Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2007年06月アーカイブ

2007年06月01日

地中海音楽の夕べ 第一夜

 イタリア音楽の伝統を継承した同国中・南部を代表するグループを日本に紹介するシリーズ・コンサート。その第2弾として発表されていたのが先週の今日に開催される予定だったダニエーレ・セーペだが、本人の体調不良により中止となった。本シリーズでは最も期待していたアーティストだっただけに残念である。今夜はテノーレス・ディ・ビッティ“ミアリーヌ・ピーラ”を九段・イタリア文化会館で観た。テノーレスは1995年に結成された4人組のヴォーカル・ユニットで、サルデーニャを本拠に各国の音楽祭やコンサートにも出演。

 同地の最も古い民族音楽の表現形式であるカント・ア・テノーレの歌い手であり、独特の発声を持つのが特徴となっている。通常ヴォーカル・グループはステージに4本のマイクを立てて、4人が横一線に並んで客席に向かって歌うものだが、テノーレスは半円形の陣を組んで歌うのが独特。これは同地の古代建築様式ヌラーゲの形に則ったものだという。俗歌と聖歌という対照的なレパートリーを半数ずつ取り上げたパフォーマンスは、いわゆるリード・ヴォーカリストの豊かな声量とメンバーの歌唱テクニックが圧巻で、感銘を受けた。

2007年06月07日

観終わったあと、誰もがハッピーになれる映画

 今秋ロードショー予定の映画『恋とスフレと娘とわたし』を、新宿・明治安田生命ホールで観た。受付を済ませてロビーに入るとシャンパンのサービス。これは嬉しい。開演前に寛いだところで、客席に座った。同ホールは342席だが、この後映画美学校などでの試写会も予定されている。まずホールで試写会を行った後に、小さい小屋で試写をするのが、映画業界の最近のトレンドなのだろうか。本作は『アニー・ホール』でアカデミー賞主演女優賞に輝いたダイアン・キートンの最新作。母親役のキートンと3人娘の恋愛話を軸としたストーリーだ。今年劇場で観た『ドリームガールズ』『東京タワー』は共に2時間超だったが、長時間を感じさせないテンポの良い展開に好感を抱いた。
 本作の102分の上演時間はぼくには頃合いのいい長さで、しかもTVドラマ風の画面構成もリズムを作っていた。女手1つで育て上げた愛娘のパートナーを見つけるために、母親自らネットサービスを利用してカップリングを画策する。ロマンティック・コメディなので笑えるシーンは随所に用意されていて楽しい。ただアメリカ人と日本人とでは笑いのポイントが違うなと思ったのは、母親役のキートンが新しい恋人とキス&ベッド・シーンを演じる場面。キートンの実年齢を考えると、日本では成立しにくいかもしれない。母がパティシェで三女が料理人という設定なので、美味しいもの好きの女性には支持されそうな映画だと思う。

2007年06月08日

地中海音楽の夕べ 第3夜

 イタリア中・南部の伝統を継承したグループが出演するシリーズ・コンサート。今夜はオッフィチーナ・ゾエをイタリア文化会館で観た。客席を見渡すと大使館関係者のほか、イタリア語を学んでいると思われる若者が多い。定時までには満席になり、補助椅子が並べられるほどの盛況となった。90年代初頭に結成されたオッフィチーナ・ゾエはサレント地方の伝統音楽ピッツィカ・ピッツィカに光を当てて、現代的なサウンドを創造している。7人編成のグループはヴォーカル&タンブリン(大型のタンバリン)の使い手がリーダーでMCを務め、プログラムは進行した。

 ステージ中央に立った若手とベテラン(?)2人の女性ヴォーカリストは個性が異なるが、いずれも声量豊かで強力。伝統的な民族音楽を体現するばかりでなく、異文化の交差点である地中海エリアならではの特徴が彼らの魅力だ。2人のタンブリンが打楽器奏者の役割も演じたのだが、なかなかの重労働と聴いた。後半になるとメンバーが赤ワインを飲み、寛ぎながら演奏。これもイタリア流か。終演後にワイン・サービスがアナウンスされていて、それをいち早くステージで展開する格好となった。賑やかな祝祭空間が現出し、観客も盛り上がった。会場から建物の外へ出ると、ワインと予定外の軽食が用意されていて、そこだけが異国の様相を呈していた。

