Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2009年03月アーカイブ

2009年03月03日

米国新世代最高のピアニストがトリオで来日

 ブラッド・メルドーは説明するまでもなく、米国新世代ピアニストの最高峰である。ニューヨークのジャズ・シーンではメルドーの登場を境に、大きく状況が変化したことが伝えられている。1970年生まれだから今年で39歳。気がつけば中堅に手が届く年齢である。今夜はレギュラー・トリオでのコンサートを「サントリーホール」で観た。ドラマーが長年の付き合いだったホルヘ・ロッシーからジェフ・バラードに交代して、新たな局面に入ったと言われるメルドー・トリオ。ステージはメルドーのオリジナル4連発で、静かな雰囲気の中で進行。ふっと空気が緩んだのは5曲目の「マイ・シップ」だった。マイルス・デイヴィス&ギル・エヴァンス・コラボ盤所縁の名曲を選んだメルドーのセンスにシンパシーを覚えた。しかしすでに演奏時間は1時間を超えている。事前の予想は2セット構成。ライヴ盤にもなったソロ・コンサートがそうだったからなのだが、ここに至って1セットだったことが判明した。そしてアンコールが4曲。休憩なしの2時間超のコンサートの詳細は、「スイングジャーナル」5月号で報じる予定だ。

2009年03月16日

和製ジャズ・メッセンジャーズの心意気

 ジャズ・メッセンジャーズ・フェスティヴァル09@文京シビック小ホール。リーダーの小林陽一は若手実力者を擁したグッド・フェローズや、ニューヨーカーとのモンクス・トリオで活躍するヴェテラン。約300席のこの会場で、毎年のリサイタルを定例化している。ぼくは今回、小林本人から招待を受けて足を運んだ。「JM祭」と掲げているように、50?60年代にハード・バップ?ファンキーを主導した名コンボをテーマとしたプログラムだ。第1部はクインテットによるJMレパートリーの精選集。昨年末に他界したフレディ・ハバード作曲の「アップ・ジャンプト・スプリング」、ボビー・ワトソン在籍時代の隠れ名曲「イン・ケース・ユー・ミスト・イット」等を披露した。「いつもの活動はJMのコピー・バンドではないけれど、今日はJMの完全コピーを目指した」というだけあって、随所にブレイキーに対する小林の愛情と敬愛が感じられたのが嬉しい。そのように告白しただけあって、小林のドラムスはブレイキー譲りの域を超えて、ブレイキーの「生き写し」。第2部になると中川英二郎(tb)、山田穣(as)、岡淳(ts)が加わったオクテットに拡大。レギュラーのJMではなかった編成だけに、さすがの量感を聴かせる。リーダー・クラスのフロントメンにあって、アンサンブルの指揮をとり、要所を締めた松島啓之(tp)の活躍を特筆したい。ぼくがこれまでに観た松島の、最上のステージだったといっても過言ではないほどの出来だった。最後には前座のニュー・スター・ジャムで演奏した若手有望株も加わって、9管の15人編成で「チュニジアの夜」「ブルース・マーチ」を演奏。客席の多くを占めた熟年層を喜ばせていた。

2009年03月18日

スウェディッシュ・ビューティの大使館イヴェント

 一昨年に日本デビューしたスウェーデン生まれの女性ヴォーカリスト=リーサが、新作『ダーリン』の発売を記念して、同大使館で関係者向けのイヴェントを行った。個人的には昨年のボーヒュースレン・ビッグ・バンド以来となる、同大使館訪問である。リーサには一昨年夏のストックホルム取材の折り、現地でインタヴューしていて、その後の初来日公演でも再会していた。本邦第2弾となる新作は、あの桑田佳祐の楽曲のカヴァー集。ジャズ・ヴォーカルでは初めての企画作だ。おそらくこの企画が立ち上がる前に桑田曲を聴いたことがないリーサが、それらのナンバーをどのように自分のものにできるのか、がまず作品を評価する上でのポイントとなる。事前に試聴した感想は、想像以上にジャズ・アルバムとしてこなれていた、だった。原曲を聴いてイメージを膨らませ、自ら英語詞を書いたことで、単なるカヴァー作の域を超えた説得力が生まれたのだと思う。40分間のステージは、レコーディングから飛び出し、ライヴ・パフォーマンスとして披露できるほどに磨き上げていたのが収穫。今夜はギタリスト1人が伴奏を務める形となって、バンドに頼らないリーサの歌唱力もアピールした。終演後のパーティーでリーサとミート&グリート。ギタリストのアンドレアス・オーベリとも話をしたところ、フレンチ・シンガー=フレドリカ・スタールの2008年作『パリでみつけた12の贈り物』にも参加していることが判明。ギターに対する並々ならぬ情熱を持つ男だと知った。

