Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年05月アーカイブ

2008年05月02日

邦人ヴォーカリストが名匠を迎えたデュオ・ライヴ

 大阪在住の清水ひろみは先頃、新作『ワルツ・テンダリー』をリリース。ケニー・バロンとの共演作で実績のある清水は、昨秋NYを訪れてドン・フリードマンとの同デュオ・アルバムを完成させた。今夜はその記念ライヴが東京・赤坂「B♭」で行われた。清水のステージは1ヶ月前にも観たが、その時はお弟子さん2人の公演のゲスト出演だったので、今夜はかなり趣が異なる。まずフリードマンが登場して、1曲演奏。そして清水がステージに現れて、『ワルツ?』の世界をリアルに演じてくれた。近年、内外で多くの若いヴォーカリストが活躍していることもあって、ライヴに接する機会が増えているのだが、ピアノとのデュオは意外に珍しい。歴史的に見ればエラ・フィッツジェラルド&エリス・ラーキンスのデュエットが名高い。そんなことを思いながら振り返ってみると、自分自身このセッティングのライヴを前回いつ体験したのか思い出せないほど。清水はいつも自然体の歌唱で、それが魅力でもあり、フリードマンをパートナーに迎えた今夜も等身大で自己表現する姿勢は変わらなかった。歌伴奏の作品が極めて少ないフリードマンが、ベテランらしい匠の技を随所で光らせてくれたのも収穫であった。

2008年05月06日

3年ぶりのノルウェーへの旅

 ノルウェーの西海岸に位置するベルゲンとスタヴァンゲルで開催される「JazzNorway in a Nutshell」から招待を受けた。早朝に出発し、成田空港からコペンハーゲン経由でオスロへ。コペンに予定よりも30分以上早く到着。この空港はコンピレーションCDが日本でリリースされているほどの人気があり、ここを拠点にヨーロッパ各国へトランジットする点でも国際色豊かである。入国審査を通過してショップ・エリアに進んだところで、何とも言えない懐かしくもぼく好みの空気を体感した。ビールを飲みながら待ち時間を過ごし、オスロ行きに搭乗。同空港からオスロ市内まではエアポート・エキスプレスで約20分という至近距離だ。ナショナルシアター駅で下車すると、懐かしい風景が目の前に広がる。ホテルに入室し、一段落したところで「Bare Jazz」へ。1FがCDショップ、2Fがライヴ・スペースになっているオスロ・ジャズの拠点と言っていいお店だ。今回のジャズ・フェスにぼくを推薦してくれた外務省のルンデ氏がメンバーでもあるオスロ・ジャズ・サークルの月例会を見学。ノルウェーのトランペッターPer Borthenの特集であった。パネリストには『History of Jazz Tenor Saxophone』の編纂者Jan Evensmo氏もいらして、初対面の挨拶。昨年同氏からのリクエストを受けて、ディスコグラフィーのための資料を提供した経緯があり、今夜は嬉しい対面となった。最新の「Vol.6: 1955-1959」を頂戴する。データーに加え、セッションのコメントも記載されており、これは労作である。終演後は関係者と共に遅いディナーをとりながら、オスロの夜を楽しんだ。

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2008年05月07日

北欧の西海岸を初体験

 ホテルをチェックアウトして、国立劇場駅からオスロ空港へ。外務省ルンデ氏とゲート前で待ち合わせた。搭乗時刻までマニアックなジャズ話。約50分でベルゲンに到着する。なかなか清潔感のある空港だ。バゲッジ・クレイムで待機していると、1人の女性から声をかけられた。もしかしてMaiJazzに参加されるのですか?、と。イタリアでジャズ・クラブを経営するChristianeさんだった。我々の風貌でジャズ関係者ということがわかったのだろうか。こういうのは世界共通なのかもしれないと納得。関係者に迎えられて、車でランチ会場のKafe Kippersへ移動する。すでに前日からベルゲン入りしているゲストたちと合流する形になった。その後、小型フェリーに乗り込んで、今日の宿泊地でもあるローゼンダルを目指す。まだ雪の残る山々を眺めながらの、1時間半の船旅。
 今夜はゲストのためにライヴがセッティングされた。会場のバロニエ・ローゼンダルは17世紀に建てられた由緒ある館。2Fの“レッド・ルーム”で行われたのは若手デュオ・チーム=アルバトロシュのライヴだった。前衛的なサウンドを基本に、メロディアスで抒情的な部分も織り交ぜた演奏。ハーモニック奏法やサーキュラーブリージングを自在に操るアンドレ・ルーリヘッテン(ts)は、なかなかのテクニシャンと聴いた。ピアノのアイオルフ・ダーレも、将来性を備えた新鋭と言える。まだアルバム・デビューをしていない2人。その時がいつになるのか、今から楽しみだ。終演後は古風な雰囲気のレストランで会食。宴は午前0時過ぎまで続いた。

