Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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個性的ピアニストのレコ発ライヴ

2011年06月02日

 6月22日発売の新作『ボディ&ソウル』を控える南博が、南青山で記念ライヴを開催した。初めて訪れたアリストホールは昨年10月にオープンしたばかりの、約100席のプライヴェート感のあるスペースだ。ぼくは同作のライナーノーツを執筆している関係もあって、ベーゼンドルファーが設置された同ホールの音響にも期待していた。天井が低いことでは一般のコンサートホールとも異なる空間は、新宿ピットインなどで南を見慣れているファンにとっても新鮮だったのではないだろうか。ピアノを“鳴らす”ことを意識していたであろう南の目論見は、見事に遂行された。鈴木正人(b)+芳垣安洋(ds)と3枚を重ねてきた信頼関係が、笑いと共に観客に伝えられたのも南の企図だったのだろう。南は著述家としても実績があり、この新作と同じタイミングで第3弾『マイ・フーリッシュ・ハート』を出版した。鬱病を克服し、これから50代の10年を迎える南は、この新作を機に朗報を伝えてくれると思う。

デンマークの若手ピアニストが再来日

2011年06月04日

 4月に新作『ガーシュウィン』をリリースしたマグナス・ヨルトを、新宿ピットインで観た。ペーター・エルド(b)+池長一美(ds)とのトリオは、ヨルトと池長に惚れ込んだ邦人プロデューサーの情熱によって始動し、北欧の新世代としては異例のスピードで知名度を拡大。2009年の初来日から今回が3年連続の日本ツアーとなる。「エヴリシング・アイ・ラヴ」からスタートしたステージは、スタンダードとオリジナルで進行。東日本大震災の犠牲者を悼んだヨルトの自作曲「イン・メモランダム」も披露した。なお詳しいコンサート・レポートは7月下旬発刊の「ジャズジャパン」8月号のため執筆予定だ。

ベルギー生まれのピアニストが新作を携えて来日

2011年06月07日

 エリック・レニーニ(p)がトリオを率いて新宿ピットインに初出演。5月に新ユニット“アフロ・ジャズ・ビート”名義の新作『The Vox』をリリースしたばかり。今回はそのコア・メンバーであるトーマス・ブラメリ(b)+フランク・アギュロン(ds)で、スタンダード、オリジナル、フィニアス・ニューボーンJr.等を演奏。ブラッド・メルドーと同じ1970年生まれのピアニストが、欧州トップ・クラスの1人であることを印象付けた。終演後、旧知のアギュロンと談笑。

若手邦人トリオのクラブ・ライヴ

2011年06月08日

 mot_trio@大久保Boozy Muse。リーダーの小関基之(p)+澤田将弘(b)+佐藤“ステディ”徹(ds)の3人組だ。2週間前に渋谷シダックスで彼らを観ていて、その時はラウンジ的な空間だったので、改めて鑑賞しようと同店を初めて訪れた。同トリオのデビュー作からの「Duplicate Be-Dup」は、ビバップに対する憧憬をパスティーシュ風に表現した彼らの世代感覚が打ち出されたオリジナル曲。独自のアレンジを加えたスタンダード・ナンバーにも、小関のセンスが垣間見れた。カウンター以外はソファー仕様の同店は居心地が良く、集客も上々だった。

丸の内のハイソ店が大盤振る舞い

2011年06月09日

 ぼくも大変お世話になっている丸の内「Cotton Club」が、ミュージック・チャージ無料のイヴェント「LIVE & MARTINI」を開催。昨年インパルスからリリースした共同名義作のパートナー、ホセ・ジェイムズとの来日公演を行っているジェフ・ニーヴ(p)の、同店への再登場だ。今回は新作『Imaginary Road』と同じメンバーのトリオ。木曜日ながら場内は盛況。もちろんこのようなセッティングであることを知っていたニーヴは、日本語MCを交えてファン・サーヴィスを怠らない。時に中腰の姿勢でピアノを弾きながら、トリオの躍動感を強烈に打ち出すパフォーマンスは、CD以上の収穫となった。

ブラジリアン・フュージョンの老舗バンド

2011年06月16日

 メジャー・デビューから35年を迎えたアジムスを、丸の内Cotton Clubで観た。3月には節目を記念した最新作『オーロラ』をリリース。3人の変わらぬ結束力を示すステージとなった。寡黙な仕事人といった佇まいのジョゼ・ホベルト・ベルトラーミは5台の鍵盤を使用。アジムスの特色である浮遊感漂うサウンドが、右手でローズ、左手でストリングス・シンセの同時演奏から生まれるのだと納得した。ブラジル音楽特有の変拍子を叩き出すイヴァン・コンチ(ds)がMCも務め、観客に対して繰り返し感謝の言葉を述べた。アンコールは予想通りの「フライ・オーヴァー・ザ・ホライゾン」。かつてFMの音楽番組「クロスオーヴァー・イレヴン」のテーマ曲に使用されたことで、アジムス人気に貢献したことを彼らも知っていて、長年の支持してきた日本のファンにドリーミーな美旋律で応えてくれた。

