Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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2012年05月05日  1年ぶりに観たピアニストのトリオ・プロジェクト

2012年05月05日

 ハクエイ・キム“トライソニーク”@JZ Brat。昨年4月にビルボードライブ東京で観て以来、1年ぶりのクラブ・ライヴだ。昨年ハクエイにインタヴューした時に、トライソニークの結成から現在に至るまでのプロセスと音楽性をヒアリングしたこともあって、期待を抱きながら開演を待った。このトリオに関して、ハクエイは観客から見た場合の当り外れ、演奏者側にとっての出来不出来を恐れないことを、ある時から目指している。これをぼくは音楽家ハクエイの成長だと受け止めた。今夜のファースト・セットは「ソーラー」でスタート。定石的なテーマ提示ではなく、いきなり冒険的な姿勢でこの後のハプニングを予感。主要カヴァー・レパートリーの「テイク・ファイヴ」では、予定調和ではない初めて聴くエンディングで驚かされた。アンコールではメンバーが用意したサプライズとして、明日37歳になるハクエイの前にバースデイ・ケーキが登場。満員の観客から祝福を受けた。

2012年05月06日  世界最高のピアニスト、第1夜

2012年05月07日

 ちょうど1年ぶりにキース・ジャレットがソロ・コンサートのために来日。今回は東京2公演のみという、希少性の高いスケジュールだ。昨年11月にはソロ作『リオ』がリリースされており、キースのソロ・コンサートに改めて注目が高まっている中での来日となった。ファースト・セットは近年のスタイルと同様、即興のショート・ピースを6曲。ここで曲が終わった直後に奇声を発する客がいたことを鑑みて、セカンド・セットが始まる前に、「一呼吸を置いて拍手をしてください」、との教育的アナウンスがあった。セカンドの1曲目ではそれが守られて安心したのだが、次の曲からはフライング的な拍手が起こり、マナーの悪い客のせいで余韻がなく、雰囲気が台無しとなってしまった。5曲を演奏してセカンドは終了。今夜のアンコールは3回。3度目のアンコールに応える前に水を飲んだ後、「カンパイ」。前回の来日公演の同じような場面で、「Cheers!」と言ったが、ステージでキースが日本語を発したのは、ぼくが知る限り今夜が初めて。ジャズ・コンサートでは他に例を見ない厳格なマナーが求められ、多くの観客が遵守し、それによって感動的な音楽が生まれるのだということを、再度確認したい。

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2012年05月08日  名門ソウル・レーベルのレジェンドが集結

2012年05月08日

 STAX!@Cotton Club。60年代にモータウンと並んでソウル・ミュージックを牽引したスタックスを舞台に、ブッカー・T&MGsのメンバーとして活躍したスティーヴ・クロッパー(g)と、クロッパーとの長年にわたる音楽的盟友であるドナルド”ダック“ダン(el-b)が中心となったカルテットが、前半のステージを務めた。60年代にクロッパーが当時流行の女性
ファッションにヒントを得て書いた「ヒップ・ハグ・ハー」などの歴史的エピソードを交えながらインストで構成。クロッパーは指弾きとピック使用を織り交ぜながらの貫禄の演奏が光った。後半に進むとヴォーカルのエディ・フロイドが登場。60年代の自身のヒット曲「ノック・オン・ウッド」の他、「ソウルマン」「ドック・オブ・ザ・ベイ」といった名曲を披露。ソウル・ミュージックの強固な歴史を感じた一夜だった。

2012年05月09日  JazzyPop LIVE

2012年05月09日

 「ジャズジャパン」で記事を書いたことがきっかけとなって知り合った若手ヴォーカリストRyu Miho。今夜はライヴ・ハウスでの公演に足を運んだ。初めて訪れた高円寺“After Hours”は1975年創業のお店。店内は立ち見客も出た約30人の超満員。やはり男性客が圧倒的に多い。3月に観たJZ Bratとは異なり、ピアノとのデュエットということで、Ryu Mihoの表現力に注目した。「ワルツィング・マチルダ」で始まったステージは、スタンダードとポップスを中心に、MCで各曲の出自を紹介。フランス旅行でのエピソードにも触れて、ヴォーカリストに求められるMCのお手本を示した。歌の世界のヒロインを儚げに演じて、店内は癒しに満ちた心地よい空間に。共演者の持山翔子は昨年、自主制作のミニ・アルバム『time of doze』をリリースした若手ピアニスト。終演後、本人にヒアリングしたところ、ユニット名の「m.s.t.」(mochiyama shoko trio)はe.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)から拝借したとのこと。現在、トリオの活動に情熱を傾けている持山のライヴも、そう遠くないタイミングで観たいと思う。

