Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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ペナン・アイランド・ジャズ・フェスティヴァル初日

2011年12月01日

 成田からマレーシアの首都クアラルンプールまで7時間半。さらに1時間弱を乗り継いで、前日ペナン・アイランドに到着した。本日から4日間開催される≪ペナン・アイランド・ジャズ・フェスティヴァル≫の取材にやって来た。自分を含めて各国から招かれた関係者は、2008年にノルウェーの≪Mai Jazz≫で出会ったことがきっかけとなっていて、たちまち同窓会的なムードが生まれて嬉しい。昼間は「Heritage Tour of Penang」と題した名所観光のバス・ツアー。初めて訪れた場所は、アジア人としての自分自身を再考させられる機会にもなった。夕方からは植物園Tropical Spice Gardenを見学し、そのエリアにあるステージのSunDownで3組のライヴを観た。最も印象的だったのはSSWのリアナ・フィジー(vo,g)。地元で人気のアーティストであることがわかった。

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PIJF2日目

2011年12月02日

 午後2:00からホテル内のメディア・センターで、PIJFの記者会見が行われた。主催者の挨拶に続いて、シャカタク、エスペン・エリクセン、ミカエラ・ラビッチら出演者がコメント。その後の質疑応答ではアーティストの音楽性に迫る、鋭い質問も飛び出した。夜は当地で最も人気があるというチャーニーズ・レストランで、関係者と会食。香港、シンガポール等、アジアのフェスティヴァル・マネージャーと情報交換をした。10:30にPIJFのサブ会場である“G Spot”へ移動。ニーナ・ヴァン・ホーン(vo)Gのパワフルなステージを楽しんだ。

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PIJF3日目

2011年12月03日

 午前11:45からグランド・ボールルームで「The Island Jazz Forum」が開催された。今回招待された関係者の中から、All About Jazzのジョン・ケルマン、ノルウェーJazznytt編集長ヤン・グランリ、イタリアのジャーナリスト、ルカ・ヴィターリ、東京JAZZの八島敦子氏、香港国際ジャズ祭のピーター・リーの5名が、「Jazz ? Beyond The Music」をテーマにしたディスカッション。八島氏は東日本大震災の被災地を訪れたボブ・ジェームスのVTRを流しながら、日本のジャズ状況を語った。
 午後3:00からは同所での「Creative Malaysia Showcase」。中では10人編成のAseana Percussion Unitがダンスを交えた、多民族国家らしい音楽性を打ち出していて、興味深く観た。
 6:30からはいよいよホテルの野外に設置されたメイン・ステージでのパフォーマンスがスタート。トップ・バッターは地元のFred Cheah(vo) & The JazzHatz。アル・ジャロウの影響を受けたというだけあって、「I’ll Be Here For You」「We’re In This Love Together」をカヴァー。続いてはノルウェーのエスペン・エリクセン3。同国らしいトリオの空気感をそのまま東南アジアの野外ステージで展開しても、何の違和感もない。むしろインドア向きの音楽をこの環境で聴く興趣を味わった。3組目はオーストリアからミカエラ・ラビッチ&ロバート・パウリクに、タブラ奏者が加わったトリオ。ラビッチは同国で唯一の女性トランペッター&ヴォーカリストということで、オリジナル曲を中心に個性を発揮した。4組目は韓国のジヨン・リー3&4。ノー・マークだったが、今夜一番の収穫となった。日本に情報が入っていないだけで、同国の人材は侮れないと再認識。5組目はYuri Honing4。ロック調のエレクトリック・サウンドで、イギー・ポップ曲などを演奏した。トリを務めたのはシャカタク。毎年の来日公演が定番の英国バンドは、予想通り「インヴィテーション」「ストリート・ウォーキン」「ナイトバーズ」「ダウン・オン・ザ・ストリート」の人気曲を演奏。終演時刻は0:40だった。

