Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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2012年06月05日  ギタリストたちの尊敬を集める巨匠

2012年06月05日

 パット・メセニー、ビル・フリゼールら、現代のトップ・ギタリストたちに多大な影響を及ぼし、今なお現役で活躍するジム・ホール。トリオ公演をブルーノート東京で観た。80歳を超えた音楽家であっても探究心が衰えず、創造性を追求する姿を、今夜のホールに聴いた。オープニングは70年代のアート・ファーマーとの双頭名義作から「ビッグ・ブルース」。他界して久しいファーマーを想いながら、演奏したのだろうか。「コールマン・ホーキンスで有名な曲」と紹介した「ボディ・アンド・ソウル」、「16小節のブルースだけれど、12小節と間違えないように」と曲名の由来を語った「ケアフリー」と、短いMCを挟んだホールのプレイは、一聴、淡々とした趣。しかしその両手の動きに目を凝らしてみれば、選び抜かれた音の連続によって、現在のホールだからこそ到達した境地がそこに現れている。演奏中にホールが何度か話しかけたジョーイ・バロンは、これまでライヴや数多くのアルバムを通じて、その力量は知っていたが、このトリオにおける巧みな技の使い方には、すっかり参ってしまった。ホールがバロンに信頼を寄せ、重用している理由を発見。「ウィザウト・ア・ソング」の後に、「ソニー・ロリンズと吹き込んだ曲でした。ではロリンズをもう1曲」と言って始めたのが「セント・トーマス」。今このタイミングでホールを観ることの価値を深く味わった、素晴らしいステージであった。

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2012年06月06日  NYトリオが新作記念で来日

2012年06月06日

 「YES!」というシンプルな言葉をグループ名に付け、同名のデビュー作をリリースしたタイミングで、丸の内Cotton Clubに登場。アーロン・ゴールドバーグ(p)、オマー・アヴィタル(b)、アリ・ジャクソンJr.(ds)は、15年来の付き合いがある関係だ。ゴールドバーグはジョシュア・レッドマン・グループで頭角を現し、渡辺貞夫と共演した実力派。アヴィタルは新世紀に顕在化したNYでのイスラエル人旋風の中心的人物として、活発なレコーディング活動が注目を集める。ステージはジャクソンのミドル・ネームを織り込んだアヴィタルの新曲「ムハムズ・マーケット」で始まった。グレゴリー・ターディに捧げたと思しき「ブルース・フォー・ターディ」も、アヴィタルのオリジナルで、フィニッシュは全員がぴたりと着地した。コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」はラテン・リズムを使用して、激しく燃え上がり、やはり最後はぴたりと決めた。

2012年06月08日  躍進を続けるピアニスト

2012年06月08日

 昨年デビュー10周年を迎え、ヨーロッパに続いてアメリカでもアルバム・デビューを果たした山中千尋が、レギュラー・トリオを率いて神奈川県民小ホールに出演。昨年8月リリース作『レミニセンス』が<第1回 NISSAN PRESENTS JAZZ JAPAN AWARD 2011>でアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝き、同作のリハーサル・テイクを集めたEP『スティル・ワーキング』を5月にアルバム化。さらに7月にはビートルズのカヴァー集『ビコーズ』のリリースを控える、というタイミングでのコンサートとなった。中でも新作からのビートルズ曲が、発売前ということもあり収穫。それにしても山中のパフォーマンスは、いつも全力投球だ。メンバーの東保光(b)を話題にするMCも、リーダーらしくこなれていた。なお本公演は「横浜で聴くJAZZ」を新たに立ち上げたマルチナ・フランカの主催で行われた。
 その後、六本木へ移動。ビルボードライブ東京でラスマス・フェイバー率いるプラチナ・ジャズ・オーケストラを観る。日本のアニメ音楽のカヴァー作がヒットしたスウェーデンのリトル・ビッグバンド。これだけを捉えるとライト・ユーザー向けと思われるかもしれないが、ジャズ・ファンの鑑賞にも十分に対応した演奏だった。男女ヴォーカリストをフィーチャーし、エンタテインメント性に溢れたステージ。場内は満席で、観客の反応も良く、ジャズの裾野が広がっていると実感した一夜であった。

2012年06月09日  人気ピアノ・トリオの寛いだコンサート

2012年06月09日

 スタジオ・ジブリのアニメ曲集がヒットし、子供も入場可能なライヴ活動にも力を注ぐ立石一海(p)トリオを白寿ホールで観た。数年前まで大手レコード会社の社員だった立石は、これまで色々な場面で会う機会があったのだが、人気トリオのライヴを生体験するのは今日が初めて。プログラムはジブリ・ナンバーを中心に進行。会場には親子連ればかりでなく、幅広い年齢層の男性客も。演奏が進むにつれて感じたのは、ジャズ・ファンではないリスナーにも親しみのある素材を選曲しているのだが、トリオの土台にはしっかりとしたジャズが存在するので、ライト・ユーザーをジャズ誘導するばかりでなく、ジャズを聴き込んでいるリスナーも納得できること。ジャズの広報活動を続ける立石に、エールを送りたい。

