Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年02月アーカイブ

2008年02月04日

ノルウェーの前衛トリオが初来日

 2003年以降、ノルウェーのジャズ・ミュージシャンの来日公演が、年々盛んになっている。北欧4カ国にあって、この国が最も先鋭的で人材の層が厚いことは、今や広く知られるところだ。今夜は同国のベテラン・ピアニスト=ステン・サンデル率いるトリオ公演を新宿ピットインで観た。今回の来日は「ポリトーナル・リズミック・トータル・ミュージック」を標榜したエレクトリック・プロジェクトと、今夜のアコースティック・プロジェクトの2本立てで、サンデルの二面性を浮き彫りにすることが企図された。前日の公演は未見だったが、ここでのアコースティック・セットもオーソドックスなスタイルになる理由はなかった。ピアノ弦の上にタオルを置いて、低音域のミュート効果を生みながらエネルギッシュな即興演奏を展開する。エレクトロ・アコースティック・ユニット、テープのベーシスト=ヨハン・バットリングはアップライト・ベースで完奏。
 今やピットインのハウス・ドラマー(?)の異名を取るポール・ニルセン・ラヴは毎度感じるように、疲れを知らない演奏でトリオを支えた。リニューアルしたピットインのピアノは、サンデルの印象をアップすることに大きく貢献したのだった。

2008年02月08日

リトアニアのジャズ関係者と再会

 「ロシア・ジャズ再考」と題した連続講演の特別編となる『リトアニア・ジャズ特集』を、渋谷アップリンク・ファクトリーで聴講。この会場に足を運ぶのは、セシル・テイラーの映像作品を観た昨年以来、ちょうど1年ぶりとなる。第1部では鈴木正美氏(新潟大学教授)がナビゲーターを務め、現地での取材映像を交えながらリトアニア・ジャズを紹介した。レギュラーゲストの岡島豊樹氏(東欧?スラヴ音楽リサーチ・センター長)がサポート役を務めながら、鈴木氏との掛け合いで笑いを誘ったのも楽しめた。2部に進むとヴィリニュス・ジャズ祭オーガナイザーのアンタナス・ギュスティス氏が登場。アンタナスとは2005年9月にヘルシンキで開催された「Finnish Jazz Weekend」で会っていて、今回の来日前にもメールのやり取りをしていた。同国の歴史、ガネーリン・トリオ解散を契機として、自らジャズ祭を立ち上げたことなどを語り、日本ではまだ知られざるジャズ・シーンが明らかになった。
 会場には20代と思われる女性が多数参加。どちらかと言えばマイナーなジャズにも関心を寄せる若いファンが確実に増えていることを目の当たりにして、喜ばしく思った。

2008年02月11日

個性的な邦人女性ヴォーカリスト

 Stay“G”@渋谷JZ Brat。知人のヴォーカリストに誘われて足を運んだ。事前にインターネットで情報収集を試みたのだが、彼女に関する詳細はほとんどわからなかった。予備知識のないまま入店すると、すでに満員の状況。ぼくが知る限り、これほどの集客は同店のベスト3に入るほど。akiko、中島美嘉ら数多くのレコーディングに参加し、昨年は早真花のデビュー・シングルのプロデュースも手がけたベテラン・ベーシスト=河上修が、Stay“G”の演出家を務めている。ステージの序盤はオーソドックスなジャズ・ヴォーカルの印象。見たところキャリアのあるシンガー、だったが、緊張のせいか歌い出しを間違える場面もあった。それでも曲が進むにつれて調子を取り戻し、「慕情」のヴァイオリン演奏で見せ場を作った。チック・コリア『マイ・スパニッシュ・ハート』のハイライト・ナンバー「アーマンドズ・ルンバ」では、ジャン・リュック・ポンティを想起させるプレイに、意欲的な姿勢を表出。
 終演後に彼女が現在もガンの闘病中だと知り驚くと同時に、今後も自分のペースで演奏活動を続けてほしいと思った。

2008年02月13日

ジャンルを超えた欧日セッション

 テリエ・イースングセット@新宿ピットイン。ノルウェーの新世代ミュージシャンにあって、テリエは他の誰とも重ならない独特の音楽性を持つ。“パーカッショニスト”の範疇に収まらないのは、自家製による氷の楽器を使用したアイス・コンサートを企画し、未知の領域に挑んでいるから。2007年には千歳で日本初の同コンサートを開催している。テリエがステージに登場すると、独自の設営を施したドラムス&パーカッションの前に位置を決め、両手で口琴を、両足で打楽器を操りながら演奏。このソロ・パフォーマンスはテリエの引き出しの、特定の部分にスポットを当てたものであり、その意味では初体験の観客にもわかりやすい自己紹介との印象も抱いた。続いて巻上公一とのデュオへ移行。口琴デュオのパートは、多彩な表現力で上回ったテリエに1票。巻上はテルミンと笑いを誘うヴォイスも加え、巻き返しを図った。今夜のステージは邦楽の女性音楽家2名が加わったのが要注目。篳篥(ひちりき)&笙の中村仁美と、ヴァイオリンの鈴木理恵子が、それぞれテリエとデュオを演じた。最後に4人でのセッションを行った場面では、テリエが日本人ミュージシャンたちの音楽性を理解しながら、自身の演奏を展開した様子が伝わってきた。
 なおオープニング・アクトを務めた日比谷カタンは、ここピットインで着実にファンを増やしていることが感じられ、ギター&歌唱と自虐的トークとのギャップも冴えていたことも付記しておく。

