Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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王道ピアニストがトリオで丸の内に登場

2012年02月02日

 拙著『ジャズと言えばピアノトリオ』第4章で、現代のトップ・ピアニストとして紹介したベニー・グリーンが、トリオで“Cotton Club”に出演した。「ケニー・ドリュー」「ジャッキー・マクリーン」「ソニー・クラーク」と、ジャズ・ミュージシャンの名前を冠した次作のための自作曲を連発し、自身のバックグラウンドを表明。来日直前に初めてタイを訪れて、その時にとっても寛いだ環境を味わったゆえに作曲できたバラード「ゴールデン・フラミンゴ」を先行披露してくれた。ホレス・シルヴァー曲「ドゥードリン」でも本領を発揮。日本との深い結びつきによって、今日の自身があることを感じているステージ・マナーに好感を抱いた。
●Benny Green(p) Ben Wolfe(b) Rodney Green(ds)

新世代ベーシストがトリオで丸の内に出演

2012年02月08日

 上原ひろみソニックブルーム(SB)での活躍が大きな飛躍となったトニー・グレイが、“Cotton Club”に登場。前回2008年12月の同店出演時は、ピアノ+ドラムスとのトリオにグレゴア・マレイ(hmca)が加わったクァルテットだったが、今回はメンバーを一新。SBのメンバーでもあるデヴィッド・フュージンスキ(g)と、フュージョン界のヴェテラン・ドラマー、ジーン・レイクとのトリオを結成した。まったくコンセプトを変えたユニットは、グレイの自作曲の他、「ブルー・イン・グリーン」「フリーダム・ジャズ・ダンス」といったスタンダード・ナンバーを織り交ぜて構成。フュージンスキがSBと同様にダブル・ネックで2種類のギター・ヴォイスを表現すれば、レイクは超絶テクニックで何度も爆発する。キャリアも知名度も高い2人を得たことが、今のグレイの充実度を物語る一夜だった。

2012年02月09日  銀座に新たなジャズ・クラブが誕生

2012年02月09日

 ソニー・ビルの前から新橋方面へ右側の歩道を進み、洋菓子店ウエストの少し先のビルB1に新しいジャズ・クラブがオープンする。今夜は14日に営業を始める“No Bird”のプレ・イヴェントに出席した。70席ほどの店内は、ロン・カーターの息子が描いた横長の絵画が飾られていて、NY気分を盛り上げる。開演前にお酒とフル・コースの料理が提供され、食事をしながらジャズ関係者と懇談。このようなホスピタリティは90年代以来久しくなかっただけに、これは多くの出席者が感激したと思う。3月にロン・カーターのプロデュースによる新作『リトル・ワルツ』をリリースするmeg(vo)が、守屋純子6tetをバックに約1時間のステージを務めた。2006年のデビュー作から知っているが、生で観たのは初めて。ルックス先行の印象もあったが、いいやどうして、ジャズ・ヴォーカリストとしての基礎力が高いことを証明した。音楽誌のため、来週megにインタヴューする予定だ。

2012年02月10日  ジャーナリスツ・チョイス Vol.10

2012年02月10日

 「スイングジャーナル」時代に「ジャズ・ディスク大賞」の部門賞で同じ選考委員だった中川ヨウさんが企画する、渋谷JZ Bratでのライヴに足を運んだ。今夜はベーシスト藤原清登のJump Monk Bass Band Specialが出演。10人編成ゆえ、キャパシティ30人以下のジャズ・クラブでは成立しないこともあって、これはレアなライヴである。ぼくもウッド・ベース5人のジャズ・バンドは、初体験となった。まずは藤原の独奏による「アメイジング・グレイス」で重厚にスタート。藤原が主旋律を奏で、4人のベーシストがアルコで加わると、かつて聴いたことのない種類の音の厚みが響いた。チャールズ・ミンガスから大きな影響を受けた藤原は、「直立猿人」をミンガスがやっていない編成でリメイクし、オリジナリティと共にトリビュートを表明。藤原の教え子である卒業生を中心とした若手との共演で、中では宮木謙介(bs,fl)が光った