2012年05月10日  ベーシストの新バンドが本邦初登場

2012年05月10日

 リチャード・ボナが昨年NY公演を行っている新バンド、マンデカン・クバーノの初来日公演を、丸の内“Cotton Club”で観た。ボナの最新作は2009年リリースの『ザ・テン・シェイヅ・オブ・ブルース』だが、今回のバンドはまったく新しいコンセプトのため事前情報がほとんどなかった。編成はピアノ+ベース+2パーカッション+トランペット+トロンボーンのセクステット。中南米と思われるミュージシャンは皆達者で、特にティンバレスのルイス・キンテーロの技には唸った。途中ボナが客席にいた渡辺貞夫を紹介。ボナは以前、渡辺グループのメンバーだった。アフリカ、カメル?ン出身のボナが自分の間口を広げるためのこのプロジェクトは、成功だと言っていい。
■Richard Bona(b,vo) リチャード・ボナ、Osmany Paredes(p)オスマニー・パレーデスDennis Herndandez(tp)、デニス・エルナンデスOsvaldo Melendez(tb)オスヴァルド・メレンデス、Luis Quintero(per)ルイス・キンテーロ、Robert Quintero(per)ロベルト・キンテーロ

2012年05月11日  世界最高のピアニスト、第2夜

2012年05月11日

 キース・ジャレット・ソロ@オーチャードホール。今回は東京での2回のみの公演ということで、外国人を含めて密航者が多数詰め掛けた印象を受けた。レコーディングをするため、拍手のマナーとノイズに関する指導アナウンスが流れた。しかしそれでも演奏中の咳はなくならない。ファーストセットの5曲目で異変が起きた。スタジオ録音での「false start」に相当する現象。すぐに仕切り直して、リズミカルな新しい曲を作ったのは長年のキャリアの成せる業だと思った。セカンドセットの1曲目が終わったところで、水を飲み「カンパイ」。6日もそうだったが、キースがステージで日本語を発した2度目は、以前から親日家としてファンにも認知されているキースが、プライヴェートでも日本との良き関係が生まれたことを想像させる。6曲目のオリジナル・ブルースが収穫。即興ショート・ピースの本編に続いて、アンコールにはスタンダード・ナンバーが用意されているのが定石。1曲目の「ドント・エヴァー・リーヴ・ミー」は昨年の来日公演でも演奏した、ペギー・リーのレパートリー。2曲目の「サマータイム」は過去の同様の場面では選曲されなかっただけに、アーシーなアレンジを含めて新鮮な感動を覚えた。予想外の5曲目のアンコールは「虹の彼方に」。心を揺さぶる名演であった。

2012年05月18日  アジアの架け橋となるイヴェント

2012年05月18日

日本のジャズ史をさかのぼると、戦前からフィリピンとの交流が始まり、現在に至るまで脈々と続いている。今夜は第1回となる《東京?マニラ・ジャズ&アーツ・フェスティヴァル》が、渋谷さくらホールで開催された。実績・実力共、日本在住の女性ヴォーカリストの代表格であるフィリピン出身のチャリートが、長年の夢を実現させたのである。フィリピン共和国大使を迎えた客席は、同国人の祝賀会とも言える様相を呈して、新鮮な風景となった。オープニング・アクトに青山学院大学ロイヤル・サウンズ・ジャズ・オーケストラを起用したのは、渋谷つながりだったのかもしれないが、海外のジャズ祭を踏まえれば好ましい選択。ジャコ・パストリアス・ワード・オブ・マウス・ビッグバンドの「ソウル・イントロ?ザ・チキン」の選曲も秀逸で、トロンボーン全員のみならずエレクトリック・ベースも女性だったのが、昨今の大学ビッグバンド事情を反映していた。初めて観たフィリピン人ミュージシャンでは、柔らかい女声が好感のシティと、ヴェテラン男性歌手のモン・デヴィッドが収穫。デヴィッドは「ネイチャー・ボーイ」と「フットプリンツ」のメドレーで歌手としての高いスキルを示し、スティングの「フラジャイル」でヴォイス・パーカッションを盛り込むなど芸達者ぶりをアピールした。終盤には日野皓正がエネルギッシュなトランペットで、本祭に貢献。ラストは出演者全員が登場し、「A列車で行こう」でステージのハイライトを現出した。
 フィナーレの途中で会場を後にし、新宿へ移動。ラーゲ・ルンド4@ピットインのセカンド・セットを観た。会場は立ち見も出る満員の盛況。ノルウェー出身で米国に移住した30代半ばのルンドは、モンク・コンペで優勝し、日本制作の2タイトルで名前を広めた。そのギター・スタイルはコンテンポラリーなセンスと、生真面目さが同居したもの。客層を見ると、ギター・プレイヤーでもあるような若い男性が多い。このあたりはカート・ローゼンウィンケルのファン層と重なっているのだろう。選曲は「ダーン・ザット・ドリーム」ほか。アンコールではアーロン・パークスとのデュオで「風と共に去りぬ」を演奏した。
■ラーゲ・ルンド(g) アーロン・パークス(p) ベン・ストリート(b) クレイグ・ウェインリブ(ds) 

