Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年06月アーカイブ

2008年06月04日

グラミー受賞プロデューサーのゴージャズなステージ

 スティーヴ・タイレルは近年ロッド・スチュワートのスタンダード集をグラミー賞に導いたことで話題にのぼったプロデューサー。バート・バカラックとの親交が深いことでも知られる人物は、ヴォーカリストとしても活動している。今夜は最新作『バカラックへの想い』のリリースと同じタイミングのいい来日公演を「ブルーノート東京」で観た。6人編成のバンドを従えてステージを進めたタイレルは、長年裏方に徹し、99年に50歳で歌手デビューしたとは思えない円熟のマナーを発揮。前半はフランク・シナトラのレパートリーをカヴァーし、ヴォーカリストとしての確かな実力を印象付けた。後半に移ると男女2名のコーラスがステージに現れて、バカラック特集がスタート。「ディス・ガイズ・イン・ラヴ」「ザ・ルック・オブ・ラヴ」「クロース・トゥ・ユー」とテンポよく歌った。この無駄のないステージ運びは大歓迎だ。おそらく本国では洒落たトークを交えるのだろうが、英語をあまり理解しない日本人の前では多くのナンバーを歌うのが最高のサービスだと考えたのかもしれない。70分間のステージはBNTとしては平均よりもやや短い感じだが、内容は非常に濃く感じた。先日バート・バカラックがホール・コンサートを行い、そこにゲスト出演したトレインチャが単独BNTに出演。そして今夜のタイレルがソング・ブックをリリースしたということで、好ましい「バカラックつながり」が生まれている。米国ショー・ビジネスの一端を感じた一夜であった。

2008年06月08日

梅雨時に癒される恒例のホール・コンサート

 「ジャズ・エリート2008」@五反田・ゆうぽうとホール。秋の「コンコード・ジャズ祭」と並ぶ、富士通協賛のジャズ・イヴェントである。今回は「世界のスーパー・レディ」と題して、3組の女性アーティストが出演。日本、オーストラリア、イタリアと、国際的な顔ぶれが揃った。トップ・バッターを務めたのは予想に反して、3人の中では最もキャリアがあって世界的な名声を獲得している秋吉敏子だった。約30年間にわたって率いたビッグ・バンドのメイン・メンバーで、公私共に最良のパートナーであるルー・タバキンとのデュオだ。すべてのファンが惜しんだビッグ・バンドの解散に際して、トシコは「もっとピアノの腕を磨きたい」旨のコメントを発表。音楽家として理想を追求する飽くなき姿勢に、誰もが感服した。そんなトシコのモチベーションは1曲目から全開。ピアノを最大限に鳴らすことに全力を傾ける姿には、本当に驚かされた。タバキンも全力で呼応した、濃密な50分のステージに酔った。今月、彼らのデュオ作『ヴィンテージ』のリリースが控えている。休憩をはさんで2組のヴォーカリストが登場。本国以上に日本で人気が高い(?)ジャネット・サイデルは、実兄のベーシスト=デヴィッド・サイデルとウクレレもこなすギタリスト=チャック・モーガンを従えて、親しみやすい歌唱を聴かせた。トリを務めたロバータ・ガンバリーニはトリオをバックに、ワイドレンジな歌声で魅了。持ちネタの口真似トロンボーンに、少女時代からの生粋のジャズ・ファンぶりを感じさせた。アンコールではサイデル・グループとガンバリーニ・グループの共演が実現して、観客を大いに喜ばせたのだった。

2008年06月09日

ニューヨーク帰りのピアニストに取材

 東京メトロ・六本木1丁目は商業&オフィス・ビルに直結しており、全日空ホテルやアークヒルズも隣接する駅。今日はアキコ・グレースのインタビューのため、コロムビアME本社を訪れた。デビュー時以来、グレースには何度も取材する機会があり、プライベートなパーティーで同席することもしばしば。MySpaceでつながっていることもあって、寛いだ雰囲気で話を聞くことができた。内容は主に7月下旬リリース予定の新作『グレイスフル・ヴィジョン』について。5年ぶりとなるNYでのトリオ・レコーディングだったことに加えて、スタジオ、共演者、選曲等、新しい要素をタップリと盛り込んだ仕上がりである。話をしていて感じたのは、同じアーティストに取材する機会を重ねることで得られるプラス面。今回グレースからは新作の核心に迫る、興味深い話を聞き出すことができた。もし初対面だったら、そうはいかなかっただろう。彼女は自分の音楽を自分の言葉できちんと語ることのできる音楽家であり、このことも取材を実りあるものにしたと思う。詳細は7月19日発売の「スイングジャーナル」8月号を待たれたい。