2008年02月14日

スイスのジャズ名伯楽が記念来日

ジャズ・ファンなら誰もが知る世界的なフェスティヴァルが、スイスのリゾートで開催される「モントルー・ジャズ・フェスティヴァル」。昨年、創設40周年を迎えて、オーガナイザーのクロード・ノブスが数多くの貴重な写真を収録した4冊構成の書籍を発刊。今夜は関係者が集うカクテル&ジャズ・パーティーがスイス大使館で開かれた。知人と歓談した後、国府弘子のピアノ独奏と映像を交えたノブスのスピーチで進行。アンコールに応えて国府とノブスの即興デュオが行われると大盛り上がり。モントルーJFとゆかりのあるオノ・セイゲンもスピーチして、パーティーに華を添えた。再び談笑タイムになって、国府さん、「東京JAZZ」のYさんとグラミー賞話題で話が盛り上がった。 会場となったスイス大使公邸には、ジャズ関係者は少なく、意外にもビジネス関係者が多数。そんな中で、ぼくが以前勤務していた銀行内書店の顧客だったMさんと10年ぶりに再会したのはサプライズだった。ヨーロッパ諸国において独自のポリシーを貫くスイスは、国土面では小国ながら、ジャズ界に多大な貢献を果たしてきたことを改めて感じたのだった。

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2008年02月17日

スーパー・フラメンコ第1夜

 クラシックのコンサート・ホールとして定評のある「すみだトリフォニーホール」は、ジャズやワールド・ミュージックの企画コンサートにも積極的に取り組んでおり、大きな成果を残している。今日はスペインの人気ギタリスト=トマティートが出演する2つのプロジェクトの初日。「トマティート&ドランテ・スペシャル・ライヴ」と題されたステージは、ピアノのダビ・ペーニャ・ドランテ率いる4人編成のグループが第1部を務めた。フラメンコ界の名門一家に生まれたドランテは、このジャンルでは珍しいピアニスト=リーダーだ。即興的な要素を含むスパニッシュ・テイストの演奏を聴きながら、いつかジャズ・アルバムにチャレンジしても面白い、と思った。第2部に登場したトマティートはジャズ・ファンにもよく知られたギタリスト。ぼくはミシェル・カミロとのデュオを「ブルーノート東京」で観たことがあるのだが、ギターのネックと左手をまったく見ずにプレイする、楽器との一体化ぶりに驚かされたことを覚えている。今夜はピアノはいない6人編成のグループで、トマティートが本領とする世界を繰り広げた。個人的に最も収穫だったのが舞踏家のホセ・マジャ。全身をボディ・パーカッションのように使いながら、切れ味鋭い身のこなしで、たちまち観客の目を釘付けにしたのである。そちら方面と思しきファンから掛け声(合いの手)もかかり、ステージと客席が一体に。ジャズとはまた一味違うスリリングな瞬間を体感した。

2008年02月19日

スーパー・フラメンコ第2夜

 「すみだトリフォニーホール」での「トマティート&ドランテ」第2夜は「ミーツ・新日本フィル」と題し、一昨日と同じく2組がステージを務めた。同ホールのフランチャイズ・オーケストラである新日本フィルと、フラメンコ・アーティストとの共演は、どのような化学反応が生まれるのか、に興味を抱いていた。第1部はドランテ・グループによる世界初演曲「スール」。王立音楽院でクラシックを学んだドランテにとって、交響楽団との共演は音楽的な接点のあるチャレンジだと位置付けられよう。ジャンルの表現領域を拡大したパフォーマンスとなった。第2部のトマティートは2004年以降、ヨーロッパ各地でオーケストラとのコラボレーションを重ねてきており、今回の演目である「ソナンタ・スウィート」は日本初演となる得意レパートリーだ。フラメンコとオーケストラの出会い・・・こちらも刺激的なステージであった。アンコールで再びグループが登場した場面では、ヴォーカルのモレニート・デ・イジョラが強力な喉を披露。すると他のメンバーが次々とスパニッシュ・ダンスで応え、観客からはヤンヤの歓声が上がった。グループのパフォーマンスに見事に呼応した新日本フィルにも拍手を送りたい。