2012年06月13日  話題作を引っさげ、ユニットで来日

2012年06月13日

 ロバート・グラスパー・エクスペリメント@ビルボードライブ東京。2月にリリースした新作『ブラック・レディオ』が話題を呼ぶ中での来日公演だ。同作はエリカ・バドゥ、ミュージック・ソウルチャイルド、ミシェル・ンデゲオチェロら、ブラック系歌手を全編にフィーチャーした内容。その世界観をレギュラー・メンバーだけでどのように表現するのか、に注目した。そしてキー・パーソンを演じたのは、サックスのケイシー・ベンジャミンであった。1曲目はベンジャミンがヴォコーダーでコルトレーンの「ア・ラヴ・シュプリーム」を呪文のように唱え、スピリチュアルなムードを演出。ショルダー・キーボード、エレクトリック・サックスを使用し、ソプラノサックスではウェイン・ショーターを想起させるプレイで大活躍。ゲスト・ヴォーカル抜きのエクスペリメントだけで新作の世界観を再現するための、最適な形がこれなのだなと納得した。リーダーのグラスパーは敢えて目立たずに、音楽監督的な立場を貫いたのも逆に印象的だった。

2012年06月14日  スムース・ジャズのトップ・ギタリスト

2012年06月14日

 新作『Here We Go』をリリースしたばかりのピーター・ホワイトが、丸の内Cotton Clubに登場。今回はオールスターズと呼ぶのがふさわしいクインテットである。アコースティック・ギターのフュージョンと言えば、70年代のアール・クルーがこのジャンルの先駆者であり、ホワイトは90年代からのソロ・アクトによってシーンのトップに上った才人だ。「20年前の曲だよ」と紹介した「プロムナード」、やはり名曲だなと再認識した「コスタリカ」、ビージーズの「愛はきらめきの中に」、バート・バカラック曲「ウォーク・オン・バイ」。新作からはデヴィッド・サンボーン参加のタイトル・ナンバーで、マイケル・パウロ(as)をフィーチャー。パウロは3つのサックスを吹き分け、観客にも積極的なサービスで会場を盛り上げた。店内にたまたまあったボンゴをエリック・ヴァレンティン(ds)が使用し、リゾート曲を完成。ヴェテランのグレッグ・カルーキス(key)とネイト・フィリップス(el-b)の職人技も特筆したい。

2012年06月18日  新世代仏人ピアニストの初日

2012年06月18日

 バティスト・トロティニョンは2000年のデビュー作『Fluid』からウォッチしていて、2年前のインタビューをきっかけに親交を深めた。前回はトリオだったが、今回は単身の来日でソロ・ツアーが組まれた。今夜はその初日を飯田橋・日仏学院“ラ・ブラスリー”で観た。オリジナル、スタンダード、フレンチ・ポップスからなる約1時間のパフォーマンス。詳細なレポートは、7月23日発売の「ジャズジャパン」を参照してほしい。

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2012年06月21日  ビッグバンド界の重要人物

2012年06月21日

 テナーサックス奏者のボブ・ミンツァーは30年間自己のビッグバンドを率い、それと並行して91年からはイエロージャケッツの一員としても活躍。他にあまり例のない活動スタイルによって、独自のポジションを確立している。またアレンジャーとして、ヨーロッパの楽団にスコアーを提供しており、広くビッグバンド界の貢献者としてその業績は評価されるべきだ。今夜は新作『フォア・ザ・モーメント』のレコーディング・メンバーによるステージを、ブルーノート東京で観た。前半はブラジルのギター&ヴォーカリスト、シコ・ビニェイロが加わったBBで、新作から選曲。リンカーン・ゴーインズはエエクトリック・ベースを使用。後半に進むと、ミンツァーBBとの共演作もあるカート・エリング(vo)が登場。いきなりパット・メセニーの「ミヌアノ」を歌い始めたのには驚いた。原曲のギター・ソロをヴォーカリーズで熱唱。これにはボブ・カーナウBBがオーヴァーラップして、思いがけなく嬉しいシーンとなった。バラード名曲「マイ・フーリッシュ・ハート」を挟んで、ジョン・コルトレーン『至上の愛』から「Resolution」を歌唱。チャレンジ精神旺盛なエリングは、現役男性ジャズ・ヴォーカリストで最高の実力者と評されるだけのことはあると実感した。アンコールではミンツァーがジョージ・ガーシュインにインスパイアされて書いた「ラン・フォー・ユア・ライフ」で、スインギーに締めた。

2012年06月24日  新世代仏人ピアニストの最終日

2012年06月24日

 バティスト・トロティニョンの単独ジャパン・ツアー最終日となる丸の内Cotton Club公演を観た。約150席は満員の盛況で、18日のラ・ブラスリーでも見かけたリピーターもいる。今日は通常の2セット入れ替え制ではなく、1日1ショーということで、ツアー初日とはまた違うプログラムを期待した。内容は初日の選曲をベースに、セロニアス・モンク曲等を追加した、ちょっと長めの約80分。このオーセンティックなクラブへの初登場でも、バティストは自分流を崩さなかった。

2012年06月25日  急成長中の女性サックス奏者を取材

2012年06月25日

 2年前に『ストラッティン』でアルバム・デビューした纐纈歩美は、チャーリー・パーカーのビバップをベースに、リー・コニッツのクール・ジャズも吸収して、めきめきと実力を伸ばしている23歳。7月18日にリリ?スする第3弾『レインボー・テイルズ』は、ノルウェーのトリオと共にECMの名盤を多数生み出してきたオスロ、レインボー・スタジオで吹き込んだもの。この驚くべきセッティングが実現したことについて、本人に詳しく話を聞くことができた。“クール・ビューティ”と評される纐纈は、以前インタビューした時に比べて、自分の言葉で自分の音楽を語ることのできるミュージシャンへ成長していると実感。詳細を伝えるインタビュー記事は、7月23日発売の「ジャズジャパン」Vol.24を参照してほしい。

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