Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年01月アーカイブ

2008年01月01日

年頭所感

 みなさま明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。2007年のジャズ界は良いことも、そうでないことも色々あった。一番気になるのは輸入盤の販売価格が上がったことだ。特にヨーロッパ盤で顕著なのが、ユーロ高の影響を受けたため、1枚ものでも3000円を超えるアイテムが出てしまっている状況。大切なお金を費やす以上、誰でも失敗したくはない。ぼくは現在「スイングジャーナル」とアサヒコム「ジャズ・ストリート」で輸入盤新譜を紹介しており、これらの媒体が今年は益々重要になると考えている。ファンに有益な情報を提供することを念頭に、執筆を続けていきたいと思う。

2008年01月08日

今年最初のクラブ・ライヴ

 先月出席した「ジャズ忘年会」ではいつもお世話になっている方や、初対面の方を含め、業界関係者多数とコミュニケーションができたのが収穫だった。その時に歌声を披露した藤田佐奈恵のライヴを、渋谷「JZ Brat」で観る。大阪の音楽大学で学んだ後、東京に拠点を移して本格的にプロ入り。近年は環境問題やチャリティ活動にも取り組んでいる。まだアルバムをリリースしていないので、ほとんど予備知識がない状態でステージに接した。ファースト・セットではバックを務める加藤泉(g)カルテットのインスト・ナンバーに続いて藤田が登場。MCで話す時の普段の声に比べると、歌声は少し太い印象を受けた。スタンダードを中心としたプログラムにあって、ヴァースから歌った「ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル」や、コケティッシュな魅力を表現した「イパネマの娘」といったボサ・ナンバーが好唱。セカンド・セットではジョン・コルトレーンの演奏や、フランク・シナトラの歌唱で知られる「コートにすみれを」(Violets For Your Furs)を、主役を女性に置き換え「Violets For My Furs」と翻案して、オリジナリティを打ち出した。他にもレパートリーが多いようなので、なるべく早いタイミングでデビュー・アルバムを制作するのが、藤田にとって当面の目標だろう。

2008年01月11日

現役最長老ピアニストのソロ・コンサート

 平均寿命が伸びているとはいえ、89歳の男性となれば世界標準での長寿も長寿。まして各国を仕事で飛び回るジャズ・ピアニストならば、一般人よりもリスクは高いはず。今夜は親日家としても人気者であるハンク・ジョーンズのコンサートを「すみだトリフォニー・ホール」で観た。このホールでは過去にブラッド・メルドーやゴンサロ・ルバルカバのピアノ・ソロ公演を企画しており、今回はその流れでのイヴェントである。ビバップ期にチャーリー・パーカーと共演し、70年代にザ・グレイト・ジャズ・トリオで時ならぬ注目を集めた超ヴェテラン。ハンクの音楽性とメルドー、ゴンサロの実績からすると、このソロ・コンサートはやや場違いな印象を抱いていたというのが正直なところだ。そんな気分で臨んだステージのファースト・セットは、デューク・エリントンの「A列車で行こう」でスタート。スタンダード・ナンバーによる約50分で構成。セカンド・セットはソニー・ロリンズの「セント・トーマス」で始まり、やはり名曲の数々を演奏した。このようなプログムは事前に予想できたもの。ではなぜトリフォニー・ホールがハンクをブッキングしたのか、を念頭に置きながら演奏を聴いていたある瞬間、合点がいった。1曲終わるごとにハンクがマイクを手にして演奏曲の作曲家やエピソードについて話をする。このステージがジョージ・ガーシュイン、ジェローム・カーン、ジミー・ヴァン・ヒューゼン…ら、20世紀のポピュラー音楽を代表するコンポーザーへのトリビュートという大テーマの下にプログラムが構成されたことが浮き彫りになった。いや実際は無数のスタンダード・レパートリーを持つハンクの裁量に委ねられていたのだろう。ただそうだとしてもこのタイミングでハンクがこの企画コンサートに関わったことは、重いメッセ?ジを持つ。2度目のアンコールに登場したハンクは、1曲目と同じエリントンの「イン・ア・センチメンタル・ムード」を演奏。観客のアンコールを受けて再度、姿を現したハンクは、ピアノ近くにあったマイクを上着の中に入れて退場。無制限のアンコールに区切りをつけるための、有効な対応策だと納得した。