2012年02月12日  新人ヴォーカリストのデビュー・ライヴ

2012年02月12日

 1月にデビュー作『Marguerite』をリリースした粟田麻利子の記念ライヴを、渋谷タカギクラヴィア松濤サロンで観た。約50席の天井が低い会場は、インティメイトな空間。ピアノ+ベース+パーカッションの3人をバックに、2ステージを務めた。事前に同作を聴いていたのだが、そのイメージに違わぬ歌唱が収穫。クラシック声楽の素養があるような歌声は、地声とファルセットを巧みに往復しながら、自分の世界を表現する。MCでは米国在住時代のエピソードを交え、気さくなキャラクターも披露。英語歌詞曲と日本語歌詞曲が並んだプログラムは、「歌のお姉さん」の呼称がぴったり来る持ち味を醸し出した。アーティスト写真よりも実物の方が若い印象だったことも、付記しておきたい。

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●photo: Toshio Tsunemi

2012年02月14日  アカペラ・グループが待望の来日

2012年02月14日

 昨年、来日公演がアナウンスされながら、キャンセルになったテイク6が、1年越しのコンサートを「すみだトリフォニーホール」で実現させた。<ジャズ&クラシック・ナイト>と題した2部構成だ。第1部は6人だけのステージで、ナット・キング・コールのテーマ曲として知られる「ストレイトン・アップ・アンド・フライ・ライト」からスタート。各メンバーが影響を受けた音楽のカヴァー・コーナーでは、プリンス、アース・ウィンド&ファイア、ドゥービー・ブラザーズと、70?80年代のソウルフルなナンバーを通じて音楽ファンの原点を披露。マイケル・ジャクソンそっくりに演じたパートは、観客に大受けだった。第2部に進むと、新日本フィルハーモニー交響楽団との共演で、さらに華やかに。スタンダード・ナンバーの「ジャスト・イン・タイム」「スマイル」でジャズ・コーラス・グループとしての確かなスキルを聴かせ、「ビゲスト・パート・オブ・ミー」で長年のファンも満足させる。結成から四半世紀を迎えた今も、新鮮な魅力を発するステージを楽しんだ。

2012年02月15日  新作を控えたヴォーカリストを取材

2012年02月15日

 これは偶然なのだが、先週「銀座ノーバード」のオープン記念会で初めてステージを観たmegに、渋谷のオフィスでインタビュー。終演後に挨拶をしていたので、今日は1週間ぶりの再会となった。2007年のデビュー作『Grace』のプロモ盤と、サイン付きで受け取っていた2009年作『Luck & Pluck』を最初に見せて、一気に距離が縮まった。最近ではゴルフ石川君でお馴染みの英会話教材スピードラーニングの体験者としてCMに出演し、タイアップ曲も歌っている。こちらの質問に対し、終始明確に答えてくれて、愛らしい人柄に触れられたのが収穫。ロン・カーターがベース、編曲、プロデュースを手がけた新作『リトル・ワルツ』は3月21日リリース。取材原稿は3月20日発売の「CDジャーナル」に掲載予定だ。

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2012年02月22日  モンク・コンペの優勝歌手が2度目の来日

2012年02月22日

 2004年度セロニアス・モンク・コンペティションで優勝したグレッチェン・パーラトが、2009年に続き来日。丸の内“Cotton Club”で2日目のファースト・セットを観た。昨年リリースの第3作『ロスト・アンド・ファウンド』はロバート・グラスパーとの共同プロデュースで、新境地を開拓。同作参加メンバーのテイラー・アイグスティらのトリオを従えて、約70分のステージを務めた。同作からの「ホールディング・バック・ジ・イヤーズ」で観客の心を掴むと、スキャット&クラップで雰囲気を作るハービー・ハンコック作曲の「バタフライ」、イントロで長めのベース・ソロをフィーチャーしたウェイン・ショーター作曲の「ジュジュ」、ピアノとのデュオの斬新なアレンジによってセロニアス・モンク曲を自分のものにした「アグリー・ビューティ」と進み、今世紀に登場した囁き系ヴォーカリストの中でも他者との差別化をアピール。ピアノとキーボードを巧みに操り、ハービーからの影響を表明したアイグスティと、終始刺激的なビートを送り続けたジャスティン・ブラウン(ds,b-vo)の好助演も特筆したい。

