Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年03月アーカイブ

2008年03月01日

世界最古のジャズ祭とのコラボレーション第2夜

 「JVCジャズ・フェスティヴァル・ウィズ・ブルーノート東京20th」の2日目は、昼夜にわたって開催された。昨日に引き続き、夜の部を観る。トップ・バッターを務めたのは大西順子。1990年代に邦人女性ジャズ・ピアニストのトップを極めながら(「徹子の部屋」出演)第一線を退き、約6年間の沈黙を経て昨年ソロ・アクトとしてBNTで劇的な復帰を果たしたことは記憶に新しい。今夜は共演者抜きのワンマン・パフォーマンスで、30分間のステージを魅せてくれた。次に登場したのはメイソン+マルティーノ+モナコ・トリオ。前夜とほぼ同じ内容で、プロフェッショナリズムを印象付けた。トリを務めたのはクルセイダーズだった。オリジナル・メンバーのジョー・サンプルとウイルトン・フェルダー以外は、リユニオンのための新しい顔ぶれ。ギターのレイ・パーカーJr.は70年代にサンプルがレコーディング・セッションを通じて知り合って以来の間柄。トロンボーンのニルス・ラングレンは自らファンク・バンドを率いる今最も元気なスウェディッシュで、10代にはウエイン・ヘンダーソンのコピーをしていたことを偲ばせるクルセイダーズ・ファンぶりが明らかになったナイス・ガイ。ベースはジョー・サンプルの息子ニックが抜擢されている。そして最大の注目は今回あのスティーヴ・ガッドがドラマーの椅子に座っていること。フュージョン全盛期の70年代から聴き続けているぼくのようなファンにとって、このバンドはクルセイダーズ+スタッフのジョイントだと思わずにはいられない。そして演奏内容は・・・3月19日発売の「スイングジャーナル」4月号の拙稿を参照してほしい。40代が中心と思しき観客が大満足のイヴェントであった、と伝えておこう。

2008年03月12日

地元で開催されたジャズ・フェスティヴァル

 文京シビックホールは1970年代に大活躍した文京公会堂が、形を変えてリニューアルした立派な区役所の中に建設されたコンサート会場。ウエイン・ショーターやボビー・マクファーリンなどを同大ホールで観ているのだが、今日は初めて小ホールへ。というのも出演者であり今回のコンサートの企画者でもあるドラマーの小林陽一から、チケットが送られてきたからだ。
 小林がアート・ブレイキーを信奉するハードバッパーであることは広く知られるところであり、ファースト・セットを務めた小林陽一&グッドフェローズはその持ち味を存分に発揮した。オープニングを飾った「イン・ケース・ユー・ミスト・イット」はジャズ・メッセンジャーズのレパートリー。拙著『21世紀に伝えたいJAZZ名盤250』で取り上げた『アルバム・オブ・ザ・イヤー』の収録曲ということもあって、個人的には幸先のいいスタートとなった。ビバップ〜ハードバップを自分の音楽性の柱に据える明快な小林の主張は、ジャズに詳しくないように見受けられる地元の年配観客にも伝わったと思えた。
 セカンド・セットに移ると村田浩(tp)らヴェテランが登場。コンサート名を「団塊ジャズ・フェスティヴァル08」としたのは、団塊手前の小林がモダン・ジャズ世代へのオマージュを強く打ち出したかったからだという。ベテランの底力を再認識したステージであった。

2008年03月15日

フュージョン界の人気鍵盤奏者、待望の公演

 このところロックやポップスの70年代ものにスポットが当たっているが、先頃リリースされたDVD作が大ヒットとなっているスタッフに象徴される70年代フュージョンも、ファンの支持が根強い。近年はクリス・ボッティやリック・ブラウン作のプロデュース仕事でも手腕を発揮するジェフ・ローバーのステージを「ブルーノート東京」で観た。自身がリーダーとしての来日は実に久々。昨年リリースの『ヒー・ハド・ア・ハット』がぼくのiPodでのヘビー・ローテーションとなっていたこともあり、期待が高まっていた。
 バンドは新鋭アルトサックスのエリック・ダリウスを含む4人編成で、演奏はダリウスをフィーチャーする形で進行した。昨年「Cotton Club」に自己のバンドで出演した時と同様、今夜のダリウスはボディ・アクションを織り交ぜながらのエモーショナルなプレイで、自身初お目見えとなるBNTの観客の前で強烈に存在をアピール。オリジナル2曲を披露したあたりに、ダリウスに対するローバーの期待と信頼がうかがえた。プログラムは最新作ばかりでなく、古いレパートリーも選曲し、とりわけ「ウォーターサイン」の再演に昔の自分がオーヴァーラップして嬉しかった。アンコールではルーファス&チャカ・カーンの「エイント・ノーバディ」をカヴァー。今や斯界の大物となったローバーに親近感を抱いたステージであった。

