Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

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代々木と丸の内のはしごライヴ

2010年02月05日

 深町純@白寿ホール。1日2回公演の1回目を観た。開演が17:00ということで、勤め人には厳しい回だったが、男女の自由人らしき来場者が客席を埋めた。「リクライニング・ジャズ」というコンセプトの第3回は、身体が寛げる座席を提供するもので、通常のコンサートとは異なるアイデアが盛り込まれている。公演時間を1時間に設定した安価な企画は、しかし冒頭に深町が宣言したように、観客を眠らせる場面のない聴き応え十分の内容だった。前半の即興演奏を主体とした演目を聴き進めて驚いた。深町に関しては1970年代から80年代にかけて活躍したフュージョン鍵盤奏者のイメージが強く、近年のシフト活動はノーマークだった。クラシック音楽のスキルが前面に出た演奏は、そんなイメージを覆し、今を生きるジャズ・ピアニストとしての存在感を強烈にアピールするものだった。後半には近年深町が共演を重ねている揚琴奏者の金亜軍が参加。繊細な響きを持つ中国伝統楽器との、ユニークなコラボレーションを楽しんだ。
 丸の内へ移動し、「Cotton Club」でジョン・アバークロンビー・オルガン・トリオのセカンド・セットを観る。近年のECM諸作とは編成が異なるギター+オルガン+ドラムス。共演者は日本制作のリーダー作もあるゲイリー・ヴェルサーチ(リアル発音はヴェルセイス)と、ヴェテランのアダム・ナスバウムだ。椅子に座りながらギターを演奏するアバークロンビーの姿に、ジム・ホールが重なった。60代半ばの年齢と音楽性を考えれば、納得できるポジションだ。「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」「ターンアラウンド」といったカヴァー曲は、日本向けのサーヴィスだったのかもしれない。ピックを使わずに指で音を出すスタイルは、アバークロンビー・ミュージックの源泉だと確認できた。アンコールではフランク・シナトラ歌唱曲に親しんでいたという理由で「ウィッチクラフト」を披露。これまでのイメージをいい意味で裏切られたステージであった。

還暦記念コンサート

2010年02月06日

 昨年60歳になった板橋文夫の還暦コンサートをTOKYO FMホールで観た。これは同局で89年にスタートした番組で、現在はミュージックバードで放送中の「トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ」の20周年も兼ねたイヴェントだ。ぼくはバードのレギュラー番組で12月に板橋特集を編成しており、特別な期待感を持って着席した。ファースト・セットは自身の原点に挑戦する「プレイズ・クラシック」。シューマン、ショパン、バッハ等を、音大時代の練習を思い出しながらプロのジャズ・ピアニストとしてはほとんど初めてとなるステージで披露。譜面通りに弾くことから離れて、悪戦苦闘しながら板橋流のクラシック・ワールドを作る様が年配のファンの支持を得た。たまたま前日に深町純のコンサートを観たせいもあるが、板橋はジャズどっぷりのピアニストなのだなと確認した次第。セカンド・セットの「プレイズ・ジャズ」では本領発揮とばかり、伸び伸びとした演奏を堪能できた。全力投球の姿勢は長年の支援者と思しき多くの観客に、共感を与えたようだった。

邦人ベーシストのレコ発ライヴ

2010年02月08日

 日本を代表するジャズ・ベーシスト鈴木良雄(1946?)は昨年、音楽活動40周年記念作『マイ・ディア・ピアニスト』をリリース。交流のある邦人ピアニスト6名とデュオを演じたアルバム・コンセプトは、鈴木の新境地を示す仕上がりだった。今夜は同作のリリース記念コンサートを紀尾井ホールで観た。同作参加ピアニストのうち4名が集って、4曲ずつ演奏するプログラム。鈴木のレギュラー・グループでなくてはならない存在である野力奏一との演奏では、リーダー活動の年輪を滲ませた。山本剛とのデュオは経験豊富な両者の、おだやかな交流が浮き彫りに。韓国では大変な人気音楽家だというイサオササキとは、ニューエイジ的なサウンドを印象付けた。今夜のステージでおそらく最大の興味だったのが、トリを務めた秋吉敏子。今世紀に入って共演トリオ・ライヴ作をリリースしている両者は、トシコが日本人で最も信頼を寄せているベーシストが鈴木だという関係だ。トシコの代表曲「ロング・イエロー・ロード」で幕を開けたセットは、4曲中3曲がトシコのオリジナル。自身のビッグ・バンドを解散して身軽になり、ピアニストへの比重を高められる環境が、このステージでも発揮される格好となった。長年のファンと思しき鈴木と同世代のファンが多数認められて、ジャズ界を支える人々の存在も嬉しく思ったのだった。