2007年06月10日

NYのトップ・ピアニスト10名が東京に集結

 「ニューヨークからピアニストが消えた」のキャッチ・フレーズがすっかり定着している「富士通スペシャル 100ゴールド・フィンガーズ」が、五反田ゆうぽうとで開催された。今回が10回目となる節目の年。初期には映像作品も制作されたこのイヴェントは、ピアノ人気が高い日本にぴったりの企画と言える。2部構成のステージはソロ・デュオ・トリオのいずれかで1 人2曲を演奏する進行。同様のセッティングで演奏するということは、それぞれのピアニストの個性と実力の違いが浮き彫りになることを意味する。

 今夜もそれが明らかになったのが面白く、収穫となった。スタンダード・ナンバーを選曲するピアニストが多い中、紅一点の秋吉敏子はオリジナルで勝負。ケニー・バロン、ドン・フリードマンはさすがの貫禄を示し、2曲だけで終わるのは本当にもったいないと思った。MCを務めたのはジュニア・マンスだったのだが、全員のプロフィールを見て最年長だと知り納得。78歳でもまだまだ若い。ラストは全員がステージに現れて、リレー・スタイルで「A列車で行こう」を演奏。ハッピーなエンディングはお約束なれど、「ジャズって、やっぱりいいですね?」の声がどこからともなく聞こえるようであった。

2007年06月13日

ユニークなおやじバンドの満員御礼ライヴ

 サックス奏者・宮本大路が中心の5人組ユニット、ピンクボンゴが、セカンド・アルバム『オーチン・ハラショー!』をリリース。その記念公演が六本木「STBスイートベイジル」で行われた。会場に足を踏み入れると、すでに満員の状況。これには驚いた。都内のジャズ系クラブでは「ブルーノート東京」に次ぐキャパシティを誇るSTBが、全席完売である。しかしこのバンド、高橋ゲタ夫(b)、村上ポンタ秀一(ds)といった人気ミュージシャンを擁しており、各メンバーの固定ファンを考えればかなりの観客動員力を持っているのだ。ステージは「ロコモーション」「シェルブールの雨傘」「恋の季節」「情熱の花」等、60?70年代のヒット曲のカヴァーを交えながら進行。

 笑いを誘うヴォーカルや語りをふんだんに盛り込みながら、ピンクボンゴ・ワールドを展開してゆく。エンタメ精神旺盛のパフォーマンスは演じるメンバー自身が楽しみ、それをオーディエンスも楽しんでいる格好だ。そんな中にあって宮本自作曲「コルトレーン・カルチャー」等のインスト・パートでは、ジャズ・ミュージシャンとしての本領を発揮。宮本はソプラノ、アルト、テナー、バリトンの各サックスとフルートを持ち替えて、マルチプレイヤーの実力を示した。また現在局地的なトレンドになっている「和ジャズ」を思わせるナンバーがあったことも特筆しておきたい。佐野聡(tb,per)らゲスト出演も含めて、満腹のコンサートだった。

2007年06月14日

X世代のギタリストが丸の内に初登場

 日中は御茶ノ水と渋谷でレコード会社関係者と打ち合わせのはしご。ぼくの立場はライター/評論家だが、ジャズ界を活性化させるためのアイデアを提供することも大切な仕事だと考えている。今日は収穫が大きかった。軽く食事をした後、丸の内「Cotton Club」のセカンド・ステージへ向かう。今夜はギタリスト=ラッセル・マローンのカルテット・ライヴだ。昨年リリースした『Live At Jazz Standard Vol.1』(MaxJazz)と同じレギュラー・メンバーでの来日である。以前は大手のヴァーヴに在籍していて、若手実力者のポジションを確固たるものにした。今夜のステージはその本領を発揮しながら、キャリアに裏打ちされた余裕の表情も見せてくれたのだった。