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PIJF4日目

2011年12月04日

 正午からホテル内のボールルームで「Creative Malaysia Showcase」が開催。Amirah Aliグループは多民族国家らしさを反映した、エンタテインメント性の高い音楽性で、視覚的にも楽しませてくれた。現地の人気者らしいPaul Ponnudorai(vo,ac-g)は、「酒とバラの日々」等をヴェテランらしい達者な歌唱で聴かせ、巧みなギター・プレイと共に存在感をアピールした。
 夜のメイン・ステージ2日目。ノルウェー人女性歌手としては本祭初登場となるエヴァ・ベルガ・ホーゲンが、前日出演のエスペン・エリクセン3と共演。自ら親指ピアノを弾きながらの独唱曲、ベースとのデュオによるポルトガル語歌唱、アカペラとスキャットでジャズ・シンガーとしての確かなスキルを披露。マレーシアの歌をノルウェー語に訳して歌ったことで、観客との距離を縮めたのも良いアイデアとなった。日本でもお馴染みのスウェーデンを代表するギタリスト、ウルフ・ワケニウスは、実息エリックとのギター・デュオで登場。キース・ジャレット「マイ・ソング」やパット・メセニー「ついておいで」で、ウルフの嗜好を示しながら、父子らしい息の合ったアンサンブルを聴かせた。初体験となったスイスのピアノ・トリオRusconiはユニークな音楽性だと明らかに。ロック・イディオムを取り入れたサウンドはザ・バッド・プラスを想起させる。演奏前にメンバーからの指導を受けた「スクリーム」は、曲が始まると観客が自由に叫んでもいいという趣向。これは好評だった。インドネシアのRio Sidik(tp)はクァルテットのメンバーがステージで演奏をする中、トランペットを吹きながら会場を歩いて登場する演出で、観客の注目を集めた。マイルス・デイヴィスの影響を感じさせるフュージョン・サウンド。トリを務めたニーナ・ヴァン・ホーン(vo)はパリを拠点に活動するブルース&ロック・バンド。2010年だけで18ヵ国を訪れた実績のある、パワフルなパフォーマンスを繰り広げた。

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仏ピアニストが2年半ぶりに再登場

2011年12月07日

 2009年05月に丸の内“Cotton Club”に初出演したジャッキー・テラソンが、2年半ぶりに帰ってきた。3月中旬にブッキングされていたのだが、震災のためキャンセルとなり、このタイミングで仕切り直しの実現となった。フレンチ・ピアニストとしては80年代を代表するミシェル・ペトルチアーニに続き、90年代に頭角を現した才人。モンク・コンペ優勝から20年近く経った現在は、後続の若手から突き上げを受ける立場でもある。その意味で2010年リリースの最新作『Push』は、大手Concordへの移籍作ながら国内発売はされなかったため、テラソンの進化形が日本で広まるのは限定的にとどまった。今夜は同作の参加ドラマーであるジャマイア・ウィリアムスと、新規ベーシストのバーニス・トラヴィスとのトリオ公演だ。トニー・ウィリアムス作曲の「シスター・シェリル」で幕を開けると、マイケル・ジャクソン「今夜はドント・ストップ」をアダプトした「キャラヴァン」と、アメリカ「金色の髪の少女」似のリフでエネルギッシュに展開した「スマイル」が、テラソン演出の裏テーマのようで興味深い。ウィリアムスが期待に違わない演奏だったことも特筆したい。
●Jacky Terrasson (p) Burniss Travis (b) Jamire Williams (ds)

レコ発記念のスペシャル・ライヴ

2011年12月08日

 1月に大手移籍トリオ作『トライソニーク』をリリースしたハクエイ・キムが、移籍第2弾のソロ・ピアノ作『ブレイク・ジ・アイス』を完成。それを記念してソロ・ライヴが開催された。会場は恵比寿ガーデンプレイス内のヱビスビール記念館。通常ライヴは行われない空間が、逆に新鮮な雰囲気を醸し出していた。由緒あるヴィンテージ・ピアノに向って約50分間、集中力の高いパフォーマンスを披露。キャリア史上、最も充実した活動を記録した1年の締めくくりに相応しいステージだった。