老舗ビッグ・バンドの記念コンサート

2010年02月10日

 カウント・ベイシー・オーケストラといえば、デューク・エリントン・オーケストラと並ぶジャズ界の名門楽団。1984年に偉大なリーダーが他界した後も、同楽団関係者が引き継いでバンドの灯を絶やさずにいる。現在はOBでトロンボーン奏者のビル・ヒューズがリーダーを務める。今夜は結成75周年を迎えたベイシー楽団をサントリーホールで観た。日本滞在中にビッグ・バンド・コンテストで受賞した小学生バンドとベイシー楽団のメンバーとの共演が実現し、一般紙でも報じられたことでも注目度が高まっていた。2部構成のステージは、節目を記念した特別プログラム。代表的なレパートリーをずらりと並べて、長い歴史を誇る楽団の足跡を浮き彫りにした。ベイシー・ナンバーをカバーするビッグ・バンドは数多いが、やはり本家が奏でるサウンドにはビッグ・ボスの魂が受け継がれていると感じる。事前情報を得ていなかった女性ヴォーカルのカーメン・ブラッドフォードが登場して、「ハウ・ドゥ・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング」を披露。バーグマン夫妻とミシェル・ルグランが書いたこの名曲を聴きながら、カーメンとパティ・オースティンの関連性を想起した。また70年代に生まれたレパートリーである「ウインド・マシーン」が個人的な収穫となった。幅広い年齢層の観客が集ったことも特筆したい。
 終演後、六本木“アルフィー”へ移動。トランペッター五十嵐一生率いる世界逸産のセカンド・セットを観るためなり。昨年ヨーロッパ関係の問い合わせを受けた関係で知り合った五十嵐のステージに接するのは、10数年ぶりだ。当時は60年代のマイルス・デイヴィス5を彷彿させるサウンドだった。困難を克服して現在も音楽活動を続ける五十嵐の、実に久々となる生鑑賞は健在ぶりを印象付けてくれて、正直に言って安心した。アップでのストレートな鳴りの良さと、スローでの繊細な表現に、確かな実力を確認。吉澤はじめ(p)+荒巻茂生(b)+本田珠也(ds)との緊密なユニット性も良好で、ぜひ早いタイミングでデビュー作を発表してほしいと思った。

1ヶ月遅れの新年会

2010年02月15日

 毎年1月恒例のパーティーは、諸事情により今年は休会となった。新年を迎えて、自分にとっては約20年間続いていた区切りとなる年頭の宴がなくなってしまったわけで、何となく新しい年が始まって2月を過ごしている感覚が拭えない。そんな状況に大手レコード会社とジャズ業界の重鎮が立ち上がった。今夜は“高田馬場コットンクラブ”での「ジャズ忘年会」。100人近くの関係者が集い、近況報告や情報交換などで交流。個人的にはビジネス・チャンスの場となって、収穫大だった。ジャズ界も経済不況の波が避けられず、売り上げ減少、人員削減、規模縮小を余儀なくされているが、関係者の知恵と協力によってこの危機を打開しなければならない、との共通認識を得たのが心強く、意義深かった。岩浪氏と歌手ティファニーがスキャット合戦を繰り広げ、重鎮評論家が現役黒人女性ヴォーカリストを圧倒した場面が圧巻だった。21:00過ぎに知人と5人で近くの焼酎ダイニング店で2次会。その後3人で六本木へ移動し、早朝まで痛飲した。

盛大な受賞パーティー

2010年02月18日

 パリで20年間生活し、帰国後はフランス文化を日本に伝える執筆活動を続ける宇田川悟氏。拙著『ヨーロッパのJAZZレーベル』のカヴァー写真を提供していただいたご縁で、氏が経営する神楽坂のバーにおじゃましたり、メールで近況を伝え合う関係だ。今夜はフランス政府農事功労章シュヴァリエ受賞と新著の出版記念を兼ねたパーティーに出席するため、ホテルオークラへ。来日ミュージシャンのインタヴューのために訪れる機会は多いが、オークラでのパーティーは初めてだ。さすがに顔の広い宇田川さんだけあって、政治家、フード・ジャーナリスト、料理人、マスコミ関係者ら400名の盛会となった。その場でローストビーフを切るサーヴィスもあるバイキング形式のフード提供は、食材にもこだわったメニューで、確保するのに一苦労。事前に連絡を取っていたDUG中平氏と談笑しつつ、旧知の編集者と再会。終宴後に新宿DUGへ移動して、ジャズ気分を盛り上げた。