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2009年03月22日

昼下がりのジャズ・ライヴ

 懇意にしているスウェーデン在住のベーシスト森泰人さんからメールが届いた。というわけで、目黒「Jay-J’s Café」へ向かう。九州・小倉在住の若手ジャズ・ヴォーカリスト和田いづみの、東京でのお披露目ライヴである。「スカンジナヴィアン・コネクション」の主宰者としても活躍する森さんは、これまで数多くの北欧人ミュージシャンを日本に招き、日欧の架け橋役に尽力してきた最大の功労者。「森のグレンタ・春の集い」と題したイヴェントはランチタイム後から開演となる、森さんとしては初めての試みだ。森(b)+中村真(p)との共演ステージは、緊張してもおかしくないステージながら、和田がその持ち味を十分に発揮した内容だったと言えよう。ジャズ・ヴォーカルを始めたのが2002年からというキャリアながら、度胸が据わったヴォーカリストと聴いた。グローヴァー・ワシントンJr.のヒット曲「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」をアルバム名にしたコンテンポラリー・センスと、スタンダードをこなすジャズ伝統の理解力、そしてオリジナル曲に認められる創作力も体感した。ジャズ環境の東京一極集中傾向が続く中、九州に根を張った和田の活躍には期待を寄せたい。

2009年03月23日

6年目の新展開

 ピアニストのジョヴァンニ・ミラバッシが来日。イタリアのペルージャで生まれ、現在はパリ在住のミラバッシは、2004年以降、毎年日本のファンの前で演奏することが定例化しており、今年で6年連続となる。今回東京では、トリオのクラブ出演とソロによるホール・コンサートが企画された。今夜はブルーノート東京での3日間公演の初日だ。昨秋にリリースしたレーベル移籍第1弾『アウト・オブ・トラック』では、ジョン・コルトレーン、コール・ポーター等のスタンダード曲を取り上げて、それ以前の作風にはなかった新境地を打ち出した。同作と同じレギュラー・トリオで臨んだBNTのステージ。まずはミラバッシが1人で登場し、ピアノ独奏曲をプレイ。2曲目からはトリオでプログラムが進行した。聴き進めるにしたがって、トリオにおけるドラマー=レオン・パーカーの重要な役どころが浮き彫りに。90年代にジャッキー・テラソン・トリオで頭角を現した1965年NY生まれのパーカーが、ミラバッシ・トリオにダイナミズムとエネルギーを吹き込み、他のトリオとは異なる独自性を獲得していることが明らかになったのだ。アンコールではアップ・テンポで「枯葉」を演奏し、親日家ぶりを示してくれた。