2008年02月21日

人気女性ピアニストの新たな展開

 日本のレコード会社による原盤制作を含むリーダー作を通じて、多くのファンを獲得しているイリアーヌ。彼女はぼくと同年ということもあり、デビュー時からウォッチしてきたアーティストだ。今夜は1年8ヶ月ぶりの出演となる「ブルーノート東京」でのステージを観た。最新作『サムシング・フォー・ビル・エヴァンス』と同じトリオ編成で、同作と同様にエヴァンスゆかりのナンバーを持ち込んだプログラムとなった。世代的にはエヴァンスの影響下にあって不思議でないイリアーヌだが、ブラジル出身者というルーツとヴォーカリスト兼業の音楽性が、独自のポジションを築いてきた。そんなわけで今回、イリアーヌがエヴァンス・トリビュート作に取り組んだのは、近年公私共に重要なパートナーとなっているマーク・ジョンソンの存在が大きい。エヴァンス最期のトリオでベーシストを務めたジョンソンは、当代白人メインストリーマーとしては屈指の実力者と認知されている。前回の来日ステージでは前作『アラウンド・ザ・シティ』のコンセプトに沿って、エレクトリックを盛り込んだサウンドを披露したが、今回はアコースティックなトリオ・サウンドに徹した。ジョンソンが所有していたエヴァンス・トリオ末期のテープを聴き、感銘を受けたのが、本プロジェクト始動のきっかけだと語ったイリアーヌ。間接的にエヴァンス・ミュージックの真髄に触れた経験を、観客に伝えてくれるステージとなった。

2008年02月28日

新進女性ヴォーカリストの記念ライヴ

 昨秋メジャー・デビュ?作『フライン・バタフライ』をリリースした上西千波のステージを「六本木STB」で観た。同作はロニー・プラキシコがプロデューサーを務め、ジョージ・コリガン、ティム・アマコストらが参加したニューヨーク録音。今や邦人アーティストのNY録音は珍しいものではないが、80年代のM-Base出身でカサンドラ・ウィルソンの音楽監督としても名を馳せたプラキシコが、アルバム制作に参画したとなれば、これは注目しないわけにはいかない。1月に開催されたジャズ・ディスク大賞のパーティーで上西と知り合ったことがきっかけとなり、本日のステージを迎えたというわけである。共演者はプラキシコを除いて日本人からなるサックス・カルテット。2部構成のステージは同作収録曲のほとんどを含むプログラムとなった。ぼくは同作を聴いておらず、今夜初めて上西の歌唱を聴いたのだが、低音域を中心としたヴォーカルには安定感があり、はっきりとしたMC共々、自信を持ってステージに立っている姿に好感を抱いた。ウッド・ベースに徹したプラキシコは、ソロ・パートを演じたものの決して目立つことはなく、上西のサポート役を演じた。個人的には久々に生を観たピアノの椎名豊が、バッキングの上手さで魅了。次回はもう少し小ぶりなクラブで、インティメイトな雰囲気で楽しみたいと思った。

2008年02月29日

世界最古のジャズ祭とのコラボレーション

 1954年に第1回が開催された「ニューポート・ジャズ祭」は、マイルス・デイヴィスやデューク・エリントンなどの優れたライヴ盤を生んだ、史上最古の歴史を誇るフェスティヴァル。80年には「クール・ジャズ祭」と名称を変更し、86年以降は「JVCジャズ祭」として定着している。今回「ブルーノート東京」の開店20周年を記念して、両者のコラボレーションが実現。「JVCジャズ・フェスティヴァル・ウィズ・ブルーノート東京20th」と銘打って、渋谷オーチャードホールでの2日連続コンサートが企画された。今日はその第1夜だ。そもそもジャズ・フェスティヴァルは夏の開催が定番であり、都内でのインドア型国際ジャズ祭では9月の「東京JAZZ」が代表格。その意味でこの時期に開催するのは、新しい試みのイヴェントとして注目に値する。演奏がスタートすると、出演順が事前に配布されたフライヤーとは異なっていることに気づいた。トップ・バッターはハーヴィー・メイソンが実質的なリーダーを務めるパット・マルティーノ+トニー・モナコとのトリオ。すでに伝説となっている波乱万丈なマルティーノのキャリアが、ステージ上の姿にオーヴァーラップし、感慨深いものをおぼえた。次に登場したのはザ・クルセイダーズ。70年代のレパートリーも交えて、長年のファンを満足させてくれた。予想外のトリを務めたのはデイヴ・コズだった。近年「東京JAZZ」やBNT出演を通じて、日本のファンにぐっと存在感が近づいているコズは、サービス精神旺盛のエンタテインメント性に溢れるパフォーマンスを披露。人気アーティストらしく、客席を沸かせてくれた。

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