Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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ブロッツフェス2009

2009年12月09日

 ドイツのベテラン前衛サックス奏者ペーター・ブロッツマンは、毎年のように来日して即興音楽ファンを満足させている。今回は若手スイス人とのトリオ=フルブラストの初来日を核に、今夜の六本木スーパーデラックスでクライマックスを迎えた。「ブロッツフェス2009」と題された催しは3部構成。ファースト・セットは2ベース&2ドラムスとのダブル・トリオだ。オーネット・コールマン『フリー・ジャズ』との関連性を想起させる編成は、約1時間が全力疾走の趣。特に荒巻茂生&本田珠也の強力なリズムが目を見張った。セカンド・セットはブロッツマン&八木美知依のデュオ。2人は北欧でのライヴ経験がある関係で、今夜も八木がヴォーカルとスティック等の打楽器的要素を持ち込んで、ブロッツマンと見事に対抗した。サード・セットはフルブラスト+2。何と言っても坂田明の熱演が素晴らしい。ブロッツマンとの2サックスという視点からでも、坂田は世界標準だった。ジム・オルークのノイジーな発音も、バンドに多大な貢献。主役ブロッツマンを中心に語るならば、もちろん収穫は大。客席に外国人が多数認められたことも報告したい。

ノルウェーの人気グループが初来日

2009年12月11日

 ハルダンゲル・フィドルというノルウェーの民族楽器の存在を知ったのは、今年に入ってからのことだった。5月に同国のジャズ・フェスティヴァルを取材した際、ECMからの第1作をリリースしたばかりの同楽器奏者ニルス・エクランのライヴを観て、この楽器の奥深さに触れた。その後ノルウェー大使館で日本人女性のグループによるハルダンゲル・トリオの演奏を見聴きし、さらに身近な存在となった。今夜は現在同国でたいへんな人気を博しているというヴァルキリエン・オールスターズ@代官山「晴れたら空に豆まいて」。会場は若い音楽ファンで満席。アルコールばかりでなくノルウェー料理のオーダーも、多数出ていた。2セットのステージは母国のトラディショナルを主なレパートリーとしたプログラム。事前にCDを聴いていなかったので出たとこ勝負だったのだが、予想に反してロック・テイストを取り入れた音作りが目立った。ヴォーカリストでもある中心メンバーのトゥーヴァ・リーヴスダッテル・シーヴァッセンが昔のダンス・ミュージックだと前フリしたカヴァー曲は、現代感覚を盛り込んだダンサブルなサウンド。まだ若い世代のミュージシャンが母国の伝統音楽に新たな光を当てて、ポピュラリティを獲得しようとの姿勢が、客席を埋めた日本人の共感を呼んだようだった。終演後にはパーティーが開催され、いつも美味なノルウェー料理に舌鼓を打った。

クラブ・ミュージックの仕掛け人が来日

2009年12月17日

 新世紀に入って、イタリアを中心に巻き起こった“ヨーロピアン・ニュー・ジャズ”と呼ばれるムーヴメント。その仕掛け人としてヒット作を生んできたプロデューサー/DJ/ギタリストがニコラ・コンテだ。先頃、未発表音源を含む2枚組精選集『モダン・サウンド・オブ・ニコラ・コンテ』をリリースした好タイミングで来日。「ブルーノート東京」でのステージを観た。コンテがイメージするサウンドを形にするために選ばれたメンバーは、イタリアとフィンランドの斯界の人気アーティスト。イタリアの旗頭であるハイ・ファイヴのトランペッター、ファブリッツィオ・ボッソと、フィンランドの若きビート・マスターであるドラマーのテッポ・マキネンが、同じバンド・メンバーとしてステージに立っている光景は、このジャンルを知る者として感慨深い。コンテのオリジナルに混ざって、オリヴァー・ネルソン「ストールン・モーメンツ」等のジャズ・ナンバーも選曲したのが要注目だった。ハービー・ハンコックの「処女航海」では、オリジナル・ヴァージョンのトランペッターであるフレディ・ハバードを想起させるボッソのソロが光った。終盤の「キャラヴァン」ではマキネンが実力者ぶりを発揮。ギタリストとしては決してテクニシャンではないコンテは、サウンド・コンセプトと適材適所の人材起用術に長けたクリエイターだと納得できた。ニコラ・コンテ・ジャズ・コンボの立役者が疑いなくマキネンだと指摘しておきたい。

