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2012年03月01日
「マイルス・デイヴィス・アルムニ・スーパー・セッション」@ビルボード東京ライブ。80年代のマイルスと所縁のある5人のミュージシャンが集結。バンドの要となるトランペッターは、晩年のモントルー・ジャズ祭で影武者を務めたそっくりさん世界一のウォ?レス・ルーニー。ルーニーにしてみれば、最も本領が発揮できる場を得たばかりでなく、腕利きたちと共演できるわけで、好演が期待できた。1曲目ではロベン・フォードがマイルス・バンド時代の気分を自身に甦らせたかのような熱演で、いきなりの収穫。5人の中では唯一、マイルス・バンド出身者ではないオマー・ハキムは、プロジェクトの趣旨に賛同した強力なプレイで貢献。この顔ぶれでは裏方的な印象があるダリル・ジョーンズは、アンコールの「ジャン・ピエール」で存在感を光らせた。
■1.Splatch 2.Blues MD 3.So What 4.Maze 5.Decoy〈encore〉Jean Pierre
●Wallace Roney(tp) Robben Ford(g) Joey DeFrancesco(org) Darryl Jones(el-b) Omar Hakim(ds)
2012年03月03日
ジェシ・ヴァン・ルーラー@丸の内Cotton Club。モンク・コンペ優勝者の華々しいデビュー以降、コンボからビッグバンドまで様々なプロジェクトでキャリア・アップを進めてきたジェシが、2010年発表作『チェンバートーンズ』のトリオで、再び来日した。今回は同トリオの第2弾『ザ・ナインス・プラネット』のレコ発公演である。デビュー作に因んで“チェンバー・トーンズ・トリオ”を名乗ったことで、さらにユニットの結束力が固まった印象だ。新作のタイトル・ナンバーで始まったステージは、オリジナル曲と「ラッシュ・ライフ」「アイソトープ」のようなジャズ・ナンバーで進行。曲の中でピック使用と指弾きを器用にチェンジするジェシのギター・テクニックに、改めて目を見張った。60年代のジミー・ジュフリーがバンド・コンセプトの源泉だが、そこにヨーロピアンらしい端正なスタイルと、米国産ジャズへの憧憬が重なって興味深い。どちらかと言うとコアなジャズ・ファン向けのユニットに、多くの集客があったことも特筆したい。
●Jesse Van Ruller(g) Joris Roelofs(cl,b-cl) Clemens Van Der Feen(b)
2012年03月07日
(以下はぼくが執筆者を務めるアサヒ・コムの、既発原稿の一部を抜粋/加筆したものである)。
エスペランサ・スポルディング『ラジオ・ミュージック・ソサイエティ』の3月21日の国内盤発売を控えた今月7日、同作のミュージック・ビデオ試写会が、東京・原宿のカフェで開催された。アルバム全曲のために、エスペランサが主役を演じたMVを制作。歌詞の世界を描いた映像は、1曲ごとにストーリーが存在する。同居中の男性にそろそろ飽きていた彼女は、ある女性と知り合って親しくなる一方で、カフェの男性従業員に恋心を抱くものの、彼は同性愛者だったと判明。ウッド・ベースを積んだ車を運転すると、野外で演奏中の楽団に出会って飛び入りで共演。道路が渋滞したために本番に遅れ、やっと会場に到着した時には、メンバーから愛想を尽かされてしまうが、1人で歌とベースを始めるとすっかり彼女たちを魅了。また学校でアフリカの歴史をほんの少しだけ習ったという子供に、父親が直接補って教えるシーン等、エスペランサのアイデアが盛り込まれていて興味深い。短いエピソードの連続による合計約60分の映像は、限られた予算の中で、スペインの撮影チームの大きな協力を得て制作されたものであり、音楽家にとどまらず女優としての今後にも期待を寄せたくなる仕上がりだ。以上の試写が終了したところで、プロモーションのために来日したエスペランサ本人が登場し、質疑応答に続いて参加者とミート&グリート。初めて直接会話をして、キュートなルックスと愛さずにはいられないキャラクターに、たちまち魅せられてしまったのだった。
2012年03月09日