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2008年05月08日

ノルウェー・ジャズの真髄に触れた夜

 朝食後、小型船でハウゲスンへ移動。マリティム・ホールでブッゲ・ヴェッセルトフトのソロ・パフォーマンスを観る。ピアノ線の間に物を挟んでプリペアードにしながら、電気処理によってループを作り、ピアノ&キーボードを演奏。ユーモラスな内容のVAも使用し、途中「テイク5」で和ませる場面を織り込んだ40分だった。ブッゲとは5年ほど前にインタビューした関係で、終演後に談笑。ランチをとってから、引き続き船でいっしょにスタヴァンゲルへ向かった。
 <夜の部>はスタヴァンゲル市長主催のレセプション・パーティーからスタート。MaiJazzのゲスト・リストで確認していたロシア人の女性に挨拶する。何と驚いたことにセルゲイ・クリョーヒン未亡人のアナスタシアさんであった。現在「SKIF」というジャズ・フェスティヴァルのマネージャーを務めながら、クリョーヒンのアーカイヴを作品化する仕事にも携わっているとのこと。3年前の「Finnish Jazz Weekend」でお世話になったミンナカイサさんと再会できたのも嬉しかった。また我々とは別のグループでパーティーに参加したリトアニアのダリアさんと知り合えたのも収穫。1時間半の宴を楽しんだ後、アリルド・アンデルセン・ランダベルグ教会。90年代に率いた2つのグループを合体させたコンセプトによるSagn-Arvだ。ノルウェーの伝統音楽を素材にしていると聞いていたので、室内楽的なサウンドを予想していた。ところが女性ヴォーカリストを含む5人のメンバーがステージに登場してから、この予想を嬉しく裏切られるのに、さほど時間はかからなかった。トラディショナルを素材にしながら、ジャズ特有のパワーとダイナミズムが随所で溢れた演奏。ブッゲ・ヴェッセルトフト(p)がソロをとる間、挑発するかのようなベース・プレイを繰り出すシーンは、アルバムを通じてイメージを抱いていたアンデルセンとはかなり異なっており、新鮮に映った。ライヴを初めて観て、それまで知らなかったミュージシャンの音楽性を発見することがあるものだと、再認識させられた次第。パット・メセニー「ファースト・サークル」を想起させる手拍子からのナンバーも、親近感を抱かせた。ヤン・ガルバレク以降、ノルウェーのテナー奏者の間に脈々と流れるスタイルをバックボーンとしたベンディックの、生初体験に感激。終演後、アンデルセンと話をすると、まだ来日公演の経験がないとのこと。このバンドでいつか実現させてあげたい、と強く思った。

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2008年05月09日

ノルウェーの新旧アーティストを堪能

 今回、我々ゲストは通常のフェスティヴァル・プログラムの他に、特別に用意されたお楽しみイヴェントを通じて、ノルウェーの魅力を知ることができるという趣向である。午前10:00、ホテル前からフェリーに乗船。約6時間のクルーズを楽しんだ。今日も快晴で、日差しは強過ぎるほど。まさに絶好のクルーズ日和となった。1時間半ほど経ったところで、トーレ・ブリュンボルグ・トリオの船内ライヴがスタート。ぼくは10数年前にブリュンボルグのリーダー作『ティード』のライナーノーツを書いて以来、同年ということもあって常にウォッチしてきた。ヤン・ガルバレク譲りの音色は、やはりこの国が生んだ立派な個性なのだと思う。クールな表情のブリュンボルグと、終始熱演顔でプレイするベースのオーレ・モーテン・ヴォーガンのコントラストも、このトリオの魅力だと実感した。ランチの後はこの国ならではの大自然をたっぷりと味わうルート。フィヨルドという言葉はもちろん知っていたが、実際に間近で見た迫力には圧倒されてしまった。まさにナチュラル・アートである。ヒルデ・マリー・シェルセム(vo)率いるポップ・バンドが、ゆったりとしたフェリーの速度にぴったりの、リラックス・ムードを醸し出してくれた。
 7:00からはセント・ペトリ教会でヨン・バルケ“シワン”を観る。バルケといえば、94年リレハンメル五輪の記念イヴェントで、自己のラージ・アンサンブルを率いて来日公演を行ったことが思い出される。その後、2003年のコングスベルグ・ジャズ祭でバルケの小編成バンドを観ており、今夜はぼくにとって5年ぶりの生ステージとなった。バルケのシンクラヴィアの他、女性ヴォーカル、パーカッション、ストリングスら総勢16名からなるパフォーマンス。モロッコやアルジェリア出身の歌手&打楽器奏者と、北欧の弦楽器奏者のコラボレーションを実現させたバルケの企図に、飽くなき探求心を聴いた。ECMからソロ・ピアノ作を出したばかりだが、こちらのコンセプト作もリリースが待たれるところである。9:00過ぎからはマティアス・アイク・スタヴァンゲーレン。新作『The Door』をリリースした直後のパフォーマンスとなった。70年代初期のマイルス・デイヴィス・グループを想起させるサウンドは、スイスのエリック・トリュファ(tp)とも重なるもので、アイクの音楽が母国の若者に支持されていることを目の当たりにしたのも、今回のライヴ体験ならではの収穫であった。