 1 曲目が終わったところでマローンがメンバーを紹介。最後に自分を「My name is Kazumi Watanabe」と紹介して笑いを誘う。ファンキーな「スイート・ジョージア・ピーチ」、セクシーな「フラート」と、前半はオリジナル曲が中心。後半は「愛のプレリュード」「涙のかわくまで」のカヴァー曲も披露し、マローンはフルアコ・ギターをガンガンと鳴らす。マローン以外に個人的に注目していたのが、ピアノのマーティン・ベヘラーノ。最新デビュー作がインパクト大で、今月初めにはロイ・ヘインズGのメンバーとして「ブルーノート東京」に出演している。今夜はリーダー作と同様とまではいかなかったものの、弾けたソロを聴かせてくれたのが収穫。終わってみれば1時間45分の長時間ステージだった。

2007年06月15日

久しぶりの吉祥寺ライヴ

 吉祥寺はレコード店、ジャズ喫茶、ライヴ・ハウスが揃っていて、若者の人気が高い街だ。しかし都心に住むぼくにとっては特別な目的がないと足が向かない街。今夜は本当に久々に吉祥寺を訪れた。まずディスクユニオンへ行く。ここは他のユニオン店に比べると面見せの什器が充実していて、新譜のボリューム感がある。いつもならチェーン店系のそば屋で胃袋を満たすのだが、せっかく吉祥寺に来たからということでカレー店に入る。キーマーカレー900円を注文。まあまあか。その後「Strings」へ。西山瞳トリオを観るためである。関西を拠点に活動する西山はこのライヴ・ハウスを東京でのレギュラー・クラブにしていて、常連客もついている。店内に足を踏み入れると、すでに満席の状態。キャパシティが約40名なのでそれも当然か。壁に貼られているスケジュール表を見ると、著名ミュージシャンの出演予定が並んでいる。こじんまりとしているが、ミュージシャンにとっては演奏しがいのあるクラブということなのかもしれない。

 今夜の西山は昨年リリースしたデビュー作の収録曲には見向きもせず、新曲を中心にプログラムを構成した。それらのいくつかは来月にストックホルムでレコーディングが予定されているセカンド・アルバムの候補曲で、ファンには嬉しい選曲となった。前回観たステージに比べると、テンポの速い楽曲が増えていて、これはアドリブに没入すると等身大以上に力を発揮する西山の本領がそうさせているのではと思った。エンリコ・ピエラヌンツィ譲りのメロディ・センスを聴かせながらも、アドリブ・パートではインプロヴァイザーとして底力を全開。新加入のベーシスト坂崎拓也とのコンビネーションも良好で、先日フィンランドのニクラス・ウィンターGに参加するなど活動の幅を広げるドラマー清水勇博の豪腕も光った。この東京での拠点をさらにキャパシティ拡大することが、今後の課題であろう。西山は女性ピアニスト3人が出演するイヴェント「Jazz Complex」を9月に神戸で主催する。関西から世界へとジャズを発信しようという心意気は素晴らしい。西山瞳、要注目のピアニストである。

2007年06月21日

歌手デビュー10周年を記念した4年ぶりの全国ツアー

 2007年は舞台「ひばり」で幕を開け、映画「東京タワー」が話題を集めた松たか子の次のプロジェクトはコンサート。4月に古巣BMGへの移籍第2弾『Cherish You』をリリースし、今年は音楽活動にも取り組む姿勢を示してファンを喜ばせてくれた。今夜は終盤を迎えた全国ツアーの中野サンプラザ公演を観た。会場の前には長蛇の列が出来ている。以前オーチャードホール公演の時も思ったのだが、会場が30分前というのは無理があるのではないか。入場したはいいけれど、グッズ売り場も人だかりになるからである。3000円也のプログラムは、通常のコンサート・プログラムのイメージとは異なるハンディな判型の写真集的な作り。リハーサル風景などが収録されており、これはやはりファンにはお宝ものだ。ぼくの座席は11列目の中央。定刻から10分遅れでコンサートは始まった。バンドはギター、3リズム、ヴァイオリン、コーラスで、管楽器はなしのシンプルな編成。前回はジャズ、フュージョンでも活躍する山本拓夫(sax)がいい仕事をしていたが、彼の不在を金子飛鳥(vln)が補っていた。というか今回のステージはそういうサウンド・コンセプトということだと思う。