R&B歌手の競演ステージ

2011年12月09日

 ジョニー・ギル&キース・スウェット@ビルボードライブ東京。90年代にニュー・ジャック・スウィング隆盛の一角を担ったギルと、同年代にソロ・ヴォーカリストとして人気を集め、デビュー曲「メイク・イット・ラスト・フォーエヴァー」がポール・ジャクソンJr.もカヴァーしているスウェットのジョイント・ステージだ。2人はそれぞれ今年、新作を発表しており、ファンには絶好のタイミングとなった。ギルの方が押し出しが強い印象の共演パートから、ギルのソロ・コーナーに進むと、ギターを弾きながら「ザ・クリスマス・ソング」を歌唱。時期的なサーヴィス・ナンバーとなった。「マイ・マイ・マイ」ではアリーナ席の女性ファンに、バラをプレゼント。こんなキザな演出は、まだバブルの残り香があった90年代初めの良き時代を想起させて、ファンには大受け。エンタメ精神たっぷりの2人による、満足度の高い90分のショーだった。

今年は2人でさとがえりツアー

2011年12月11日

 矢野顕子&上原ひろみ@NHKホール。先ごろ共演作『ゲット・トゥゲザー』をリリースしたばかりのタイミングでの東京公演だ。TV番組での共演がきっかけとなってコラボを重ねてきた両者は、先日放送されたNHKの特番でも、どれだけ“師弟協調関係”を深めているかが明らかになっている。上原は歌を歌わない。それを踏まえれば、上原にとっての理想的な声が矢野だと解釈することも可能だ。それぞれが楽曲を持ち寄り、ソロ・コーナーも盛り込んだ2部構成。アンコール曲終了後、場内が明るくなり、BGMが流れても拍手が止まない。しばらくして、2人は予定外の2度目のアンコールに応えて再登場。故郷・静岡の茶畑のイメージから生まれた上原のオリジナル曲「グリーン・ティー・ファーム」を演奏。上原のピアノと矢野の歌唱が静かに共鳴し、感動が広がった。

今夜は六本木?新宿

2011年12月17日

 2009年の久々の来日公演が反響を呼び、翌年の来日ライヴが2枚組ライヴ作『フォーエヴァー・ラスティング』としてリリース。グラミー賞ジャズ部門の編曲賞にノミネートされ、すでに米国の代表的ビッグバンドと評価を受けているヴァンガード・ジャズ・オーケストラを、ビルボードライブ東京で観た。この日、VJOが使用しているスコアの編曲者として所縁の深いボブ・ブルックマイヤーの訃報が届いたこともあって、何らかの形で追悼を表明すると思っていたところ、MCと共に「ABCブルース」を演奏。アンコールではVJOの来日に尽力している宮嶋みぎわがピアノに向かい、本人が書いた新曲を世界初演。宮嶋にとってはこれまでの労苦が報われる場面となった。
 新宿に移動して<北欧ジャズ現在進行形>@ピットインを鑑賞。フィンランドとノルウェーのグループを柱に、邦人ミュージシャンとコラボレートするプログラムだ。前者のオッダランはtb+el-g+el-b+cello+ds(p)のクインテット。すでにレコディングの実績がある彼らが、独特な楽器編成から生まれる柔らかいサウンドを聴かせた。続いて登場したノルウェーのスタイナー・ラクネス(b)・クァルテットは、音楽に対する真正面からのアプローチにより、メンバー全員の高いスキルを印象付けた。終演後に旧知のラクネス、ホーコン・ミョーセット・ヨハンセン(ds)と談笑。

カナダの実力者が横浜の私的ライヴに出演

2011年12月18日

 忘年会を兼ねたホーム・パーティから桜木町へ移動。ジョー・ラバーベラ・クァルテット@Five Stars Records(4F)のセカンド・セットに間に合う予定だったが、電車の乗り継ぎに時間がかかってしまい、会場に着いた時は終演直後。ジョーと再会できただけで良しとするか、と思っていたところ、主催者である三津越氏のご厚意により、急遽1曲演奏してくれた。もう大感激。その後メンバーと共に打ち上げ会場の居酒屋へ移動。ジョーの兄パット・ラバーベラとドン・トンプソンから、70年代のカナダのジャズ・シーンについてヒアリングできたのも収穫となった。
●ジョー・ラバーベラ(ds)、パット・ラバーベラ(ts)、ドン・トンプソン(p)、トム・ウォリントン(b)