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2008年05月10日

今日は国際色豊かなラインアップ

 今回JazzNorway in a Nutshell (略称=MaiJazz)に招待された関係者は、その目的ゆえノルウェーのミュージシャンを優先して観るようにスケジュールが組まれている。フェスティヴァル・プログラムにはウエイン・ショーター4、ジョン・スコフィールド、エンリコ・ラヴァといった他国のビッグ・ネームもブッキングされているのだが、断念せざるを得ないのが残念ではある。今日は午後1:00からスタヴァンゲル大聖堂前広場でアンデイ・シェパードのフリー・コンサート。英国のシェパードは80年代にAntillesからデビューし、当時センセーションを巻き起こしたテナー&ソプラノ奏者だ。近年は200人規模のサックス・アンサンブルのオーガナイザーとしても活躍中で、若手時代とは異なる独自の表現領域を開拓してきた。今回のステージは子供から大人まで、プロとアマが混ざり合った男女約80人のサックス・クワイアを率いたパフォーマンス。シェパードのソロに導かれて、クワイアのメンバーが列をなして登場し、ステージ前の観客の間をぬって円形に陣取る。続いて順にステージに進み、全員が揃ったところでシェパードがフロント中央に現れた。演奏はシンプルなリフを基本としたもので、これはメンバーの技術的な差をカヴァーできるアイデアだったと思われる。ステージが狭いため、広場中央で指揮者がディレクション。佳境に進むと、シェパードも指揮をとり、2人が交互にクワイアに指示を出す展開へ。キャリアの違いを超えたノルウェーのサックス・アンサンブルを見事に統率したシェパードの、国境を超えた素晴らしい仕事ぶりに唸った。
 午後7:00からはオレゴン@セント・ペトリ教会。アメリカからのビッグ・ネームの1組であり、以前アルバムをリリースしたことやメンバーのラルフ・タウナーが現役の所属アーティストであることを踏まえれば、ECM特集の番外編と言っていいかもしれない。ぼくは30年以上ものファンなのだが、今まで生で観る機会はなかった。なかなか来日公演が実現せず、おそらく今後も期待できそうもない。そんなこともあって、今夜は長年の夢が現実になるステージだ。タウナーのギターで始まった演奏は、たちまち教会のアンビエンスに融け込み、このユニットを体感するための最上の空間であることを知った。オレゴンといえばニューエイジの先駆的存在とも捉えられているようだが、MCも務めたポール・マッキャンドレスはそんな固定観念を吹き飛ばすほどの熱演を披露。顔を紅潮させながらオーボエとイングリッシュホルンを吹奏する姿に、創立メンバーの揺るがない信念と創造性を聴いた。タウナーがギターとピアノを弾き分けることの音楽的効果にも、改めて魅せられ、唯一無二のオリジナリティ豊かなサウンドを堪能した。最近他界した友人に捧げた「1000 Kilometers」のドラマティックな旋律と、マッキャンドレスの迸るジャズ・スピリットに感動。気がつけば加入から10年以上が経つマーク・ウォーカー(ds,per)は、バンドをドライブさせるエネルギーの要として、存在感を印象付けた。グレン・ムーア(b)のテクニシャンぶりは言わずもがな、である。
 9:00からはフローデ・シェルスタ・サーキュラシオン・トータル・オーケストラ2008@Tou Scene。60歳を迎えたスタヴァンゲル出身のサックス奏者が組織した、12人編成のバンドである。インゲブリクト・ホーケル・フラーテン(b)、ポール・ニルセン=ラヴ(ds)らノルウェーの若手と、ボビー・ブラッドフォード(cor)、サビア・マティーン(ts,cl,fl)、ルイ・モホロ(ds)の黒人勢が合体した“呉越同舟”風の大所帯は、ステージに揃っただけでユニーク。伝統的なフリー・ジャズのスタイルにエレクトロニクスのノイジーなサウンドが刺激を注入する展開は、過去と現在が結びついた北欧ジャズの現在として、面白く聴いた。