2012年05月19日  ノルウェーの楽団が初来

2012年05月19日

 ノルウェー西海岸の都市スタヴァンゲルはジャズが盛んで、ぼくは2008年に同地のフェスティヴァル《Mai Jazz》を取材し、観光名所にもなっているフィヨルド・ツアーを体験している。同地のジャズ・ミュージシャンや交響楽団のメンバーで構成されるキッチン・オーケストラが、初めて日本の地を踏んだ。そのお目見え公演のため、六本木“スーパーデラックス”は5デイズを用意。日替わりでゲストが共演するコラボ企画を実現した。今夜はその最終日。オープニング・アクトはバードン木村+菊地成孔 w/ヘアースタイリスティックス。フライヤーには彼らが「スペシャル・ゲスト」と記載されていたので、共演するものだと思っていたのだが、実際はそうではなかった。100人超の観客の中には菊地ファンもいたと思うが、このアウェー的なライヴ空間で即興演奏家としてアルトとソプラノを吹奏した菊地に、リーダー・ライヴとは違う一面を聴いた。
 現地の構成員は22人のキッチン・オーケストラは、今回10人で出演。バック・スクリーンに映写する形で邦人美術家2人のライヴ・ドローイングとコラボレートした彼らは、昨年5月のMaiJazzで上演実績がある。ノルウェーのミュージシャンが広く多彩な活躍をする中、キッチン・オーケストラのメンバーは無名だ。しかし実力が確かなことは、ソロ・パートで次第に明らかになった。ツイン・ドラムは近年の同国のトレンドとも重なる。1時間超、ノンストップの即興演奏を展開した。

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2012年05年20日  第4回サマー・ジャズ・レヴォリューション

2012年05月20日

 邦人の若手を中心としたジャズ・フェスティヴァルが、今回初めて渋谷さくらホールで開催された。過去43回の実績がある《サマー・ジャズ》がヴェテランの著名ミュージシャンが多数出演するのに対し、主催者の日本ポピュラー音楽協会(日音協)が才能ある若手を紹介するために始めたイヴェントの第4回である。まず進行役のグレース・マーヤ(p,vo)が弾き語りで1曲披露。続いての椎名豊(p)“フューチャー・スイング”は、本祭のために企画されたクインテット。纐纈歩美(23)+中島あきは(19)の女性2アルトがフレッシュだ。チャーリー・パーカーの「オー・プリヴァーヴ」では、共にビバップのしっかりとした基礎体力を身に着けていることを証明した。寺久保エレナに迫る実力者の中島は、今秋から奨学金を得てバークリー音大に進学する予定で、卒業後にはどれだけ成長しているか、今から楽しみだ。井上銘(g)が自己のグループでステージを務めた後、フライド・プライドの横田明紀男と初めての超世代ギター・デュオで演奏した「サマータイム」は、今夜の収穫の1つ。トリのエリック・ミヤシロEMバンドは、ビッグバンドに情熱を燃やし続けるエリックのリーダーシップが見事。トランペット&フリューゲルホーンは、いつ聴いても惚れ惚れする。アンコールではエリックの師メイナード・ファーガソンの当り曲「ロッキーのテーマ」で、観客にエネルギーを与えてくれた。来年もこのホールでの開催を望みたい。