 金子は前回はゲスト参加だったが、今回はバンドの一員としての全面参加である。たかちゃんは曲によってキーボードを弾きながら歌ってSSWの一面を印象づけたり、ピアニカを演奏してパフォーマーぶりも発揮した。ステージ後半は10周年を記念した代表曲のメドレーを披露。この時点で観客は総立ちに。ベストセラーやミリオン・ヒットとは無縁のたかちゃんだが、いい曲が多いことを改めて体感した。衣装替えのために引っ込むこともない2時間出ずっぱりのステージ。でも最後まで声量たっぷりで、ステージ運びにも余裕があった。これは女優として厳しい舞台を数々経験してきたことの賜物だと思う。本人にとっては芝居よりもコンサートの方が楽だったのではないか、と思えるほどだった。メンバーを一新したバック・バンドの好演に好感。中でもバック・ヴォーカルの大滝裕子が素晴らしく、アイドル時代から20年以上にわたって活動している魅力を再認識した。女優のキャリアが音楽活動にいい形でフィード・バックしているたかちゃん。独自のポジションを確立していることを実証したステージであった。

2007年06月25日

ノルウェーを代表する新世代トリオが来日

 “新宿ピットイン”でホーヴァル・ヴィーク・トリオを観る。新作『アーケイズ・プロジェクト』のレコーディング・メンバーによる来日公演だ。ヴィークは同国で今最も勢いのあるグループ“アトミック”の一員で、ピットインにも出演している。ぼくは2003年にノルウェーのコングスベルグ・ジャズ・フェスティヴァルを取材した時、ヴィーク・トリオを観て、強く印象付けられた。メンバーが変わったことも含めて、期待を抱いて店内に着席。ステージは新作からのナンバーを中心に、新曲も含めたプログラムとなった。楽想は大きく言って2つに大別されると思う。その中でピアノ・トリオの伝統的手法にとらわれないヴィークの演奏は、高いレヴェルの技巧を感じさせるものだった。ベンヤミン、アドルノ、カフカら文学的・哲学的な素材にヒントを得て作曲した新作は、一見難解なイメージもあるが、アルバムから伝わってきたダイナミックレンジの広さを、ライヴ空間で体感できたのが収穫。アンコールではオーネット・コールマンのナンバーをカヴァーし、彼らの嗜好性を示した。

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 終演後、アーバン・コネクション?トロンハイム・ジャズ・オーケストラを通じて友人関係にあるドラムスのホーコン・ミョーセット・ヨハンセンと旧交を温めた。アーバンは残念ながら解散したとのことだ。

2007年06月30日

邦人女性ヴォーカリストが夢の共演を実現

 エリック・アレキサンダーとハロルド・メイバーン・トリオが参加した昨年リリース作『フェイス』が話題を呼んだ平賀マリカ。今回日本で人気の高いマンハッタン・ジャズ・クインテットを起用した新作『クロース・トゥ・バカラック』の発売記念コンサートを、半蔵門のTOKYO FMホールで観た。ぼくがレギュラー出演しているミュージックバードの番組を収録しているスタジオと、同じ建物である。新作は米国ポピュラー音楽界の大御所作曲家であるバート・バカラックの名曲を集めたソング・ブック。アルバムにバカラック・ナンバーを取り上げるジャズ・ミュージシャンは少なくないが、フル・アルバムとなると話は別だ。
 しかもMJQとの共演は強力な援軍を得たと同時に、大変なプレッシャーとなったことは想像に難くない。2セットで行われたステージで、MJQの面々は平賀に最良のサポートを行った。スタジオ・シーンで腕利きの面々がバックで演奏するのだから、これこそヴォーカリスト冥利に尽きるというものだ。曲間のMCでは日本語に堪能なデヴィッド・マシューズ(p)と平賀のやり取りが笑いを誘った。ステージが進むにつれてメンバーも寛いできたようで、チャーネット・モフェット(b)のパフォーマンスもグッド・ジョブ。邦人女性ヴォーカル・シーンで一気に存在を高めた平賀の、好調ぶりを印象付けるコンサートであった。

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