Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイリー

« 2010年12月 | メイン | 2011年02月 »

邦人トリオの新作記念ライヴ

2011年01月05日

 井上ゆかりが加藤真一+藤井摂とのトリオを結成して4年。3年ぶりの新作『MURASAKI』のリリース記念ライヴを、渋谷JZ Bratで観た。過去に井上がヴォーカリストを助演したライヴは観た経験があるのだが、井上リーダーは今夜が初めて。ファースト・セットではスタンダードの「ユーアー・マイ・エヴリシング」で、山本剛やエロール・ガーナーを想起させる古典的な奏法が認められ、これが井上のスタイルの1つだと判断。ミシェル・ルグラン作の美旋律曲「ハウ・ドゥ・ユー・キープ・ザ・ミュージック・プレイング」、醤油の符丁を曲名とアルバム名にした、和テイストで激しい場面がある「MURASAKI」と、プログラムの進行につれ、冒頭での印象が変化した。セカンド・セットではピアノの師である故鈴木宏昌が晩年のアルバムに入れたことで、自分でも今回どうしても収録したかったという「サマー・ナイト」、名曲の断片を引用した「サム・アザー・タイム」、ジョビンの「トリステ」、ドボルザーク「新世界」と多彩な選曲。またピアノ&ドラムスやピアノ&ベースのデュオ曲も演じ、オーソドックスなスタイルの域にとどまるものではないことが明らかになった。しかし曲の出自は異なっていても、グリッサンドの多用によるアドリブで楽曲を展開する手法が、井上の大きな特徴であることは間違いない。

清涼感のある女性歌手が2度目の来日

2011年01月06日

 エリン・ボーディーを丸の内Cotton Clubで観た。2001年に自主制作盤でアルバム・デビューを果たし、ヴォーカルの秀作が多いMax Jazzを経て、通算6枚目の『フォトグラフ』を昨秋リリースしたタイミングでの来日公演だ。3リズム+管楽器の4人編成バンドを従えたステージ。マイクスタンドに固定したマイクに向かって歌うイメージだったのだが、エリンは全編でマイクを持ちながらの歌唱だった。その姿勢は歌詞に自分の感情を乗せるポリシーの反映だと聴いた。ローズマリー・クルーニー主演映画曲「カウンティング・マイ・ブレッシング」は、単にノスタルジックさを表現するのが目的ではなく、バスクラリネットやリズム・アレンジで現代性を盛り込む。「グレイスランド」が作曲者ポール・サイモンではなく、ジョニ・ミッチェルの楽曲のように響いたのも、意図的なアレンジとサウンドゆえだ。特筆すべきはマルチ・プレイヤーたちの貢献ぶり。作曲家を含め、エリンと8年間のパートナーシップを築いているピアノのアダム・マネスが、メロディカ、ギター、バックヴォーカルも兼任。新作のレコーディング・メンバーではないが、すでにソロ・アーティストとしての名声を獲得しているジョン・エリスは、テナー、バスクラ、フルートに加え、キーボードでもサポート。ヴォーカリスト+バンドではなく、5人が1つのユニットとしてプレイした点に好感を抱いた。オリジナル曲を中心としたプログラムにあって、アンコールの「春の如く」では王道ジャズ・ヴォーカリストとしての実力が明らかに。同時にバンドのジャズ力が高いレヴェルにあることもわかって収穫だった。

今月中旬以降のまとめ

2011年01月31日

 12日は銀座ヤマハで上原ひろみにインタビュー。先月は大阪のコンサートを取材後、本人に会っており、個人的には「月刊ひろみちゃん」状態だ。その2日後の14日には、3月にリリースされる新作『ヴォイス』の試聴会@銀座ヤマハへ。本人のインタビュー&2曲の独奏付きだった。同作はこの春一番の話題作になること間違いない。15日はメゾフォルテ@ビルボードライブ東京。アイスランドが生んだ老舗フュージョン・バンド。昔の名前で出ています、どころか現役感満点のステージに、目から鱗が落ちた。各メンバーの高いスキルと息の合ったバンド・サウンドはエンタテインメント性にも溢れ、理屈抜きに楽しい。
 週が変わって17日は高澤綾(tp)5@六本木アルフィー。先日、彼女が所属するビッグ・バンド=レディ・エンジェル107のステージを観て、気になっていた。当夜はフレディ・ハバードの「バードライク」を皮切りに、定石破りのスロー・テンポの「スピーク・ロウ」、ワン・ホーンの「アイ・リメンバー・クリフォード」、ロイ・ハーグローヴ曲、自作曲等を演奏。急成長中の若手要注目である。18日は「十二夜」@シアターコクーン。主演の松たか子が女性と男性を一人二役で演じ分ける。劇中のセリフにある「いくつかの報われない片思いの物語」を堪能した。毎度毎度のことだが、たかちゃんの非凡さと女優魂に感嘆。
 28日はマヌ・カッチェ4@六本木STB。最新作『サード・ラウンド』の国内盤ライナーノーツを執筆したこともあり、期待を抱いて開演を迎えた。ドラマーのタイプとしてはオマー・ハキムと同系だと思うが、ジャンルレスな活動においてカッチェのフレキシビリティは突出している。心地よいビートに酔った。終演後、旧知のサックス奏者トーレ・ブリュンボルグと談笑。30日はビル・フリゼール3@丸の内Cotton Club。これまでに観たビルのパフォーマンスに比べると、音を電気的に変化させる要素が少なく、繊細な素のギター・プレイを主体とした構成だった。ジョーイ・バロン(ds)は通常よりも細いスティックを使用し、トリオのバランスを取りながら貢献。ロン・カーターはいつものマイ・ペースで、60年代のマイルス・デイヴィス5のメンバーだったことを含めて、カーターを敬愛するビルの視線がステージから伝わってきた。
 31日はジャズ新年会@高田馬場コットンクラブ。スイングジャーナルのパーティーが無くなってしまった喪失感を埋めるべく、重鎮関係者が昨年に企画。その成功を受けた第2回の今夜は、昨年以上の盛況を呈した。不況と言われる現状を打開できるのは、人と人のつながりなのだなと改めて感じた。収穫大。その後、表参道へ移動し、ケイコ・リー@ブルーノート東京へ。先日、デビュー15周年作をリリースしたタイミングで、インタビューした時に、歌手としても人間的にも変化・成長した近況を知ることができた。レギュラー・トリオと共に、もはや円熟と言っていいステージで、プロフェッショナリズムを印象付けた。

NEWENTRY

ARCHIVE

BLOGS

CONTACT

株式会社セブンオークス・パブリシング

セブンオークスへのお問い合わせを受け付けております。
メール:hachi@7oaks.co.jp
住所:〒134-0081 東京都江戸川区北葛西2-10-8map
Phone:03-3675-8390
Fax:03-3675-8380