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2008年05月11日

大御所が登場したジャズ・フェス最終日

 一部のゲストたちは帰国したが、最後の合同ランチ・ミーティングが海沿いのレストランで催された。ラム肉とワインを堪能した後、徒歩でライヴ会場となる教会へ移動。道中、パオロ・フレスとの共演作をリリースしたばかりのベーシストSvein Folkvordと話す。MaiJazzの演奏会場に多くの教会が選ばれた理由は、この土地にそれほど多くのジャズ・クラブがないためとのこと。アリルド・アンデルセンにしろヨン・バルケにしろ、このような事情を逆にアドヴァンテージに転化したことは明らかで、アイデアの勝利とも言えるだろう。午後4:00からのライヴは2枚のアルバムをリリースしている若手トリオ、イン・ザ・カントリー。ノルウェーの様々なピアノ・トリオにあって、彼らは独自の音楽性を打ち出している。鍵盤奏者はピアノの他、電気楽器も使用するのだが、あくまで全体のサウンドに対する色づけ。ヴォーカルをとるのも特徴で、しかしそれも歌+伴奏という図式ではなく彩り的な役割。ノルウェーの伝統音楽からの影も感じさせるサウンドは、決して広くはない同国のジャズ・シーンで個性をアピールできるものだと思った。
 7:00からはいよいよフェスティヴァルのハイライトとなるヤン・ガルバレク公演。会場のIMIフォーラムは1600人収容のコンサート・ホール。先日のチック・コリア&上原ひろみ@日本武道館と同様、ステージ両サイドに大プロジェクターを設置して、アーテーストをクローズ・アップするのは珍しいセッティングだ(あるいはテレビ収録と連動していたのかもしれない)。ぼくは数年前に東京でガルバレク・カルテットのコンサートを観ているが、今夜はベースとドラムスが交代したニュー・カルテット。ガルバレクの現時点での最新リーダー作『In Praise Of Dreams』(2003年)にも参加したマヌ・カッチェが、ドラムスに座っている。この新しいバンドはカッチェのダイナミックなプレイがバンドに力強いエネルギーを吹き込み、その結果かつてないほどのユニット力をもたらしたことを実証した。ステージ後半に予想だにしなかったカリプソ・ナンバーまで飛び出すに至って、60歳を超えたノルウェー・テナーの巨匠がさらなる前進を企図したことを知り、感動がこみ上げてきた。何よりガルバレクの“泣ける”サックスが堪らない。メンバー紹介はマイクを使わず、しかし温かい雰囲気に包まれるミュージシャンシップが何とも好ましいのだ。同国の音楽ファンにとってヤン・ガルバレクというミュージシャンが特別な存在であることも体感できた。このバンドによる新作が待ち遠しい。