親日女性歌手のレコーディング・ライヴ

2011年12月20日

 サリナ・ジョーンズ@六本木STB。サリナといえば、スタッフと共演した1981年作『マイ・ラヴ』が、当時バイトをしていたジャズ喫茶のヘヴィー・ローテーションだったことでも思い出深い。同作からちょうど30年の節目に、このレコーディング・ライヴが設定されたのも、何かの縁なのだろう。邦人ミュージシャンをバックにした、テンポのいいプログラムは、これまでのキャリアの集大成にも映った。「アントニオの歌」「スターダスト」「ハウ・ハイザ・ムーン」等のスタンダード・ナンバーに加えて、尾崎豊の「アイ・ラヴ・ユー」やCM曲「ウイスキー」を取り上げて、ファンにサーヴィス。声域のこともあるが30年前と変わらぬ歌声を届けてくれたのが嬉しい。年内にライヴ盤としてリリースされる予定だ。
●サリナ・ジョーンズ(vo)、森下滋(p)、道下和彦(g)、納幸一(b)、藤井学(ds)、小池修(ts,fl)、村田陽一(tb)

プレシャス・スペース Vol.9

2011年12月21日

 牧山純子(vln)@渋谷JZ Brat。この日、牧山は同店で異例の昼夜2公演「クリスマス・スペシャル・ライヴ」を行った。「ジャズ、クラシック、そしてワールド・ミュージックを融合させ、ジャンルの壁を取り払いお届けします」と本人が告知していたように、夜の部ではピアノ・トリオと共に今年の集大成とも言えるステージを展開。牧山は昨年11月にローマでレコーディングしているが、震災が起こったことなどからリリースまでに時間がかかっていた。そこでまず3曲入りのミニ・アルバムをリリースすることを決断し、本日のライヴに合わせて新作『Preghiera』を準備。イタリア語で「祈り」を意味するアルバム名に、現在の牧山の心境が反映されている。エレガントで情熱的なヴァイオリンを堪能した。

ポーランドの歌姫が名店に登場

2011年12月26日

 アナ・マリア・ヨペック@ブルーノート東京。本日は3日連続公演の最終日で、開演前の店内にはクリスマス直後の余韻が漂っていた。アナ・マリアは2005年に愛知万博のため初来日しており、来日記念盤ライナーノーツの執筆とインタビューで直接の関係を築いた。その後もウォッチし続ける中で、彼女は小曽根真とライヴ&レコーディングのコラボレーションを重ねて、日本での認知度を拡大。先ごろ母国でコンセプトの異なる新作3枚を一挙にリリースし、今夜も母国語の歌唱を貫いたことでも明らかなように、しっかりとした自己の個性的な音楽性を確立している。終演後にバックステージでアナ・マリアと久々の再会を祝った。ライヴ・レポートはミュージック・ペンクラブ・ジャパンのホームページを参照してほしい。

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意外な展開となった年納めライヴ

2011年12月30日

 山崎史子4tet@JZ Brat。今月21日にリリースされたデビュー作『ヒア・ゴーズ!』の記念ライヴだ。昨年春にホーム・パーティで会った時に少し話をしたのだが、その後ライヴで音楽に接する機会はなかった。その意味でぼくにとっては待望の初ライヴである。そもそも邦人女性ヴィブラフォン奏者は数が少なく、山崎がこのジャンルで一気に注目を集めるポテンシャルを秘めていることは感じていた。会場の空気が変わったのは最初のMC。大舞台のせいだろうか、極度の緊張のせいだろうか、テンパッている様子が伝わってきて、心の中でエールを送った。ところがステージが進むにつれて自分史を語り出すと、ユニークなキャラクターが浮き彫りに。パーカッションも演奏してバンドを鼓舞する姿を観て、ああ彼女は子供の時から自然な形で打楽器に触れてきて今があるのだな、という音楽性と人間性に共通する無邪気さが全開になった。演奏技術はしっかりしており、この得難い個性は導き方次第でブレイクするかもしれない、と思った夜だった。

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