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2008年06月15日

もうひとつの武満徹

 春と秋の年2回の定期公演(コンサートホール)を継続している角田健一ビッグ・バンド。東京を拠点に活動する楽団はいろいろあるが、メンバーを確保するだけでも大変なこのジャンルを維持するリーダーには、本当に労をねぎらいたい。今日は平成19年度文化庁芸術祭優秀賞受賞記念公演『スイングから武満徹まで』を紀尾井ホールで観た。角田は生前の武満と知己を得なかったが、その後感銘を受けて、他界後の2001年から本格的にレパートリーとして取り組んできた経緯がある。今やファンにはすっかりお馴染みだ。ファースト・セットは武満のナンバーで構成。武満は一般的に現代音楽の作曲家と認知されているが、実はデューク・エリントンに私淑したジャズ・ファン。そんなジャズつながりが下敷きとなって、角田の編曲は原曲のメロディを会場に集った観客にもわかりやすくその魅力が伝わる形で翻案してみせた。セカンド・セットでは「ビッグ・バンドの醍醐味」と題して、デューク・エリントン等の名曲を演奏。こちらのパートではメンバー紹介を兼ねてソロイストのプレイをたっぷりとフィーチャー。各人のキャラクターも浮き彫りになって、客席が沸いた。ぼくはここ4年ほど角田公演に通っているのだが、今回は特にリピーターが多かったようで、メンバーに対する声援がこれまでになく大きかった。アンコールに応えて「ワン・オクロック・ジャンプ」を演奏。さらに予定外のアンコールにまでサービスし、「スイングしなけりゃ意味ないね」で“ビッグ・バンドよ、永遠なれ”のポリシーをアピールしてくれた。

2008年06月22日

ノルウェーの若手デュオ・チーム

 ピッキデー@新宿ピットイン。同店のサイトには「ノルウェー南部、海岸沿いのクリスチャンザン市出身の新進気鋭デュオ。女性ヴォーカルが秀逸な、メロディカルな流れに、エフェクトを駆使したトランペットがかぶさる、静かだが力強い新感覚のデュオ」との紹介文がある。事前に彼らの音楽を聴くチャンスがなかったので、ほとんど白紙の状態でステージに臨んだ。トランペット奏者のエイリック・デルスダールは繊細な表現に腐心しており、同国のアルヴェ・ヘンリクセンを想起させる使い手だと感じた。女性ヴォーカルのシグルン・タラ・エヴァランは感情をコントロールする囁き系。弦楽器のlyreとオートハープの使い手でもある。彼らのパフォーマンスを観ながら、スサンナ&ザ・マジカル・オーケストラを連想した。こちらはオーケストラを名乗りながらも、実際は鍵盤奏者1人とのデュオ・チーム。ピッキデーの成り立ちも似通っていることを考えれば、スサンナ?の成功例をお手本にすることも可能だろう。終演後に話を聞くと、2人はクリスチャンスンでの学友で、ユニットを結成してから4年半という。デルスダールはイェーテボリ在住とのことだ。ピッキデーは東京で4日間のステージに出演。ぼくが渡した名刺にアクセスしてくれて、現在はMySpaceでつながっている。

2008年06月26日

御茶ノ水の老舗ジャズ・クラブ

 JR御茶ノ水駅から徒歩1分という便利なロケーションにあるのが「NARU」だ。自宅から大学への通り道ということもあって、頻繁に利用したものだった。四半世紀前当時の夜の部はライヴ・ハウスではなくカフェバーの業務形態で、その後デイリーのライヴに変わったと記憶する。今夜は約4年ぶりに同店を訪問。出演は西山瞳トリオである。西山とは昨年のストックホルム録音&ライヴに同行取材するなど、今ぼくが最も懇意にしている日本人アーティストだ。共演者はレギュラー・ベーシストの坂崎拓也と、今日が西山とは初共演というドラムスの小前賢吾。19:30からスタートしたステージは3セット制で、それぞれが1時間、合わせて3時間というボリュームたっぷりとなった。プログラムはアルバム収録曲と今秋リリース予定の新作からのレパートリーで構成されたのだが、これまでライヴでも何度か聴いているオリジナル曲に新しいアレンジが加えられて、新鮮な輝きを放っていたのが印象的だった。急速調のピアノ・ソロで演奏に没入する姿には、東京進出時からウォッチしている者として、頼もしさをも感じた。ポイントを押さえつつ、個性を発揮した初体験の小前にも拍手を送りたい。