2012年02月23日  フィンランドの人気ユニットが再結成

2012年02月23日

 2005年に始動するや、ヨーロピアン・ニュー・ジャズ界のトップ・ユニットに躍り出たファイヴ・コーナーズ・クインテットは、2010年のブルーノート東京での公演を最期に、活動休止状態だった。今回2年ぶり、3日間の来日公演が実現。開演前には過去のFCQのステージと同様に、須永辰緒がDJで会場の空気を醸成した。モダン・ジャズ黄金時代の熱気を今に甦らせるため、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズに範を取ったユニット、がバンド・コンセプトの原点。当夜もスーツを着こなした5人が、ステージを務めた。2日前にはNHKの番組に生出演し、ジャズの普及に貢献したことも改めてアナウンスしたい。トランペットのユッカ・エスコラとは2005年にヘルシンキのジャズ・フェスティヴァルを取材した時に、知り合っていて、今夜は終演後に旧交を温めた。実は須永さんの強力な後押しによって、このリユニオンが実現したことを、終演後に本人からヒアリングした。
●Jukka Eskola (tp) Timo Lassy (sax) Mikael Jakobsson (p) Antti Lötjönen(b) Teppo Mäkynen(ds)
●1.STRAIGHT UP 2.UNSQUARE BOSSA 3.THREE CORNERS 4.SKINNY DIPPING 5.VERSILIANA SAMBA 6.SHAKE IT 7.BLUEPRINT

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2012年02月24日  女性リーダー・ビッグバンドの定期公演

2012年02月24日

守屋純子オーケストラ 2012年定期公演@渋谷さくらホール。1月にリリースされた『Into The Bright Decade』の収録曲が中心のプログラムだ。昨年2月に行った前回の定期公演の1ヶ月後に東日本大震災が起こり、守屋は日本に対する意識がより強くなったという。そうして生まれた新曲「フォーエヴァー・ピース」は小池修(ts)をフィーチャーして、平和への願いを表明。セカンド・セットで出色となったのが、「等伯組曲」だ。守屋が石川県七尾市で子供たちのビッグバンドを指導している縁で、同市出身の画家、長谷川等伯の国宝・重要文化財に指定されている絵画<楓図壁貼付><仏涅槃図><枯木猿猴図>にインスパイアされた楽曲。これも日本を再認識した成果と言えよう。アルバム未収録曲「トラヴェリング」での、エリック・ミヤシロのフリューゲルホーン・ソロは絶品だった。本邦ビッグバンド界にあって、トップ・クラスのミュージシャンがほとんど変わらない陣容で、10年間以上も活動を継続。日本が誇るビッグバンドである。

2012年02月25日  横浜の授賞式と新宿のライヴ

2012年02月25日

 「スイングジャーナル」は2010年07月号をもって休刊となった。しかしそれからわずか2ヵ月後には、編集スタッフがほぼそのままスライドする形で「ジャズジャパン」が創刊。2年目のタイミングで、かつての《ジャズ・ディスク大賞》をリニューアルしたと言える《ニッサン・プレゼンツ・ジャズジャパン・アワード2011》が制定された。選考委員の1人として喜ばしいことだと思う。昼過ぎには横浜・日産グローバル本社ギャラリー2F「NISSAN ホール」で、発表授賞式が開催された。記念すべき第1回の受賞者は山中千尋、ソイル&“ピンプ”セッションズ、井上銘ほか。最後に受賞者の集合写真を撮影した。15:00からは受賞者が1Fのオープン・スペースで、記念ライヴに出演。トップ・バッターのソイルはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの「イン・ケース・ユー・ミスト・イット」で観客を盛り上げ、ブレッカー・ブラザーズの「サム・スカンク・ファンク」で勢いを増した。トリを務めた山中トリオは、エネルギッシュなプレイで観客を魅了した。
 新宿へ移動し、CDショップをチェックしてからピットインへ。NY在住の邦人フルーティスト Yukariのライヴを初めて観た。東京外国語大学時代に20ヵ国以上を訪れて、音楽家生活を志し、マンハッタン音楽院を卒業。2009年に世界で唯一の米ジャズ・フルート・コンペのファイナリスト。2010年にはジャズを師事したグレッグ・オズビーのInner Circle Musicから、ベン・モンダー、トーマス・モーガン、グレッグ・ハッチンソン参加のリーダー作『ドリームス』をリリースと、輝かしい実績を積んでいる。ステージではオリジナルとスタンダード曲、チャーリー・パーカーやウェイン・ショーターのジャズ・ナンバーを演奏。ぼくが知る邦人女性フルーティストの中では、最も好きなタイプだと思った。共演者では元urbの菱山正太の好演を特筆したい。
■Yukari(fl) 菱山正太(p,key,laptop) 安田幸司(b) 大村亘(ds) 
●Fee-Fi-Fo-Fum, I’ll Remember April, Middle East, Framboise, Darn That Dream, Billie’s Bounce, On Green Dolphin Street & others

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Photo:Toshio Tsunemi

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