2008年01月13日

新年のみなとみらいライヴ

 自宅から片道1時間半、往復で3時間を費やすことになる横浜みなとみらいエリアでの音楽イヴェントは、都内のホールやライヴハウスに足を運ぶことに比べると自分自身に「気合」を入れる必要がある。今夜はニール・ラーセン“オービット”を観るために「モーション・ブルー・ヨコハマ」へ。馬車道駅を下車し、潮風を受けて歩きながら、今年は昨年よりも格段に寒いと感じた。お目当てのニール・ラーセンは1970?80年代のクロスオーヴァー/フュージョン・シーンに足跡を残したキーボード奏者。バジー・フェイトン(g)とのラーセン=フェイトン・バンドは、ぼくを含めて当時の若者から絶大な支持を集め、一世を風靡した。今回はスタジオ・ミュージシャンとしても実績豊富なマイケル・ランドウ(g)をフィーチャーした6人編成のバンドのステージである。オープニングは意外にもモーダルなナンバーだった。ジャズ・クラブ出演ということを意識していたのだろうか。しかしその後はラーセンの持ち味を発揮したナンバーを連発。ランドウは寡黙な仕事人といった佇まいで、テクニシャンぶりを際立たせた。バンド・メンバーでは2006年8月にチック・コリア&タッチストーンで来日しているトム・ブレックライン(ds)が熱演で客席を沸かせてくれたのも収穫。ステージの終盤ではヒット曲の「ジャングル・フィーヴァー」「サドゥン・サンバ」を演奏し、クラブは最高潮に。日曜日ということもあり満員となった観客の反応が熱く、クロスオーヴァー・ファンの根強さを再認識した。

2008年01月18日

パーティーとライヴの1日

 正午から東京プリンスホテルにて「ジャズ・ディスク大賞」授賞式。ジャズ、オーディオ関係者が最も多く集う、年に1回のエヴェントだ。ぼくは選考委員を務めている関係で、90年代初めから毎年出席している。会場の「プロビデンスホール」には業界人ばかりでなく、ミュージシャンも多数来場した。旧知のアキコ・グレース、守屋純子、山中千尋、清水ひろみのほか、藤田佐奈恵、早真花、上西千波といった若手ヴォーカリストが来場。近年のジャズ界を反映した盛況であった。終宴後は例によって1Fのラウンジで2次会。行方氏、茂串氏、寺島氏、中平氏、伊藤氏・・・ジャズ界の重鎮は皆さん元気である。
 銀座に移動して、山野楽器で輸入盤を購入。その後、編集者Y氏と打ち合わせ。Y氏は先月発刊された『読んでから聴け!ジャズ100名盤』(朝日新書)を手がけた方で、以前は別冊宝島社のジャズ本でお世話になった。新しいジャズ新書の企画を提案される。実は現在執筆中の書き下ろし本を抱えているのだが、こちらも年内に実現させたいと思った。年男の今年は忙しくなりそう。
 丸の内「Cotton Club」へ。オリータ・アダムス公演を観る。もう10年以上も前になるが、ヒット作『エヴォリューション』(93年)の感動が冷めないタイミングでオリータが、東京でのホール・コンサートを行った。今夜はそれ以来の生ステージ鑑賞ということになる。キーボード+ギター+ベース+ドラムスのバンドをバックに、オリータが登場。1曲目は意表を突いたスタンダード・ナンバーの「ラヴ・ウォークト・イン」。このクラブを意識した選曲なのかもしれない。さらに数曲後、ビリー・ホリデイ作詞・曲「ドント・エクスプレイン」をピアノ弾き語りで披露するシーンに至って、ジャズに対するオリータの深い理解が伝わってきた。ヒット・アルバムからの「ホールド・ミー・フォー・ア・ホワイル」はリアルタイムで同作を聴いていたぼくには嬉しい選曲。アンコールではビリー・ジョエルの「ニューヨーク・ステイト・オブ・マイン」で、満員の観客を満足させてくれた。音楽家としての真摯な姿勢が伝わってくるステージであった。

2008年01月23日

ジャンルを越境した音楽家のホール・コンサート

 「ジ・アート・オブ・ボビー・マクファーリン・スーパー・オーケストラ・コンサート」と題したステージを、「すみだトリフォニーホール」で観る。今夜は2日連続公演の2日目。ジャズ・シーンで80年代にデビューした時は、ヴォーカルの歴史を変えるほどのインパクトがある驚異的なテクニックで一世を風靡。その後「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」の大ヒットで、広く一般的にも知名度を高めた。ここまではアル・ジャロウと並ぶ新感覚の男性ジャズ・ヴォーカリストというポジションだったが、90年代に入ってクラシックの指揮者としての活動にも積極的に取り組むようになり、完全に独自の道を追求。現在はジャンルを越境した音楽家としての評価を確立している。数年前に東京で観たステージは、ソロのヴォイス・パフォーマンスを中心に日本人のゲストを迎えた内容だったが、今回は完全にコンセプトを変えたオーケストラとの共演となった。
 ファースト・セットはマクファーリンが新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮するレナード・バーンスタイン「《キャンディード》序曲」でスタート。ステージにマクファーリンが現れて指揮棒を振り、オケの音が出た瞬間から、会場は生き生きとしたサウンドに包まれた。しなやかで力強いストリングスの響き。これはマクファーリンならではの身体感覚がそのままオケ全体に反映されたものと聴いた。欧米各国の主要オーケストラでタクトを振ってきたキャリアが、初共演となる日本のオケとのナチュラルな共同作業を可能にしたのだ。次にスモール・オーケストラに移って、モーツアルトの「ヴァイオリン協奏曲第5番」を演奏。フューチャリング・アーティストのジョセフ・リン(vln)が卓越した技巧の持ち主であることを知るまでに、多くの時間を必要としなかった。その後マクファーリン&リンのデュオを経て、ヴォイス・ソロへ移行。途中客席に降りて、観客と1対1で即興のデュオを演じると、会場は大いに盛り上がった。セカンド・セットは再びオケを指揮したメンデルスゾーン「交響曲第4番」。アンコールでは楽団員に指示をして、即興的に「ツァラトゥストラ」のテーマを演奏。さらに観客を巻き込んだ「新世界」で本領を発揮し、ジャズとクラシックの垣根を見事に取り払ってみせたのだった。