邦人若手ユニットが東京ミッドタウンに初登場

2011年06月17日

 ビルボードライブ東京には初出演となるindigo jam unitを初めて観た。ドラマーが初期の西山瞳トリオの清水勇博ということもあり、indigoの活動は以前から知ってはいた。ピアノ+ベース+2ドラムスは、日本のバンドとしては珍しい部類だろう。清水はドラムス専担で、和佐野功がドラムス&パーカッション。どちらかが叩く時と2人が同時に叩く時があり、そのダイナミクスの違いを演出するのもサウンド・コンセプトの1つと聴いた。ジャンルとしてはクラブ・ジャズに分けられるサウンドは、クオシモードからホーンズを除いた趣もあり、関西エリアを中心に人気を得ているのが理解できた。楽想がややステレオタイプであることと、曲の終わり方がパターン化している点は改善の余地がある。集客が懸念されていたが、ざっと見たところ150人が客席を埋めていて、演奏に対する反応も良好だった。

本邦ビッグ・バンドの定期公演

2011年06月19日

 角田健一ビッグ・バンド@紀尾井ホール。1990年結成の同バンドはコンサート・ホールでの定期演奏会を重ね、このジャンルにおいて着実に成果を挙げてきた。昨年20周年の節目を迎えたからだろう、今回からは「ビッグ・バンドの醍醐味」と題して新たなシリーズをスタート。デューク・エリントン、カウント・ベイシー、ウディ・ハーマン、サド・ジョーンズ=メル・ルイスといった20世紀の米国を代表する名楽団のナンバーを集めた選曲コンセプトだ。当時の雰囲気を再現するためにオリジナル・アレンジを尊重したという演奏は、ビッグ・バンド本来の魅力を十分に伝えてくれた。またソロイストのプレイと角田のMCによって“キャラ立ち”するメンバーもいて、楽しい雰囲気でステージが進行。アンコールの「A列車で行こう」ではホーンズがステージ前面で横一列の演奏になり、場内は大いに盛り上がった。

若手女性アルト奏者のレコ発ライヴ

2011年06月23日

 昨年7月にアルバム・デビューすると、一気にJ女性アルト界を活性化した纐纈歩美(1988.10?)。同作からまだ1年も経たないタイミングの4月に、リーダー第2弾『デイブレイク』がリリースされた。今夜はその記念ライヴ@目黒ブルース・アレイ・ジャパン。驚いた。関係者からヒアリングしていたが、噂は本当だった。急速に腕を上げている。デビュー作直後にインタヴューした時は、まだ受け答えが慣れていなかったが、今夜のMCはスムーズ。きちんと自分の言葉を発していた点に、成長の跡を感じた。元々はビバップから出発した纐纈がクール・ジャズやポール・デスモンドまで音楽性を拡大していることを実証したばかりでなく、サックス奏者としての地力をかなり上げていることを体感させてくれたのが最大の収穫だった。これは地道な練習でしか得られないものなので、アルバム・デビューに満足せずに精進を重ねてきた纐纈の努力を讃えたい。納谷嘉彦(p)、俵山昌之(b)、マーク・テイラー(ds)という経験豊富な面々とライヴ共演を続けてきたことが、彼女を鍛えてきたのは疑いない。自信と説得力に満ちたアルト・サウンドを堪能。終演後に本人と楽屋で談笑した。

ドイツのピアノ・トリオが再来日

2011年06月29日

 ウォルター・ラング・トリオ@赤坂B flat。ラングは日本のレコード会社の企画・制作によるアルバムをリリースしているドイツ人ピアニスト。母国ではコンセプトの異なるELFトリオでも活動中だ。今夜は日本のファンのニーズを踏まえた選曲で楽しませてくれた。ファースト・セットではパット・メセニー「ラスト・トレイン・ホーム」、「枯葉」、「風と共に去りぬ」等を演奏。セカンド・セットに進むと、キース・ジャレット「カントリー」をしっとりと奏で、個人的な収穫に。東日本大震災の被災者に捧げた「りんご追分」は、日本を愛するラングの気持ちが表れていた。休憩時間にラングと談笑し、次回作に関する情報を得た

ギタリストとヴォーカリストが夫婦共演

2011年06月30日

 フュージョン界の人気ギタリストで、昨年新加入したフォープレイでも来日ホール公演を行っているチャック・ローブが、マドリッド出身のカルメン・クエスタと、丸の内Cotton Clubに出演。まずクァルテットが登場すると、ローブが歌心たっぷりのプレイでたちまち好ましい空気感が生まれた。リーダー作も多数リリースしているが、どちらかと言えばバイ・プレイヤーのイメージが強いローブが、多彩なテクニシャンであるばかりでなく、リーダーとしての才能も豊かだと印象付けた。クエスタは最新作『私のボサノヴァ』からジョビン等ボサの名曲を披露。事前に試聴していたCDとは違い、歌唱力よりも雰囲気で聴かせるタイプだとわかった。ドラムスのマウリシオ・ゾッタレリは2年前の《バンクーバー・ジャズ祭》の上原ひろみソニック・ブルームで観ており、その時にいただいた彼のリーダー作を日本で紹介して、親しくなった。来日直前にメールのやり取りをし、終演後嬉しい再会となった。ドラムスが巧くて、ハートもいい男である。

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