米在住の異色邦人アーティスト

2010年02月19日

 このブログをきっかけに連絡を受けて、メール上のお付き合いが始まったミュージシャンがいる。カリフォルニア在住のハーピスト古佐小基史だ。元々はギタリストとしてプロ活動をしていたが、99年にハープへ転向。ジャズでは歴史と需要の少ない特殊楽器を、何とか日本でも広めたいとの一念で、デモンストレーションとレクチャーを兼ねたイヴェントが、代々木で開催された。会場には学生やブッキング希望者などが参加。オレゴンのポール・マッキャンドレスとのデュオで制作した映像をプレイしながら、ジャズ・ハープの魅力を伝えてくれた。2008年にノルウェーのジャズ・フェスティヴァルを取材した時に初めて観たオレゴンは、30年来のファンとして感激のステージとなり、同年初来日を実現してくれたのも二重の喜びだった。正式アルバムの制作と来日公演に期待すると共に、アシストできれば思った。応援したい気持ちである。

NYの最新形ギター・トリオ

2010年02月20日

 昨年『クランツ・カーロック・ルフェーヴル』をリリースし、トリオの実質的なリーダーとしても注目されたウエイン・クランツ。今夜はマニアックなギター・ファンからチェックされていた同作の世界が期待できるステージ@丸の内Cotton Clubとなった。どちらかと言えば同作に共感した人々が集ったと思えるのに対して、客席は一般的な音楽ファンも散見できる。このような状況で、共同名義トリオは自分たち流を貫いた。貫いたのがいいという話だ。ジャムバンド?テクノ風の曲展開でエフェクター使用の音作りや、1曲の中で場面変化を作る手法を興味深く聴いた。「即興性を重視するので、事前に曲を決めないんだ」とクランツがMCで発言したように、常識的なギター・トリオとは異なる音楽性を目指した点がユニーク。ラスト・ナンバーがe.s.t.を想起させたのは偶然かもしれないが、いずれにしてもこのユニットの現代性を物語っていることは間違いない。一時的に話題となったユニットかどうかは、メンバー3人のモチヴェーションにかかっている。

現役最高齢ピアニストの健在ステージ

2010年02月22日

 親日家としても知られるハンク・ジョーンズが、「ブルーノート東京」6日間出演のために来日した。結成30年を超えたザ・グレイト・ジャズ・トリオ名義である。冠トリオの最長寿であるGJTは、オリジナル・メンバーであるハンクが不動のピアニストとなってトリオが運営されてきた。歴代のベース&ドラムスを参照すれば、すでに名を上げた面々が参加してきたことが明らかだ。そんな歴史を踏まえると、今回のメンバーは異例に映る。デヴィッド・ウォン(b)+リー・ピアソン(ds)はいずれも日本では無名の若手。このトリオは昨年リリースされた高音質&高価格盤でお披露目した面々。ゆえに何故過去の歴史の定例を外れた施策を実行したのか。その疑問は演奏が進むうちに氷解した。モダン・ジャズの伝統を継承しながら、時代に即したGJTらしさを表現すること。新加入メンバーがそのポリシーを感じさせたのが、今夜の収穫だった。特に随所でロール技による高いスキルを発揮したピアソンが特筆される。現在91歳のジャズ界最長老を自分の目に焼け付きておきたいファンが多数来場したことによって、会場は盛況となった。
 終演後、代々木へ移動。清水ひろみ@NARU。大阪を拠点とする清水は、近年東京でのクラブ・ライヴにも力を入れている。今夜はすでにお馴染みとも言える里見紀子+井上ゆかりとのトリオだ。前回観た時と同じく、セットの途中にヴォーカル抜きの楽曲を入れる構成に共感。東京での支持者が定着したことを印象付けた。今年はドン・フリードマンとのツアー&レコーディングやヨーロッパ遠征も計画しているとことを本人から聞いた。結果に期待しながら応援したい気持ちである。