TOYONO(vo)@JZ Brat。これまで何度も彼女のステージを観ているが、今回の編成は初めてだった。越田太郎丸(ac-g)+柏木広樹(cello)との“トリオ・カラフル”。ここにクリス・シルバースタイン(b)+石川智(ds,per)が加わって、アコースティック主体のサウンドがTOYONOの歌声をバックアップする。越田と柏木は10年以上前からの共演関係にあり、2人の掛け合いが白熱する場面も。チェロがブラジル音楽と親和性が高いことは、ジャキス・モレレンバウムが参加したパオロ・フレス&オマール・ソーサの新作『アルマ』で再認識したばかりで、初めてライヴを観た柏木の巧みな演奏も今夜の収穫となった
2012年03月11日
それぞれが特別な思いを胸に迎えたであろうこの日。ぼくは旗の台にある日本聖公会東京教区三光教会を訪れた。「東日本大震災チャリティー・コンサート」に出席するためである。きっかけは中学の同級生で、現在は画家として活躍する林 果(はやし・このみ)さんから案内をいただいたこと。「癒し」をテーマに創作活動を続けていた彼女が昨年、リヨンで個展を開催し、そこでフランス在住の琴奏者ホップウッド・祥子と知り合って意気投合。今日のコンサートが実現したというわけである。ステージには林さんが和紙にアクリル絵の具で描いた作品4点を展示。木管ユニット、詩吟、琴と、和と洋が融合したパフォーマンスが披露され、14時46分には出席者全員で黙祷を捧げた。
2012年03月12日
ジャン=ミシェル・ピルク、ケニー・ワーナー、クリス・ポッターとの共演を通じて、新世代実力派ドラマーの名声を高めていたアリ・ホーニグが、丸の内Cotton Clubに出演。NYのドラム・シーンは過去20年間でたいへんな技術革新が進み、多くの優秀な黒人を輩出している。その点でホーニグは白人の筆頭格だ。初めて観たリーダー=ホーニグは、ここぞとばかり自分流儀を全開にしてリーダーシップを発揮。共演者はイスラエル旋風の1人であるギラッド・ヘクセルマン、ベースのアヴィシャイ・コーエン・トリオのブルーノート東京公演でその実力を体感していたシャイ・マエストロ、近年多方面で目にするオーランド・レ・フレミングと、旬な新世代が名を連ねた。アンコールでは1人で登場し、マレット使用で「上を向いて歩こう」を演奏。サービス精神に感激した。
■1.Ephemeral Eyes 2.Con Alma 3.Billie’s Bounce 4.Seraphic 5.Arrows & Loops 6.unknown [encore] Sukiyaki
●Ari Hoenig(ds) Gilad Hekselman(g) Shai Maestro(p) Orlando le Fleming(b)
2012年03月14日
Ryu Mihoという女性歌手のライヴを観たことはなかったが、先日『ジャズジャパン』からの原稿依頼を受けて詳しくリサーチした。その時はインタヴューがNGだったため、資料を駆使してインタヴュー仕様にまとめた経緯がある。それは事務所の方針だったのだが、今夜はCDだけでは知ることのできない彼女の実像を確認したい気持ちがあって、渋谷JZ Bratへ足を運んだ。そして結果は、自分ができるパフォーマンスを誠実に実行した点で、好感度の高いパフォーマンスだった。新作『…And You Will Find Me』の最後に入っている自作曲「ガラスのhonesty」をアンコールで歌唱。昨今の潮流として、ジャズとポップスの間を追求する歌手が強くて魅力的、を再認識した。
■[First Set] ?Dindi ?My Favorite Things ?Perhaps, Perhaps, Perhaps ?Waltzing Matilda ?Smoke Gets In Your Eyes ?Let Us Go To The Wood ?Time After Time [encore] Honesty Of Glass
●Ryu Miho(vo) 安部一城(g) イチタカタ(b) よしうらけんじ(per) 持山翔子(p) 浅井眞理(vln)
2012年03月15日