2008年03月18日

新鋭ピアニストの新作直前ライヴ

 数年間から噂は聞いていた。巧い若手ピアニストがいるという話である。海野雅威は昨年、鈴木良雄トリオ『フォー・ユー』に参加し、広く知られる存在に成長。今夜は4月下旬にメジャー・デビュー作『マイ・ロマンス』のリリースが決定している海野のライヴを、六本木アルフィーで観た。共演者は安ヵ川大樹(b)+加納樹麻(ds)という売れっ子。現在27歳の海野は、上原ひろみや西山瞳に近い世代ということになるわけだが、そのスタイルは彼女たちとは異なっている。プロフィールにはハンク・ジョーンズ、オスカー・ピーターソン、ビル・エヴァンスを敬愛しているとあり、この世代には珍しくモダン・ジャズの伝統に近いタイプと言えるだろう。ぼくが観たセカンド・セットではスタンダード・ナンバーや新作に収録されたオリジナル曲を演奏。海野の優しい人柄が伝わってくるパフォーマンスであった。

2008年03月20日

祭日のホール・コンサート

 平日のライヴは午後7:00以降の開演が多いのだが、日曜日と祭日はもっと早いスケジュールが設定されることが少なくない。本日は2つの会場をハシゴした。まず午後2:00開演のイヴェントが青柳いづみこ「ドビュッシー・シリーズふたたび」第1回。青柳さんはミュージック・ペンクラブ・ジャパンの会員同士ということで、これまでに何度かお話する機会があった。ピアニストであるばかりでなく、文筆家としても活躍されている才人だ。日本におけるドビュッシー演奏の第一人者は、武満徹の楽曲との2本立てにより、東洋と西洋の時間の流れに関して、独自の視点を明らかにした。後半ではジェラール・プーレ(vln)とのデュオ&トークで、観客に得難い時間をもたらした。
 終演後、青山1丁目へ移動。鈴木良雄『ラヴ・レター』コンサート@草月ホール。新作のリリース記念ライヴであり、鈴木の音楽活動40周年記念コンサートでもある。“チンさん”の愛称で親しまれている鈴木は70年代に渡米し、ニューヨークでアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズに参加するなど、本場でベースの腕を磨いたことでも知られるパイオニア。自身のバンド=イースト・バウンス以降は、「心地よいサウンド」を一貫して追求しており、今夜のステージを務めたグループ“ベース・トーク”もその音楽性を体現している。メンバーの中で特に印象に残ったのが井上信平。各種フルートを駆使した演奏は、ジャズでは持ち替え楽器のイメージもあるこのジャンルの使い手として、強く存在感をアピールしたのだった。節目を迎えた鈴木にはこれを機に、さらなる活躍に期待したい。

2008年03月26日

クラブ・シーンの新名所に人気コンボが初登場

 六本木・東京ミッドタウン内に位置する「ビルボードライブ東京」は、南青山「ブルーノート東京」と同規模の収容人員があるハイクラスの音楽クラブということで、昨年の開業から関係者の間でも話題になっている。ジャズ、ソウル、AORを主体としたブッキングは、丸の内Cotton Clubを含めて、ジャンルレスな音楽ファンには見逃せないラインアップだ。
 今夜はマンハッタン・ジャズ・クインテット@ビルボード。リトルジャマーの会報誌「Live Hour」で取材したつながりはあるのだが、一観客として同店を訪れるのは今日が初めて。高級感漂うエントランスを抜けて、場内に案内される。3層構造になっていて、来場者は予算と目的に合わせて座席を選ぶことができるしくみだ。ぼくはステージに近いアリーナ左側に着席。MJQは今回がBLT初出演だったわけだが、おそらく以前に出演??たBNTとほとんど変わらない感覚で演奏できたのではないだろうか。
 ジャズ・メッセンジャーズの「モーニン」を皮切りに、「枯葉」「クール・ストラッテイン」等の人気曲で構成し、ラストは「チュニジアの夜」で締めた。ルー・ソロフがマイルス・デイヴィスへの憧憬を示したり、チャーネット・モフェットが「ジャン・ピエール」を引用するなど、ジャズ・ファンを思わずニヤリとさせるようなソロも飛び出した。終演後には楽屋を訪れ、リーダーのデヴィッド・マシューズを始めとするメンバーに挨拶。クラブ・スタッフのホスピタリティを含め、良い印象を抱いて帰途に着いた。