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2008年05月14日

トップ・イタリアン・ジャズ第2弾

 昨日ノルウェーから帰国した。日本での生活モードにリセットして迎えた本日。イタリアを代表するジャズ・フェスティヴァル“ウンブリア・ジャズ”とブルーノート東京のコラボレート企画は、エンリコ・ラヴァを主軸とした昨年の第1回に大きな収穫を上げた。第2弾となる今回は内外の著名ミュージシャンとの共演経験が豊富なドラマーのロベルト・ガットが率いるクインテットの4日間公演。“トリビュート・トゥ・マイルス 1964?1968”のタイトルから明らかなように、60年代のマイルス・クインテットの追悼企画である。このコンセプトの出どころは不明だが、ハード・バップをベースとしたクラブ・ジャズやモダン・ジャズ黄金時代のベテラン・ミュージシャンに再びスポットライトが当たっているイタリアン・ジャズの現況を参照すると、ガットが60年代マイルスに示唆されたことも納得できる。クインテットのメンバーはいずれもキャリアのある腕利き揃い。彼らをもってすればマイルス・クインテットのコピーも可能であろう。それとは異なる“らしさ”をどのように打ち出してくれるのか、に注目していた。「ジョシュア」で幕を開けたステージはダド・モロニ(発音的にはダード・モローニ)が文字通りピアノを揺らせた「ノー・グレイター・ラヴ」や、倍テンポでフラヴィオ・ボルトロ(tp)が実力を印象づけた「フットプリンツ」で、バンドの独自性を発揮。「星影のステラ」では50年代のマイルス&コルトレーンを想起させる場面もあって、ガットのアレンジ手腕も光った。以前から名手と認識していたガットが、ハンド・ドラムでハイライトを演出したのも見もの。アンコール曲「ソー・ホワット」では最後に「ザ・テーマ」を演奏し、当時のワーキング・バンドとしてのマイルス5への正統なトリビュートを示した。終演後、モロニと談笑。

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2008年05月15日

ノルウェー王国建国記念祝賀会

 今年もやってきた。一昨日ノルウェーから帰国して、その感覚が冷めないタイミングでの、大使館イヴェントである。今回は招待客が多いため、正午を境に2回に分けて開催されたとのこと。実際に現在のノルウェーを体験して、石油産業が好調な同国を知っていたこともあって、勢いのある国は違うとの認識を抱いていた。1週間のノルウェー滞在中に味わったのは、食の部分でのホスピタリティの素晴らしさ。本日のパーティーはぼくが体験した中では、過去最高のおもてなしであった。フード&ワインが豊富に提供され、誰もが最上のランチだと感じたに違いない内容。会場ではマーク・ラパポート氏、八木美知依さん、オフィス大沢氏らと談笑。八木さんは4月にペーター・ブロッツマン+ポール・ニルセン=ラヴとのトリオでノルウェー公演を行っており、日本との架け橋的な役割も担っている琴奏者である。プールサイドでは中ムラサトコさんらのトリオによるパフォーマンスも行われた。改めてこの国にシンパシーを抱いた、午後の出来事であった。

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2008年05月16日

国境を超えた超強力トリオ

 ヘヴィーウエイツ@新宿ピットイン。ペーター・ブロッツマン(ts,as)+佐藤允彦(p,electronics)+森山威男(ds)は、グループ名に違わぬ重量級トリオだ。ブロッツマンは昨年3月に八木美知依(筝)+ポール・ニルセン・ラヴ(ds)とのトリオでピットインに出演しており、ぼくが先日訪れたスタヴァンゲルの「Tou Scene」では同トリオでのステージを務めている。おそらく初めての出会いだと思われるこの3人は、意外にもブロッツマンと佐藤が同じ1941年生まれ。“200歳トリオ”の異名も取る彼らは、しかし年齢から抱く枯れたイメージとは正反対の、暴力的なサウンドでセカンド・セットの幕を開けた。ひたすら疾走し続けるブロッツマンは、一見過剰にカオスを発散するかのような即興演奏だ。しかし一瞬たりとも気が抜けないプレイを聴きながら思ったのは、カオスそのものの奥に存在する主張こそがブロッツマンの企図であること。疲れを知らない森山の演奏はドイツの巨人を迎える日本人ドラマーとして、最適だと体感できた。それにしても今夜のピットインは立ち見まで出る超満員状態で、改めてこのクラブのフリー・ジャズ人気の高さを裏付けた。筋金入りと思われる年長者ばかりでなく、チケットぴあで購入したような若い音楽ファンまで。ジャンル聴きしない彼らにとって面白い音楽がそこにある、ということなのだと感じた一夜であった。