要注目の若手ピアニストが再来日

2009年12月18日

 午後、雑誌のインタヴュー取材のため、ホテルオークラへ。イタリア人トランペッター、ファブリッツィオ・ボッソがその人。ボッソとは昨年の「ギンザ・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァル」で対面しているので、話はスムーズに進んだ。前日にボッソが参加したニコラ・コンテのステージを観ていたので、その点も踏まえて話を聞くことができた。ボッソは多くのレコーディングを残してきた割に、本格的な日本の媒体でのインタヴューが行われてこなかった。詳しくは1月20日発売の「CDジャーナル」2月号に掲載されるが、誌面に反映されなかったやり取りを含めて新鮮な情報が得られたのが収穫だった。
 午後7:00には丸の内へ移動して「コットンクラブ」へ。ロバート・グラスパーを観るためなり。グラスパーは今年4月に同店に出演。その時はトリオで、今回はサックス奏者を加えた4人編成のRGエクスペリメント。この間にグラスパーは新作『ダブル・ブックド』をリリースしており、今回の来日は同作のヒップホップ・サイドを演奏できるバンドということになる。彼らからまず感じたのは、70年代のハービー・ハンコックから強い影響を受けていることだった。グラスパーのエレピもそうだし、ケーシー・ベンジャミンのサックス&ヴォコーダーもそう。彼ら黒人新世代が何故にこれほどまでハービーに傾倒するのか。そんなことも考えながらグラスパーの演奏を堪能したのだった。

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横浜での貴重なプライヴェート・ライヴ

2009年12月20日

 10月上旬、「横濱ジャズ・プロムナード」に出演したピアニストのビル・メイズが、わずか2ヶ月をはさんで再来日を果たした。前回同様、今夜も桜木町「Five Stars Records」でのライヴ。自宅4Fをライヴ・スペースにしただけあって、アット・ホームな雰囲気がある。ぼくはピアノのすぐ近くの関係者席に案内された。メンバーは今年リリースされたマティアス・スヴェンソン『ヘッド・アップ・ハイ』と同じく、メイズ+スヴェンソン(b)+ジョー・ラバーベラ(ds)のトリオだ。「イースト・オブ・ザ・サン」で始まったファースト・セットは、米国では過小評価のピアニスト、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」で、50年代のハード・バップへのオマージュを表明。ボサ・アレンジの「アローン・トゥゲザー」ではこの季節を意識したクリスマス・ソングをアドリブに盛り込んだり、対照的にラヴェルの「マザー・グース」では叙情的な表現美で魅了した。セカンド・セットではオーナーに捧げたメイズの自作曲「ブルース・フォー・ファイヴ・スターズ」を披露。レッド・ガーランドの「ブルース・バイ・ファイヴ」を想起させたが、関連があるのかもしれない。60年代のスウェディッシュ・フォーク・ソングを元に、スヴェンソンが主旋律を奏でるボサ・ナンバーを経て、メイズが得意の美声を響かせる「ゲット・アウト・オブ・タウン」でクライマックスに。アンコールに応えて、ビル・エヴァンスゆかりのレパートリーでもある「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」を選曲。横浜の夜は更けていった。