2012年05月21日  米国老舗ロック・バンドが六本木に初登場

2012年05月21日

 リトル・フィート@ビルボードライブ東京。69年に結成し、70年代にアメリカン・ロックの人気バンドとなるも、リーダー=ロウエル・ジョージの脱退と急逝によって79年に活動休止。88年の再結成後は現在まで、一部メンバーが交代しながらライヴとレコーディング活動を継続している。79年に初来日した彼らは、89年、99年と日本のステージに立っており、今回は久々の来日となった。ロックやソウルの長寿バンドの中には、すでにオリジナル・メンバーがほとんど在籍していないにもかかわらず運営されているケースもあるが、今回のリトル・フィートは6人中、4人が第1期のメンバーだ。ドゥービー・ブラザーズ、オールマン・ブラザーズ・バンドなど、70年代のロック・バンドがそうだったように、リトル・フィートもポール・バレールとフレッド・タケットのツイン・ギターが大きな魅力だ。2人に加えて、ビル・ペイン(key)とサム・クレイトン(per)がリード・ヴォーカルを取れるのも強みと言える。それにしてもほとんどを埋め尽くした客席には、熱狂的なファンが多い。演奏中にじっと聴いている者は少なく、手を上げたり喚声を発したり、踊り場で踊り続けたりと、年季の入ったファンのエネルギーがステージの音楽とシンクロして、大きなうねりを生じさせた。70年代ロックの生命力を体感した一夜であった。

2012年05月26日  フィンランド伝統音楽の巨匠たち

2012年05月25日

 毎年恒例の「フィンランド・フェスト」の関連ライヴが、白寿ホールで開催された。アルト・ヤルヴェラ(vln)+マリア・カラニエミ(accordion,vo)+ティッモ・アラコティッラ(p)と、同国の代表的な伝統音楽家が出演。音の予備知識がない状態で着席すると、ステージでは3人が曲によってソロ、デュオ、トリオと出入りし、トラディショナルのみならず、ダンス、タンゴ等で楽しませてくれた。各人の高いスキルはもちろん、音楽家としての真摯な姿勢が伝わってきたのが好感。旧知のRockAdillo主宰者タピオ氏やFIMICのヘリ・ランピさんとロビーで談笑した。

2012年05月25日  恒例のジャズ祭のクラブ公演

 秋の開催が定例化している《富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル》が、今年は春に前倒しとなった。今夜は“Tokyo Tuc”でシーネ・エイ&ブルース・ハマダ4を観た。会場は立ち見も出る超満員。前半はハマダが主導する形で進行した。“ハワイ最高の歌うベーシスト”のキャッチコピーがあるハマダは、エルヴィス・プレスリー歌唱で知られる「ラヴ・ミー・テンダー」をカヴァー。リッキー・ウッダード(ts)はソウルフルな吹奏と巧みなオブリガードで存在感を示した。後半に進んでようやくシーネが登場。ジム・ハワード(p)、ジョー・ラバーベラ(ds)を含むメンバーとはおそらく初共演となるステージで、シーネはデンマーク人として、敢えて王道ジャズ・ヴォーカルの土俵で勝負しようとの決意があったことを滲ませた。自身のアルバム収録曲「春の如く」は、少しテンポを落としてじっくりと表現。事前情報とは異なり、映画音楽主体の選曲だったが、会場に集った多くの初体験と思われるリスナーには、シーネの実力が体感できたと思う。終演後は同席したディスクユニオン山本氏と場所を移して、編集会議。次号の「Jazz Perspective」にも期待してほしい。

2012年05月29日 テナーサックスの新旗手が丸の内に登場

2012年05月29日

 マイケル・ブレッカーの他界後、クリス・ポッターがその空席に最も近いテナー奏者として評価を高めてきた。今夜は自己のユニット“アンダーグラウンド”を率いてCotton Clubに出演。ポッターは様々なユニットを率いてきたが、このカルテットは鍵盤奏者が不在なのが特徴。そして実際にライヴを初体験してみると、エレクトリック・ギターとエレクトリック・ベースの存在が、鍵盤の不要に説得力をもたらしていることが理解できた。ステージは新曲「スモール・ワンダー」でスタート。ジョン・コルトレーンに迫るハードなマウスピースを敢えて使用することによって、アグレッシヴなテナー・サウンドを響かせるポッターは、ブレッカーの後継者を無言のうちにアピールした。場面転換を織り交ぜながらのステージは、近年ぼくが体験しているライヴに照らし合わせるとNYのトレンドなのかなとも思った。

2012年05月31日  ノルウェーのオーガニック・トリオ

2012年05月31日

 エプレ・トリオ@大泉学園 “in F”。エプレ(Eple)とはノルウェー語で「りんご」の意味であり、「ファスト・フード的音楽へのヘルシー・オルタナティヴ」を象徴する言葉として使用している。その演奏は唐突な変化は生じず、静かに進行しながら自然な風景を描き出す。アンドレアス・ウルヴォはフレイ・オーグレ(ss)のレギュラー・ピアニスト等で活躍し、昨年リーダー作『Light And Loneliness』をリリースした新世代の注目株。昨年7月に《コングスベルク・ジャズ・フェスティヴァル》を取材した時に会っていて、今夜は1年ぶりの再会となった。

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