2008年03月27日

下町で開催された音楽会

 江東区門前仲町はかつてジャズ喫茶の名店があった町だが、ぼくはこれまで訪れる機会がほとんどなかった。今夜はご案内を受けて「くりくら音楽界4 ピアノ大作戦」@門仲天井ホールに足を運んだ。2組のデュオが出演する2部構成のイヴェントである。ファースト・セットに登場した野村誠&林加奈(p,vo,pianica)はピアノ連弾や演劇的な要素を盛り込んだパフォーマンスを披露。最前列にいた幼児を巻き込んだ展開は賛否が分かれそうだが、観客はおおむね好意的だった。演奏が進むにつれて、彼らのパフォーマンスの大テーマが「子供」であると浮き彫りになり、想定外の子供とのコラボにも納得。ただし評論家的な視点では、フリー的演奏ゆえに彼らのスキルを正確に把握するための材料が乏しい無念さは残った。ぼくが同所の地元民ではないため、アットホーム的になっていた会場の空気に馴染めないまま進んだセカンド・セットが始まると、雰囲気が一変した。富樫春生(p)と吉見征樹(tabla)のデュオ。富樫といえばぼくにとっては80年代に吉田美奈子のアルバムに参加したことが印象深い。スイングジャーナルの「ジャズ人名事典」にも掲載されているミュージシャンである。そんな富樫が数小節ピアノを弾いただけで、同じピアノから発せられた音だとは思えないほどの説得力あるサウンドが飛び出したのだ。かつて業界の売れ線に身を置いていた富樫が、今は自分がやりたい音楽世界へとシフトしている。そのポリシーを貫きながら、ピアニストとしての指力を体感させてくれた力量に感服した。

2008年03月29日

売れっ子アレンジャーがゲスト出演

 3日前に「ビルボードライブ東京」で生演奏を観たマンハッタン・ジャズ・クインテットのリーダーであるデヴィッド・マシューズが、ぼくがレギュラーを務めるミュージック・バードの番組「スペシャル・ワークス」にゲスト出演。今日の午後にその収録を半蔵門のスタジオで行った。マシューズは「ニューヨークのベルリッツで日本語を習っています」「日本語は“助詞”と“女子”の扱いが難しいですね」といったお約束のMCで観客を沸かせるほどの日本通。新宿のしょんべん横丁が滞在中のいきつけだというから、本格的だ。マシューズは5月にマンハッタン・ジャズ・オーケストラの新作『スペイン』をリリースし、6月には同オケでの全国ツアーを予定している。ジャズばかりでなくポップスの分野でも優れた業績を残しているマシューズは、しかし大物感を誇示する雰囲気はまったくなく、親日家の素顔で接してくれた。収録はぼくが日本語で質問をし、通訳がマシューズに伝えて、マシューズの言葉をぼくが翻訳しながらまとめる形で進行。「聴き手を驚かせるのが好き」というアレンジの極意が、最も印象的な言葉だった。

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2008年03月30日

桜のホーム・パーティー

 仕事上でお世話になっているC社のKプロデューサーから、ホーム・パーティーに招かれた。昨年の同じ時期にもおじゃまして、日本酒とお料理を堪能している。前回は10人未満の少人数の会だったが、今回はどうなるのか。事前に参加者リストを得ていたわけではなかったので、期待と予測不能感が混ざった気持ちでお宅に向かった。すでに数人の招待客が杯を重ねていて、すぐにぼくも加わる。ヴォーカリストMAYAさん、ピアニストのアキコ・グレースさん、フルート奏者Miyaさんといったミュージシャンや、評論家の岩浪氏、高木氏、さらに業界関係者ら20名超が集った盛況の宴となった。Kさんは日本酒に凝っていて、とっておきの銘柄を招待客にふるまうのが、この会の趣旨でもある。昨年の日本ゴールドディスク大賞を受賞したのがKプロデューサーが手がけた矢野沙織であり、その手腕はジャズ業界で高く認知されている。ご自宅前の公園にある立派な桜の木を鑑賞しながら、心地よい時間を過ごした。

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