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夢のようなクリスマス特別公演

2009年12月24日

 今年世界規模で最も活躍した邦人アーティストが上原ひろみだ。初のソロ・ピアノ・アルバム『プレイス・トゥ・ビー』の記念コンサートで、東京国際フォーラムホールCに詰め掛けた観客を熱狂させたばかりの上原が、クリスマス・イヴに特別なコンサートを企画してくれた。新日本フィルハーモニー交響楽団との共演である。デビュー作をリリースした直後にインタヴューした時、「いつかオーケストラと共演したい」と言っていた上原は、その後着実に研鑽を重ねて、このジャンルの編曲家としてのスキルをアップさせた。新旧のオリジナル曲をオーケストラ用にアレンジしたステージは、上原にとってキャリア初の試みとなる。第1部のオープニングとなった「ブレイン・トレーニング」から、早くも上原らしい元気一杯のピアノが躍動する。オーケストラにスケール・アップしたサウンドが、カタルシスをもたらし、これ1曲だけで今夜のステージの成功を確信。コントラバスのピチカートがパット・メセニー・グループを想起させる「リヴァース」のアレンジに、上原の新たな魅力を発見。ピアノ独奏で始まり、やがてオーケストラが加わったスタンダード曲「ゴールデン・イヤリングス」では、ストリングス・セクションが「グリーン・ティー・ファーム」のメロディを乗せて、ファンの琴線に触れる。第2部に進むと、ピアノ+オーボエ+ストリングスで美旋律を際立たせた「プレイス・トゥ・ビー」と2曲のピアノ独奏を経て、エンディングへ。14年前に作曲し、今夜が世界初演となる「ステップ・フォーワード」は3楽章構成。子供の頃からの夢が最高の形で実現した瞬間であった。アンコールに応えて再登場した上原は、何とサンタクロース姿。これにはファンが大喜びだ。「サンタが街にやってくる」を皮切りとしたメドレーでは、オーケストラの「ホワイト・クリスマス」も加わって、この編成ならではの魅力を体感させてくれた。その後もさらに3曲のアンコールに応えてくれた上原ひろみ。終演後に大役を見事に演じきった本人を祝った。

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目黒のクラブが熱く燃えた夜

2009年12月26日

 クリヤ・マコトRhythmatrix@ブルースアレイジャパン。クリヤとはデビューした頃からの知り合いで、9月にはオーストラリア大使館で行われた日豪パネル・ディスカッションでも同席している。今夜はクリヤが率いるラテン・フュージョン・バンドのステージだ。コモブチ・キイチロウ(b)、安井源之新(per)といったこのジャンルの実力者と繰り出すサウンドは、リズミカルで心地よい。そこにゲストが次々と加わって、ステージはさらに華やいでゆく。新作の参加ヴォーカリストでもある綾乃は、まだソロ・デビューをしていないものの、本場仕込みの歌唱はナチュラル。ハスキーな歌声で「オール・アイ・ウォント・フォー・クリスマス・イズ・ユー」「素顔のままで」を披露した。またクリヤ・プロデュースの新作をリリースしたばかりの牧山純子(vln)が急遽駆けつけ、ラストは「イパネマの娘」で盛り上がった。ほぼ満席の会場には多数の若い女性客が詰め掛けていて、このジャンルのライヴ・シーンの活況ぶりを嬉しく思った。

今年の締めくくりとなるライヴ・レポート

2009年12月29日

 今年はCDの売り上げの下降が止まらないなど、音楽業界には厳しい1年となった。しかし最後は明るく締めくくりたいということで、東京ミッドタウンの「ビルボードライブ東京」へ。元アース・ウィンド&ファイアーのアル・マッケイ(g)率いるオールスターズ公演だ。70年代から80年代にかけてのEW&Fの全盛期に活躍したオリジナル・メンバーのマッケイを中心とする面々が、アースの名曲の数々を披露するプログラム。リアルタイムで彼らの音楽を聴いてきた者にとっては、堪らないステージだ。2002年のマウント・フジ・ジャズ祭でも彼らの“実力”を体感しているので、観る前から品質は保証済。他にもEW&Fをレパートリーとするバンドが競合する中で、アル・マッケイASはオリジナルに最も近いサウンド、との評価が高い。3ヴォーカル+4ホーンズ+2キーボード+ギター+ベース+ドラムス+パーカッション=総勢13名のバンドは、「サーペンティン・ファイアー」で幕を開けた。当時ビートルズをカヴァーしたことで話題になった「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」、「サタデイ・ナイト」と続き、あの頃の空気が甦る。「アフター・ザ・ラヴ・イズ・ゴーン」でバラード・タイムが始まると、「リーズンズ」ではファルセット・ヴォーカルとアルトサックスがあのライヴ盤同様の掛け合いを演じてくれた。後半に進むと、パーティー・タイムのスタート。「イン・ザ・ストーン」を皮切りに「宇宙のファンタジー」「ゲッタウェイ」「ザッツ・ザ・ウエイ・オブ・ザ・ワールド」とメドレーが続き、アリーナの観客は総立ちに。やはりこの曲で決まり、とばかりにラストは「セプテンバー」。アンコールに応えて登場すると、忘れちゃいけない「レッツ・グルーヴ」で再び会場に火をつけた。楽曲の生命力の強さにも唸らされた一夜であった。

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