2008年05月17日

3年ぶりのソロ・コンサート

 2005年10月以来3年ぶりとなるキース・ジャレットのソロ・コンサートを、東京・渋谷“オーチャードホール”で観る。この間キースは同年9月のNY録音作『カーネギー・ホール・コンサート』で新たな感動を全世界に発信しており、今宵会場に集ったファンの多くは同作をインプットした上で開演を心待ちにしたと思われる。慢性疲労症候群という難病が落ち着いた復帰後のステージは、即興のショート・ピースを主体としたプログラムであり、今夜もそのスタイルが踏襲されると予想していた。
 会場に入ると、注意書きが目に飛び込んできた。前回のソロ公演で俎上に上ったノイズ問題である。携帯の電源を切り、傘を床に置き、ハンカチを用意すれば準備完了。ファースト・セットはわかりやすいメロディの繰り返しから始まり、やがてアブストラクトな場面へ移行。その後、祈りを思わせるパートに進んで静かな演奏へ。と、そこで観客の咳が気になったのか、演奏を終わらせた。キースが「どうぞ咳をしてください」のジェスチャーをしたことで、曲が終わったことを知った観客が拍手。キースは「咳をする時は口をふさいでほしい」と意思表示。曲の流れとしては、ここで止めなくてもいいのに、と思った場面だったので、キースの集中力が途切れたのがその理由なのだと解釈した。ここまでが30分の連続演奏。もしアクシデントがなければ、初期の流儀と同じように40?45分の即興となったのではないか。気を取り直して臨んだ2曲目は、アップテンポでのアブストラクトな演奏に集中。約15分間でエネルギーを一気に吐き出した。
 セカンド・セットの1曲目は短い即興。続く25分間の演奏では、過去に例のない場面を目撃した。演奏中にキースがピアノ蓋を閉じたり開いたりを繰り返して、観客の笑いを誘ったのである。この動きはファースト・セットの咳問題に起因していると思ったのだが、どうだろう。こうしてセカンドはフィニッシュ。午後8:40のここまで正味1時間13分は、過去の来日公演に比べてかなり短い。アンコールは1曲目がスロー、2曲目がファンキー・チューン。ここで終演かと思ったが、キースは再び拍手に応えた。美旋律バラードの3曲目、ブルースの4曲目ときて、5回目のアンコールでは再び美旋律バラードを披露。その間、一旦退場してお辞儀をしただけでまた退場というシーンも繰り返されたのだが、このような客席とのやり取りはすっかり定番となった。終わってみれば40分超のアンコール・パートは、セカンド・セットよりも長時間。今夜思ったのは、キースのソロ・コンサートにおいて、今やアンコールは単なるアンコールではなく、本編と同等、あるいはそれ以上の重みがあるということだ。そこに長編インプロヴィゼーションとのコントラストをキースが企図していたのであれば、ファースト・セットの想定外の事態はかえすがえすも残念。アンコールで客席を指差し、「ライトが見えた。カメラを回しているのなら止めてほしい」と言いながらも、アンコールに応えてくれたのが嬉しい。お茶目な素顔を見せたキースは、やっぱり世界で日本のファンを最も愛しているのだと思う。

2008年05月22日

くりくら音楽会最終夜など

 3ヶ月連続で開催の「ピアノ大作戦」@門仲天井ホール。その最終回となる今夜はピアニスト+管楽器奏者が2組出演するステージとなった。ファースト・セットは西山瞳(p)&井上淑彦(ts,ss)。以前からチームを組んでいる2人のパフォーマンスを観るのは、今夜が初めてということもあって楽しみにしていた。演奏は両者の真面目で真摯な人柄が反映された内容となった。個人的には西山トリオで親しんでいたレパートリーが、サックスとのデュオによって新しい表情を見せてくれたのが収穫。自作曲における西山の表現力の幅広さを興味深く聴いた。セカンド・セットは新澤健一郎(p)&太田朱美(fl)デュオ。フュージョンからアコースティックまで守備範囲が幅広い新澤と、今春アルバム・デビューした太田はフレッシュな組み合わせだ。それぞれの自作曲を主体に構成したプログラムは、変幻自在で懐の深い新澤と、自身の役割に誠実に向かった太田のコンビネーションが相乗効果を表出。キメ事の多い楽曲で、個人技を出しながらダイナミックに共鳴したのは見事だった。個人的に嬉しかったのは、エグベルト・ジスモンチ曲「フレヴォ」。この難曲を取り上げ、デュオとして成立させた2人に拍手を送りたい。昨年のジスモンチのコンサートも観たぼくとしては、次回はぜひ同曲収録作『サンフォーナ』からの「ロロ」をリクエストしたい。それにしてもフルート専門でプロ・キャリアをスタートさせた太田の高いスキルは、目をみはるものがある。
 丸の内へ移動し「Cotton Club」へ。フィンランドのチューブ・ファクトリー公演のセカンド・セットを観る。彼らは2年前に「ピットイン」で観ているが、同国のジャズ・ミュージシャンがこのクラブに出演するのはそれほど頻繁ではないだけに、個人的に嬉しいことだ。ステージはリーダー=ペッカ・ピルカネン(as)率いるカルテットの、ストレート・アヘッドなアコースティック・サウンドが展開された。ラスト・ナンバー「ア・クライ・フォー・アフリカ」では60年代のジョン・コルトレーン・カルテットを想起させるモーダルな演奏を披露。同国のジャズ・シーンの一端を伝えた。終演後ピアノのサムリ・ミッコネンと談笑。約3週間のジャパン・ツアーを組んだのがペッカ本人だと知って驚いた。繰り返すようだが、CDセールスとライヴ集客が並行して上昇傾向となるサポート・ワークにも尽力していきたいと思う。

