Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

« 2007年07月 | メイン | 2007年09月 »

2007年08月アーカイブ

2007年08月01日

日豪ジャズ交流の成果

 昨年プロジェクトがスタートした日豪ジャズ・オーケストラ。その仕掛け人と言ってもいいクリヤ・マコトが、新人ヴォーカリストを招いてクラヴ・ギグを行った。ディズニーランドの利用者が数多いJR舞浜駅を下車し、複合施設の4F奥へと進む。今夜は「クラブ・イクスピアリ」でクリヤ・マコト+メーガン・ワシントン/マーク・アイザック・グループを観た。アルバム・リリースこそ実現していないが、クリヤの尽力によって日豪ジャズ・ミュージシャンのコラボレーションは、「東京JAZZ」「モーションブルー」「大使館イヴェント@国立新美術館」でぼくも目にしてきた。ファースト・セットはクリヤと豪州人2リズムに、ヴォーカルのメーガン・ワシントンが加わったセット。途中ピアノ弾き語りソロを交えたメーガンのパフォーマンスは、激しいアクションでフェイクを多用した独特の歌唱スタイルを確立している点で、個性的だと思った。昨年から急激に欧米で女性ヴォーカリストがデビューしている状況を踏まえると、この世界で生き残っていくためには魅力的な個性が不可欠であることは明らか。その意味でメ?ガンには原石の輝きを感じた。

 セカンド・セットはマーク・アイザックス(p)・クインテット。4,5年前にオーストラリア大使館でマーク出演ソロ・ピアノのパーティーが開催され、その時に本人と話をしている。今回は新作『Resurgence』のリリースとタイミングを合わせたアジア・ツアーの来日だ。同作にはジェイ・アンダーソン (b)、ヴィニー・カリウタ(ds)ら著名米国人が参加しており、豪州におけるアイザックスのポジションが読み取れる。モーダルなオリジナル曲を中心に、アイザックスの美意識を示してくれた。終演後バックステージでメーガンと談笑。まだ21歳の若さで、影響を受けたアーティストはビリー・ホリディとルーファス・ウエインライトだという。来年デビュー作がリリースできれば、と抱負を語ってくれた。その後アイザックスとも旧交を温めて、最新作を受け取った。

2007年08月07日

米国を代表する正統派ピアニストが来日

 作曲家の父親とヴォーカリストの母親の間に生まれ、音楽家になるべくして育ったのがピアニストのビル・チャーラップだ。5,6年前に原宿のジャズ・クラブに出演した際、ディスコグラフィーを作成していたタイミングで本人に質問したところ、「NYに帰ったら調べて連絡するよ」との返事をもらった。そして2週間後、本当に詳細なデータが記されたFAXが届いて、無事ディスコグラフィーを発表できたという経緯がある。歌伴奏の経験も豊富なチャーラップは、スタンダード・ナンバーを数多く自分のレパートリーとしていることでも知られる。丸の内「コットンクラブ」に初登場となったのは、結成10周年を迎えたチャーラップ・トリオだ。1曲目は「グルーヴィン・ハイ」。このバップ・ナンバーを、敢えてバップ色が濃くないサウンドで演奏するのがチャーラップ流なのだろう。ぼくはキース・ジャレット・トリオを即座に想起したのだが、チャーラップの発想は全く異なっていた。

 その後、レナード・バーンスタインのコーナーをはさんで、「中国行きのスロー・ボート」へ。チャーラップは超速テンポで存在感を示した。アンコールの「スターダスト」まで、ひたすら曲を聴かせることに徹してくれたチャーラップの姿勢に共感。“ワシントンズ”と呼称される共演者のピーター・ワシントン(b) +ケニー・ワシントン(ds)との協調関係も良好だった。ケニーのスネアが通常よりも高い位置にセッティングされていたのがユニークで、躍動感の原動力になっていたことも特筆したい。先頃NY“ヴィレッジ・ヴァンガード”でのライヴ盤を出したばかりのチャーラプ・トリオは、丸の内のステージでもしっくりと自然体であった。

