとどまらない視野を印象付けた。今回のプロジェクトでは現役のドナルドソン・グループのドラマーである田井中福司が、レコーディングで多大な貢献を果たしたということで、今夜のステージでも驚くべきスキルとエピソードを披露。アンコールではバップ・ナンバーの定番「コンファメーション」で立ち位置を表し、矢野が個人的に気に入っているというCM曲「ウィスキーがお好きでしょ」で、口笛を交えながらファンを満足させてくれた。矢野のミュージシャンとしての姿勢に、多数の若い音楽ファンが集ったことを目視できたことも収穫だった。

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