2008年05月23日

3年ぶりのソロ・コンサート第2夜

 先週の土曜日に続くキース・ジャレット東京公演@池袋・東京芸術劇場。先週のステージでは予想通りと言うか、マナーをわきまえない観客に起因するアクシデントが発生した。今日こそはそのようなことがないようにと願いつつ着席。ファースト・セットはアブストラクトなサウンドで始まり、テンポ・アップした後、急に場面転換してスロー・テンポへと進んだ。これは先週と同じような展開と言っていい。違っていたのは前回が観客の度重なる咳によって集中力の途切れたキースが、演奏を止めてしまったこと。今日の1曲目は37分間の連続演奏となった。これこそがキースの意図したものだったのだろう。7分間のブルースが続き、ファースト・セットは終了。セカンド・セットは即興の3曲。キース・ソロの重要な要素である「祈り」の美旋律が印象的だった。さてファンお楽しみのアンコール。1曲目はアップ・テンポのバピッシュなナンバー(曲名不詳)。思案して始めた2曲目は「マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ」。90年代末の療養中にキースが自宅スタジオで吹き込んだ『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』収録曲である。ところが演奏からほどなく「sorry」と言って中断。キーが違っていたということだったのだが、この光景、先週のオーチャードホールでも観た。観客を和ませるための持ちネタだったとは。そして3曲目のアンコールに応えてキースが選んだのは「イージー・リヴィング」。キースの音楽家人生は決して平坦な道のりではなかった。そんなキースが今、ソロでこの曲を演奏している。2曲目の笑いを誘うアクションを含めて、余裕があるということなのだろうか。かつてないアンコールの選曲に、深い感銘を受けた。

2008年05月26日

フィンランドと日本の合体ユニット

 新澤健一郎トリオ・ウィズ・スペシャル・ゲスト・ニクラス・ウインター@丸の内Cotton Club。昨年末にリリースされたニクラスの新作『Beautopia』の記念ライヴである。3年前にヘルシンキで知り合って以来、ニクラスとは連絡を絶やさない間柄だ。今回はいよいよ高級店への出演となる。邦人トリオに客演する形になったが、ピアニストの新澤は同作に参加しており、両者の再会ステージということでもある。新澤がMCを務めてプログラムは進行。ニクラスはジョン・スコフィールド以降の流れを汲むスタイルで、シリアスな音楽性を披露。共演トリオはレギュラーで活動しているだけあって、タイトなサウンドを供給。大槻“カルタ”英宣(ds)のパワフルでフレキシブルなプレイが、バンドを強力に鼓舞したことが特筆される。トリオ・パートではアドリブでハービー・ハンコック「アクチュアル・プルーフ」も飛び出し、思わずニヤリ。終演後のサイン会では人が途切れず、ニクラスが日本で着実にファンを増やしていることを実感した。

2008年05月28日

フィンランド・フェスト2008

 先週と今週はフィンランド・ジャズ関係のイヴェントが続いている。今日は午後にMusic Export FinlandとFinnish Music Information Centre主催のビジネス・ミーティングに足を運ぶ。会場の南青山モダポリティカは昨年と同じ。表参道駅を下車して骨董通りを歩いていると、向こうからニクラス・ウィンターがやって来た。一昨日ライヴを観たニクラスはギタリストであるばかりでなく、レーベルAbovoiceのオーナーでもあり、今日の商談会にも参加している。会場ではUMOジャズ・オーケストラのマネージャー、トーマスと再会。3年前にストックホルムのジャズ・フェスに招待された時にお世話になった好青年だ。そのトーマスからの紹介ということで事前にメールを受け取っていたSuomen Musiikki代表のヒュンニネン氏から、イチ押しアーティストの話を聞いた。2005年以来連絡を取り合っているRockAdillo Records代表のタピオ氏からは、イーロ・ランタラの新しいプロジェクト作等々のCDをいただく。エアギターの世界大会が開催されていることからもわかるように、フィンランドはロックやメタルが盛んで、日本でも人気が高い。日本でのフィンランド・ジャズは発展途上だが、このような地道なPR活動が徐々に実を結びつつあるのは関係者として嬉しく思う。