2009年03月27日

丸の内のジャズ・クラブに初出演

 昨年新作『リトル・ガーデン』をリリースした米国出身の歌手エリン・ボーディーが、「Cotton Club」に初登場。3日間連続講演の2日目、ファースト・セットを観た。多くのジャズ・ヴォーカリストが好むスタンダードと、ビートルズ、スティーヴィー・ワンダー等のポップスをレパートリーとする、新世代共通の嗜好を持つ点で、ボーディーはやはりノラ・ジョーンズ以降の流れに位置する女性歌手と言えるだろう。今夜はトリオをバックに、これまでアルバムを通じて知っていた彼女の世界を日本のファンに披露するセッティングだ。次々と曲が進む中、曲紹介のMCで耳に止まったのが「ホワイ・ドゥ・アイ・ラヴ・ユー」。器楽ではマイルス・デイヴィス、シャーリー・パーカーらがカヴァーしているこのガーシュイン兄弟作曲を、ボーディーはマーガレット・ホワイティング歌唱ヴァージョンで知ったという。ラジオから流れてきたのか、たまたま自宅にレコードがあったのか、そのあたりは定かではないが、いずれにしてもジャズ・ヴォーカルのマニアックなアイテムに親しんでいたのが意外だ。母親がノルウェー人で、子供の頃はよく同国の食事が食卓に並んだという。あるいはその点にボーディーの独自性の基礎が隠されているのかもしれない。タイトル未定の新曲やボブ・ディランのナンバーも披露。アンコールではジャズ・ミュージシャンの間で益々人気上昇中の「エスターテ」を、作曲者と同じイタリア語で歌唱。優しさに包まれたステージであった。
 終演後、六本木に移動。「ビルボードライヴ東京」でスティーヴン・ビショップ公演を観る。以下に、ミュージック・ペンクラブ・ジャパンのHPで発表したライヴ・レポートを転載しておく。
 昨年に引き続き、“ミスターAOR”が来日した。最新作のブラジル・プロジェクト『ロマンス・イン・リオ』で、このジャンルを代表するヴェテランの魅力を改めて印象付けたビッシュ。当夜はキーボード&ヴォーカルのジム・ウィルソンとの2人だけのステージで、これまでのキャリアをシンプルなセッティングで凝縮する形になった。50代後半になっても、70年代にファンを魅了したスウィート・ヴォイスは変わらず。映画『トッツィー』のために書いた「オール・オブ・マイ・ライフ」や、オスカー・ノミネート曲「セパレート・ライヴス」等を披露。新曲「ヴェイカント」を含め、聴き進めるにしたがって、ビッシュには哀しい曲が多いのだなと、今さらのように実感した。でも本人は陽気なキャラターで、ビリー・ホリデイの歌真似は思わぬ収穫。ラストは「オン・アンド・オン」「雨の日の恋」の2大ヒット曲で締め、長年のファンも大満足であった。

2009年03月29日

イタリアン・ピアニストの単独公演

 先週、「ブルーノート東京」にトリオで出演したジョヴァンニ・ミラバッシが、1日だけのソロによるホール・コンサートを行った。会場のすみだトリフォニーホールは、バンドでの出演経験はあるものの、ソロでは今回が初めて。というわけで1800席を有するホールでのノーPAによる演奏は、トリオとはまた異なる趣となった。ファースト・セットでは「ハウルの動く城」「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」を取り上げて、メランコリック、メロディアス&ロマンティックな音楽性がクローズ・アップ。セカンド・セットではタンゴ調のナンバーでハイライトを演出し、ミラバッシの音楽性をピュアな形で表現した。『アヴァンティ』に収録し、『アウト・オブ・トラック』でも再びカヴァーした「ル・シャンテ・デ・パルチザン」は、やはりミラバッシのソロを象徴する代表曲だと再認識。なお詳しくは5月20日発売の「スイングジャーナル」6月号を参照してほしい。

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2009年03月30日

東京での初企画クラブ・ライヴ

 大阪を拠点に活躍する清水ひろみは、ライヴ・ハウスを経営し、後進の指導にもあたっており、関西で一国一城を築いて久しいヴォーカリストだ。今夜は代々木NARUへの2度目の出演。ピアノ井上ゆかり、ヴァイオリン里見紀子との共演である。この2人は共演機会が多いが、清水とは今夜が初めて。以前、あるライヴのバックステージで挨拶したことが、今夜の共演に繋がったという。例えばトリオがバックの場合、3人のうちの2人が慣れた共演関係であれば、安定したサウンドが保証されるという定説にしたがえば、当夜の井上&里見は清水にとって、これ以上なく頼りがいのある共演者ということになろう。前回観た時の清水は怪我をして腕を吊っていたが、すっかり健康を取り戻した様子。でもこの初共演と、ジャズ関係者を含む多数の観客を前にして、やや緊張したような印象のステージだった。インスト・パートでは、井上と里見とのやりとりが聴きもの。今後の予定はわからないが、回を重ねるにしたがって、このトリオならではの表現性が深みを増していくと思った。

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