前日に初リーダー作『Patterns』を全国リリースした高澤綾を、赤坂B flatで観た。本来ならばフル・アルバムが理想形なのだが、とにかくこのタイミングで自分自身をアピールするために、5曲入りのミニ・アルバムを制作したという経緯がある。普段ライヴで共演している若手とのクインテットによるレコーディングは、邦人女性のソロ・アクトとしては他楽器に比べて決して人材が豊富ではない点を含めて、高いポテンシャルを示す内容だ。今夜は2人のレコーディング・メンバーを含むクインテットで演奏。オリジナルとスタンダード・ナンバーに加えて、敬愛するフレディ・ハバードのナンバーを3曲採用。以前はライヴのオープニングで演奏していた「バードライク」を、終盤に持ってきたのは正解だった。高澤がこのメンバーと共演を重ねる間、彼らもリーダー作を発表するなどポジションを上げている。高澤クインテットは充実の若手邦人の好例と言えよう。
■高澤綾(tp), 西口明宏(ts), 石田衛(p), 安田幸司(b), 大村亘(ds)
2012年03月16日
ビリー・チャイルズというピアニストは米国での実績に比べて、日本では過小評価に甘んじていると言わなければならない。これまでサイドマンとしての来日経験はあるが、リーダーとしての公演は今回が初めてだ。メンバーはチャイルズ(p)、スティーヴ・ウィルソン(sax)、スコット・コリー(b)、ブライアン・ブレイド(ds)と、チャイルズの作品に参加している著名人であり、それだけでも食指をそそられる。近年はコンセプト作に力を注いでいることを反映して、今夜のステージも色彩感と物語性に富んだサウンドを披露してくれた。昨年の来日公演では椅子から転げ落ちるほどの熱演を見せたブレイドは、単なるリズム・キーパーではなく、抜群のセンスでエネルギーと新鮮な音風景をもたらした。集客も良好で、これをきっかけにチャイルズが再認識されることを望みたい。
2012年03月17日
ハクエイ・キム@原宿クエストホール。2月に昨年の2つのステージを収録したDVD『ソロ・コンサート』をリリース。現在はトリオと並行してソロ・ピアノを活動の柱に打ち出している。開演前の会場は昨年末のソロ作『ブレイク・ジ・アイス』をイメージした、アロマ空間デザイナー、江頭香織による心地いい香りに包まれた。観客の約8割が女性ゆえに、このサービスも納得できる。演奏はオープニング曲の定番と言える「ウィンター・フェスティヴァル」でスタート。オーストラリア時代の体験をモチーフにした「ロスト・イン・ニュータウン」や、トライソニークのレパートリーでもあるデイヴ・ブルーベック曲「テイク・ファイヴ」等で2ステージを務めた。アンコールではハクエイが音楽を手がけた6月公開の映画「道?白磁の人?」のテーマ曲を演奏し、ステージ背景のスクリーンに映写されたダイジェスト・シーンと融合。また客席にいた映画出演者の手塚理美らが紹介されたのも、ファンへの嬉しいプレゼントとなった。
2012年03月19日
昨年11月に3年ぶりの新作『ミュージック・イン・ユー』をリリースし、メディアでも話題の西山が、同作のレコーディング・メンバーと渋谷JZ Bratに出演。他の2リズムとのトリオでライヴ・スポットに出演する場合もあるが、西山にとって佐藤“ハチ”恭彦(b)+池長一美(ds)とのトリオは特別な思いがあるのだろう。今夜は同作では1曲のみの参加にとどまっていた橋爪亮督(ts)が参加。ぼくが西山と橋爪の共演ステージを観たのは初めてだったが、トリオで認識していたレパートリーをカルテットで聴いてみると、ピアノとテナーの音のテイストがマッチしていることに気づき、これが最大の収穫となった。両者はいずれ全編で共演するフル・アルバムを制作する時が来るのではないかと思う。
2012年03月22日
ライラ・ビアリ@丸の内Cotton Club。バンクーバー出身のシンガー&ピアニストは、スティング、クリス・ボッティらのバックを務めてステージ・アップしてきた。今夜はトリオでのパフォーマンスだ。まずジョニ・ミッチェルとダニエル・ラノワの楽曲をカヴァーして、母国の豊穣な音楽背景をアピール。ハワイでの体験を活かして、ウクレレを弾きながら「ナイト・アンド・デイ」を披露する一幕もあった。終盤では「ワン・ノート・サンバ」でブラジル音楽への強みを示し、ピアニストとしての強力なポテンシャルも印象づけた。手数の多いドラマーの助演も特筆したい。
●Laila Biali(vo,p) George Koller(b) Larnell Lewis(ds)
2012年03月23日