2008年05月29日

ミュージック・フロム・フィンランド

 「フィンランド・フェスト2008」の一環として、ジャズ・ライヴが「新宿ピットイン」で行われた。今回は夜の部に2組が出演。オープニングアクトの日比谷カタンはOffice Ohsawa主催のジャズ・イヴェントにたびたび登場しており、ぼくも数回観ている。回を重ねるにつれ、真面目と不真面目、本物と偽者との境界線を渡り歩く不思議な魅力にはまっている。日比谷のパフォーマンスに続くトップ・バッターはペッテリ・サリオラ。ギター&ヴォーカルの新鋭だ。右手と左手が独立した動きをしながら、アコースティック・ギターを打楽器的に取り扱うスタイルは、視覚的にもインパクトが強い。オリジナル曲の他、ビージーズ、ワム等のポップスもカヴァーし、若さを全開にした。終盤にサプライズ・ゲストとして押尾コータローが登場。アコースティック・ギター・デュオを聴かせてくれた。何かの番組か雑誌の対談で知り合ったのだろうか。押尾を敬愛するサリオラのステージ・マナーに好感を抱いた。トリを務めたのは5人組のオッダラン。昨日のビジネス・ミーティングに自主レーベルTexicalli Recordsで参加し、リーダー格のオラヴィ・ロウヒヴオリ(ds)とは話を交わしていた。チェロ+トロンボーン+ギター+ベース+ドラムスにエレクトロニクスも加えた編成は、室内楽的な色合いを帯びながら、母国の民俗音楽、ジャズ、クラシックを融合させた独自のサウンドを表出。会場に集った人々には、彼らの音楽をさらに知るために2006年のデビュー作『Music Illustrated』を聴いてほしいと思った。

2008年05月30日

イスラエル出身の要注目ピアニスト

 ロバータ・ガンバリーニ(vo)・グループで来日中のタミール・ヘンデルマンは、ブラッド・メルドーの1歳年下の36歳だが、これまで日本ではほとんど注目されてこなかった。今夏、日本での初リーダー作がリリースされるということで、今日は品川パシフィック・ホテルでインタビュー。12歳の時に一家でロサンゼルスへ移住し、15歳でヤマハ主催のジュニア・コンサートで来日したキャリアがある。初対面で素顔のヘンデルマンはこちらが発したどんな質問にも、多くの言葉を費やして答えてくれた。これまで数多くのインタビュー仕事を経験してきたが、一番嬉しいのは自分を多く語ってくれるミュージシャン。誠実な姿勢も相まって、好感を抱いた。インタビュー内容に関しては7月19日発売の「スイングジャーナル8月号」を参照してほしい。6月下旬にはナタリー・コールと共に「ブルーノート東京」に出演するため、再び日本を訪れる。時ならぬ売れっ子ピアニストとなったヘンデルマンは、これから知名度を上げること間違いない。

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2008年05月31日

カナダ出身の新進シンガー・ソングライター

 今春、日本でのデビュー作『海、そして空へ』をリリースしたライラ・ビアリを、丸の内Cotton Clubで観た。ヴォーカル&ピアノのビアリはクリス・ボッティやポーラ・コールのツアーに参加し、今年1月にはスザンヌ・ヴェガの来日公演にも帯同。「同じ年に2度も日本にやって来るとは思っていなかったわ」と語ったビアリは、クラブの客席を埋め尽くした満員のオーディアンスにもさぞや驚いたことだろう。このクラブにはよく足を運んでいるが、ぼくの経験で1,2を争うほどの高い集客である。その要因は土曜日だからだけではあるまい。同作のレコーディング・メンバーでもあるジョージ・コラー(b)、ラーネル・ルイス(ds)とのトリオによるステージは、清涼感溢れるビアリの歌唱が会場を優しく包んだ。そのミュージシャンに関する事前情報があまりない場合、多くの観客は器楽奏者よりもヴォーカリストにシンパシーを示す。わかりやすいということだ。今夜これだけの集客を可能にしたのは、初心者でもとっつきやすいビアリの音楽性にあったのだと思う。演奏中のビアリが裸足であることを発見した時、自然体で音楽に向かう姿勢がそこに重なった。

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