2007年08月20日

16年ぶり、奇跡の来日公演

 ECMを代表するアーティスト=エグベルト・ジスモンチが来日。92年に大病を患って以来、ライヴ活動が少なくなっていたこともあって、これは大げさではなく奇蹟的なイヴェントと言っていい。東京での1日公演が発表されるや、チケットは瞬く間に完売し、急遽決定した追加公演も完売という盛り上がりの中、初日の「第一生命ホール」公演に足を運んだ。シューズボックス型の同ホールは、比較的どの席からもステージが見やすい構造。ぼくはステージ至近の2階席に着席した。ファースト・セットはソロ・ギターによる50分間の独演。70年代に初めてレコードで聴いた時のジスモンチは、ギタリストのイメージが強かった。10弦と12弦ギターを駆使したパフォーマンスは、高度な技術と類例のない音楽性の粋を集めたもので、生初体験のぼくはすっかりノックアウトされてしまった。 セカンド・セットはピアノに専心したプログラム。ピアニスト=ジスモンチの魅力を知るまで個人的にはタイムラグがあったわけだが、今夜の演奏はギタリスト=ジスモンチを上回る凄さを見せ付けてくれた点で、全身が驚きに包まれた。事前に期待していたのが『サンフォーナ』からの楽曲を演奏してくれるか、だったが、ジスモンチは同作を忘れていなかった。ピアノゆえに際立ったジスモンチ・メロディを、曲ごとに味わえる幸福。終演後バック・ステージで談笑したジスモンチは、柔和な表情の紳士だった。今年60歳の名匠は今後もぼくたちを感動させてくれる作品を世に送り出してくれるに違いない。2007年度屈指のステージだった。

2007年08月29日

チェーホフを通じて生まれた実験劇

 こまつ座&シス・カンパニー公演「ロマンス」を世田谷パブリックシアターで観た。「かもめ」「三人姉妹」「桜の園」で知られるロシアの作家で、医師としても人々に施したチェーホフの生涯をベースに、井上ひさしが書いたオリジナル脚本の初演である。休憩をはさんだ3時間近い舞台は、出演者がわずか6人。各人が複数の役柄を演じるためでもあるのだが、このキャスティングは観客の目をステージに集中させる効果を生んでいた。改めて言うまでもなく、ぼくが足を運んだ理由は、マリヤ・チェーホワ他役を演じた松たか子が目当て。会場内に足を踏み入れて思ったのは、前回ここで観た時とは客席のセッティングが違っていたこと。前回は最前列がそのままステージと地続きで、ステージをはさんだ両側に客席が用意されていたのだが、今回は通常のホール・ステージと同じ形だ。いわゆる洋ものでも実力を発揮するたかちゃんは、過去のミュージカル作で実績を積んでいるオリジナル楽曲での歌唱力も披露し、安定した実力を印象づけた。むしろ本作よりもずっと過酷な芝居も経験していることを踏まえれば、今作は彼女にとって余裕すらあったのかもしれない。他の出演者で特筆したいのが生瀬勝久。TV番組を通じて怪演ぶりは知っていたが、生の生瀬は面白過ぎた。大竹しのぶも含み、適材適所のキャスティングも成功の要因だと思った。

2007年08月31日

第30回スカンジナビアン・コネクション

 今でこそヨーロッパ・ジャズが日本でも広く認知されているが、そのパイオニア的邦人ミュージシャンであるベーシスト=森泰人の存在なくして、今日の状況はなかったと改めて思う。スウェーデンを中心とした北欧のミュージシャンを日本に紹介するコンサート・シリーズ「スカンジナビアン・コネクション」が、節目となる30回を迎えて、今回が初来日となるトミー・コッテル(p)をブッキング。新宿ピットイン公演を観た。コッテルはボーヒュースレン・ビッグ・バンドやラーシュ・ヤンソンとのデュオ作で知られており、近年はユニークな編成による意欲的な2枚組で、ピアノ好きを驚かせたばかり。森(b) +ダービッド・スンドビー(ds)とのステージは、その体躯通りのダイナミックなプレイと、外見に似合わない繊細な表現が同居した音楽性を披露してくれた。スンドビーの生演奏を観るのも初めてだったが、フレキシブルなプレイが印象的だった。森にとっては渡欧前の若手時代に旧店舗に出演して以来のピットイン再訪ということで、感慨深いものがあったようである。なお「スカンジナビアン?」は9月下旬からマイク・デル・フェーロ、11月にはラーシュ・ヤンソンの来日公演を予定している。

Editorial Office

エディトリアル・オフィスの仕事を紹介します。

Work's Diary

エディトリアルスタッフの取材ダイアリーを紹介します。

Kimono Gallery

染物・着物に関する情報をお伝えしています。

Jazz Diary

音楽評論家・杉田宏樹のライブダイアリーです。

Hachi Diary

セブンオークスのボーダーコリー「ハチ」のフォトダイアリーです。

セブンオークスへのお問い合わせを受け付けております。
メール:hachi@7oaks.co.jp
住所:〒134-0081 東京都江戸川区北葛西2-10-8
Phone:03-3675-8390
Fax:03-3675-8380