SHANTIとは数年前に渋谷で行われたジャズ・ライヴで関係者から紹介されたのが初対面だった。2010年にアルバム・デビューすると、現在に至るまで約半年の間隔で新作をリリース。ヴォーカリストとしてのキャリアを短期間で積み重ねてきた。今夜は最新作『ロータス・フラワー』の記念コンサートを、渋谷マウントレイニアホールで観た。初体験となったSHANTIのステージはポップスにも対応できるバンドを得て、テンポ良く進行。英語と日本語を織り交ぜたMCは観客の心を上手につかんでいて、バイリンガル歌手に共通する美点だと改めて痛感させられた。途中3名のコーラスが加わり、ステージは一層華やいだものに。フォトジェニックなルックスゆえ男性客が多いと思いきや、女性からの声援も数多く、さらにファンを拡大していくことが期待される。
2012年03月24日
2005年にヘルシンキで知り合ったニクラス・ウィンター(g)とは、日本デビュー作のライナーノーツを書いて関係が深まり、その後も折々に連絡を取りながら現在まで繋がっている。ニクラスからのメールでインフォをもらっていた来日ステージを、外苑前“Z imagine”で観た。初めて訪れた同店は細長い造り。カウンターに着席すると、しばらく経ってニクラスが現れてミート&グリート。今夜のバンドは初共演となるニクラス+安田芙充央(p)+井野信義(b)のトリオだ。MCを務めた安田によれば、昨年、安田のCDを聴いて感銘を受けたニクラスからメールが届き、日本での共演を提案されたという。プログラムはデイヴ・ホランド曲、ポール・モチアン曲「It Should’ve Been A Long Time Ago」、3人共通のレパートリーであるチャーリー・パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」、安田と井野のオリジナルと、多彩。ニクラス人気が日本で着実に根を広げていることを確認できた。
ファースト・セットで同店を後に、六本木“ビルボードライブ東京”へ移動。若手SSWターラ・プリーヤを観た。インドとペルシャの血筋というエキゾチックな美貌のターラは、フレッシュなパフォーマンスを展開。トロント出身の6人編成のバンドは、男性5人がすべて白シャツ&ネクタイ姿で、古き良きオールディーズのムードを醸し出す。ターラはファンの受けも上々で、順調な本邦デビューとなった。
2012年03月31日
シーラ・ジョーダン@ピットイン。今回はピーター・ミケリッチ(p)、原朋直(tp)がサポート。シーラには思い入れがある。1981年夏に初めて全米横断旅行をした時のこと。ニューヨークのシティー・コープ・センターで開催されたフリー・コンサートで、シーラ&ジョアン・ブラッキーンのデュオを観た。当時ブラッキーンはレコードで聴いていたが、シーラは初体験。とても印象的なステージだった。その後シーラはたびたび来日しているが、あまり観る機会はなく、アルバムを通じてフォローする期間が長かった。ビバップ期からジャズ・ヴォーカリストのキャリアを重ね、現役女性歌手としては最高齢の域に達している。しかしそのパフォーマンスは相変わらず自由奔放で、共演者がしばしば翻弄される場面もあった。ニワトリの鳴き真似を入れた「バッファロー・ウィングス」、ノンブレスで衰えぬ声量を印象付けた「ダット・デア」、エラ・フィツジェラルドのレコードを買ってスキャットの練習をしたエピソードを披露した「オー・レディ・ビー・グッド」、生まれてから10代までの出来事を歌詞に織り込んで83歳の今を示す「シーラズ・ブルース」。終演後に前記の81年のことをシーラに話すと、「ブラッキーンと共演したのはあの時だけだったわ」と、新事実を教えてくれた。いつまでもお元気で歌い続けてほしいと願っている。
●[2nd Set]:?Hello Young Lovers ?Buffalo Wings ?All Or Nothing At All ?The Moon Is A Harsh Mistress ?Dat Dere ?The Touch Of Your Lips ?Oh Lady Be Good ?Wouldn’t It Be Lovely ?Sheila’s Blues ?For All We Know
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