クラシックとテクノを股にかけるピアニスト

2010年02月23日

 来日公演が迫るにしたがって、俄然興味を掻き立てられたピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ・シュリメ。ジャンル的にはジャズではないが、コンテンポラリ?・ピアニストとして見逃せない存在だと直感した。どちらかと言えば、クラシックよりもテクノの活動に興味があったので、事前にそちら方面のCDを入手して、当日に備えた。当初21日の白寿ホール公演の取材を望んだのだが、定員オーヴァーのため止む無く断念。本日のよりオーセンティックなプログラムを、東京文化会館小ホールで観た。久々に訪れた会場は、いい空間だなと再認識。フランス語圏の外国人が多数集った。本日はJ.S.バッハ特集。全体的には難度の高い技術を要求される楽曲は少なく、シュリメの滑らかなテクニックから生まれる美しいピアノ・サウンドに魅了された。アンコールの2曲目ではオリジナルを披露。急遽決まったようだが、3月5日には再来日し、深夜のクラブ・イヴェントに出演するとのこと。このふり幅の広い音楽活動を、ぜひ今後も続けてほしい。

トランペットの若武者が小編成で来日

2010年02月24日

 若武者というのはイメージの話で、実は40歳を迎えたトランペット奏者のロイ・ハーグローヴ。しかし本人はそんな年齢を感じさせない若々しい活動を展開している。ビッグ・バンドやソウル・プロジェクトのRHファクターでも観ているブルーノート東京のステージに、サックスを含むクインテットでハーグローヴが凱旋した。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズを彷彿させるマーチ・ナンバーで、当夜ハーグローヴが企図したコンセプトを表明。サックス奏者がステージから下がって、ハーグローヴがフリューゲルホーンを手にバラード「ユーアー・マイ・エヴリシング」を演奏。さらに同編成の「スピーク・ロウ」は珍しくもソロー・テンポで、このバンドにおいてハーグローヴが何を観客にアピールしたいのかが明らかになった。モダン・ジャズの伝統と遺産をきちんと今に伝える姿勢に共感。アンコールに応えて登場したメンバーが、終盤に1人ずつステージを去る演出がユニーク。トランペット・プレイとバンドのタイトな関係性を含めて、これまでに観た最高のハーグローヴだと思った。

日本を代表する女性リーダー楽団の定期公演

2010年02月26日

 初のピアノ・トリオ作『スリー・アンド・フォア』をリリースした守屋順子が、恒例のオーケストラ公演を大手町・日経ホールで行った。同社の移転に伴ってリニューアルした同ホールは、オープンから間もないということで、フレッシュな雰囲気を醸し出していた。守屋オケは第1作から今年で10年の節目を迎え、今夜はそのアニヴァーサリーの意味もあるイヴェントとなった。日本のトップ・クラスに位置するビッグ・バンドはメンバーに実力者が求められる事情ゆえに重複しているのが現状で、それ以外の活動を考えると各人は多忙ということになる。質の高さを維持・追求してきた守屋オケの演奏クオリティは、冒頭から明らかになった。現在のカウント・ベイシー楽団のように“遊び”の部分があるのがビッグ・バンドの面白さだとしたら、守屋オケはむしろストイックな音楽性に徹してきたのが評価できる。守屋が個人的に敬愛したビッグ・バンド・リーダー高橋達也へのデディケーション「フェアウェル」の味わい深い演奏も特筆ものだった。守屋が偉大な先人と敬う秋吉敏子の邦人ビッグ・バンド・リーダーとして後継できるのか。そのポテンシャルが十分に備わっていると確認できたステージでああった。

ジャズとクラシックを股にかけるサックス奏者

2010年02月27日

 清水靖晃は1970年代にクロスオーヴァー/フュージョン畑でキャリアをスタートさせ、吉田美奈子とのコラボレーションなどポップス畑でも優れた仕事を残したサックス奏者だ。今夜は清水が83年から続けるプロジェクト“サキソフォネッツ”のステージを、すみだトリフォニーホールで観た。サックス5+コントラバス4の編成によるサキソフォネッツが、J.S.バッハの名曲「ゴルトベルク変奏曲」を取り上げるプログラム。グレン・グールドをはじめ、ピアニストが定番の名曲を、おそらく前例のない編成で演奏するサウンド・コンセプトが興味深い。まず清水1人が登場し、即興でテナー・サックス・ソロを披露。そしてメンバー全員が登場して、本編へと進んだ。アリア?第1?第30変奏?アリアというプログラムでは、各曲が終わるごとに拍手が起こった。これは通常のクラシック・コンサートとは異なる風景で、会場にジャズ的な空気感が生まれたのが面白い。これまで同ホールで行われた6回の「ゴルトベルク」がすべて鍵盤楽器だったことを踏まえると、第7回にして新しくユニークな歴史を築いた一夜だった。

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