2008年06月27日

南青山での思わぬプラス連鎖

 正午からレコード会社で打ち合わせ。新しく取り扱うことになった海外レーベルの監修者となったことによる、説明会を兼ねたものだった。社員さん全員を前にぼくがプレゼンするような格好になったのだが、フリーランス歴が10年になるぼくとしては新鮮。社外ブレーンの仕事は他社でもやっていて、このような形で関わることができるのは額面の仕事を超えて楽しい。その後、赤坂へ異動してランチ。夜は割烹料理屋の昼営業はリーズナブルで、満足度が高かった。当初の予定では赤坂の喫茶店で仕事をして、18:00に南青山へ行くつもりだった。しかし急にタワーレコードへ行きたくなり、渋谷へGO。ジャズ・フロアーではジョン・マクラフリンとフレディ・ハバードの新譜と、500円のクリアランス・コーナーで3枚をゲット。勘が当たったのが嬉しい。このような収穫はオンラインストアでは得られないものであり、やはり音楽好きとしては常に研ぎ澄ませておきたい感覚である。タワー滞在中、ピアニストのタミール・ヘンデルマンから携帯に電話があった。タミールとは5月末にインタビューで会い、名刺交換をしていた。今回ナタリー・コールと共に来日していたことは知っていたが、電話は同公演に招待できるとの用件だった。そこで急遽予定を変更し、18:00に南青山TIME&STYLES EXISTENCEへ。デザイナー、ジャン=マリー・マソーの新作発表を記念したオープニング・レセプションだ。剣道の面をヒントに制作した椅子である。シャンパンをいただきながら、店内の新しいデザインを楽しんだ。ブルーノート東京がTSEから至近だったのは、何と言う幸運だろうか。ナタリー・コール公演はソールドアウトの大盛況。ぼくはレジ付近の補助椅子で鑑賞。腰痛のため車椅子姿でステージを務めたナタリーは、最悪のコンディションながらもプロ魂を見せ付けた。ナット・キング・コールの映像とのヴァーチャル・デュオ曲「アンフォゲッタブル」は、まさにハイライトとなった。堪え切れず涙したのはぼくだけではあるまい。次回は万全の状態で、新たな感動を与えてほしいと思った。

2008年06月29日

旧友の尺八演奏会

 伶風会尺八演奏会@東京証券会館ホール。地下鉄茅場町はほとんど下車しない駅だが、このロケーションにこのようなホールがあることを今回初めて知って驚いた。342席の会場は出演者関係の人々で埋まっている。ぼくは先月末に大学卒業25年を記念したイヴェントで再会したクラスメートの大橋君から誘われて鑑賞。大橋は在学時に尺八を始め、卒業後はOBとして毎週後輩の指導をしている。現在は伶風会の副会長を務め、大橋伶晴の名で活動をする演奏家だ。伶晴は邦楽の歴史的人物である宮城道雄の楽曲を演奏。尺八&筝のデュオ「谷間の水車」、および尺八+筝+三絃の「虫の武蔵野」は、大学卒業から四半世紀の間、たゆまぬ研鑽を重ねてきた伶晴の実力を十二分に感じさせるものだった。終演後、旧友たちと共に楽屋で談笑。母校の筝曲部の部員が増えているというのも、頼もしく思った。

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2008年06月30日

フレンチ・ジャズ・クオーター

 今年は日本とフランスが交流を始めて150年となる節目の年。それを祝して、8月末から9月初めにかけて日仏音楽交流委員会の主催で、丸の内?有楽町?銀座エリアでジャズ・イヴェントが開催されることが決定した。東京最大規模のジャズ・フェスティヴァルとして定着している「東京JAZZ」の関連イヴェントである。今夜はフランス大使館文化参事官アレクシー・ラメック氏の自宅で、関係者を招いたパーティーが開催された。会場では評論家・岩浪氏、朝日新聞社・西氏、NHK八島氏らと談笑。同エリアをパリの街角とイメージしたこの企画は、今から楽しみである。

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