2008年01月26日

ピアノ・サロンでの限定ライヴ

 昨年所属事務所を移籍したアキコ・グレースのソロ・ライヴを、タカギクラヴィア松濤サロンで観た。ここに来るのは2度目で、前回はレコーディングを兼ねたグレースのトリオ公演だった。世界のトップ・ブランドとしてその名が浸透しているスタインウエイの日本代理店である同社のメリットを生かして、60人限定のイヴェントが開かれたのである。昨年グレースはアルバムをリリースしなかったのだが、新しい試みに取り組んだ。ホームページからのデジタル・シングル配信がそれ。iTunesでウイントン・マルサリスが行ったサービスを思い出す向きもあるだろう。毎月1曲ずつ新曲を発表し、フル・アルバム分の楽曲数が揃ったらパッケージ化するという、ジャズ界では前例のないものである。今夜のステージはピアノの前後を客席がはさんだセッティングにより、グレースのソロ演奏を至近距離で堪能できるという、ファンにはたまらない内容となった。スタンダードからモンク、ロリンズのジャズ・ナンバー、さらにオリジナルと多彩な選曲にあって、ユニークだと思ったのが「お題頂戴による即興演奏」。休憩時間に集めた観客考案のテーマからグレースが3点を選び、即興のメドレーで演奏した。最近、お寺で座禅を組み、リフレッシュしたグレース。今年はさらなる新境地を示してくれそうである。

2008年01月29日

新聞社主催の学術・芸術賞

 朝日新聞社が1929年に制定した「朝日賞」。今夜はその授賞式に続く帝国ホテルでのパーティーに出席した。ぼくは同賞の候補者推薦を同社から依頼された関係で、招待されたというわけである。本年度の受賞者は児童文学者・石井桃子、人形浄瑠璃・竹本住大夫ら。同時に発表された「大佛次郎賞」は作家の吉田修一と最相葉月が受賞した。定刻の午後6:00に到着し、会場に歩を進めると、ノーベル賞受賞者・小柴博士が隣に。ほどなく会場に多くの人々が集まって盛況となった。青木保氏の音頭で乾杯。「朝日賞」のジャズ関係者の受賞者で言えば、2004年度の秋吉敏子が唯一。実はぼくが今回推薦したのは別のジャズ・ミュージシャンだったのだが、その人はノミネートされなかった。それで過去の音楽関係受賞者を振り返ってみると、岩城宏之、若杉弘、武満徹といった名前が挙がる。クラシック音楽が重要視されるのは当然なのだろう。
 会場では岩浪洋三氏、ピアニスト青柳いづみこ氏と談笑。意外に音楽関係者の出席者が少なかった。

2008年01月30日

日本を代表する女性リーダーのオーケストラ

 2001年にアルバム・デビューして以降、着実に実績を積み上げてきたのが守屋純子だ。守屋は2005年度セロニアス・モンク・コンペティションの作曲賞を受賞したことで、一躍脚光を浴び、ビッグ・バンド・リーダーとしても評価が高まった。デューク・エリントン、セロニアス・モンク等の作曲家をテーマにするなど、コンセプト性を持ったリサイタルを重ねてきたが、当夜はこれまでとは趣を変えて「グルーヴィン・フォーワード」と題したプログラムを用意。守屋の初期2タイトルが再発売されたことに関連して、新旧のレパートリーが選曲された。このステージのために作曲した「グルーヴィン?」、他界した祖母に捧げて書いた「ア・サウザンド・クレインズ」の初演曲も披露。
 第2部では守屋オーケストラと4年ぶりの共演となるヴァイオリンの寺井尚子を迎え、ガーシュウィン「魅惑のリズム」とチック・コリア「スペイン」を演奏し、ステージは一気に華やいだ。生真面目な人柄が滲む守屋のMCにも好感。なお2月20日発売の「スイングジャーナル」3月号にコンサート・リポートが掲載されるので、参照してみてください。

2008年01月31日

親日家ベテラン・ピアニストのクラブ公演

 70歳を超えて益々エネルギッシュに活躍するドン・フリードマンは、近年日本制作によるトリオ・アルバムによって新境地を切り開いている。今夜は丸の内「Cotton Club」に初出演となった。ぼくは3年前、フリードマンにインタビューをしていて、50年代にマイルス・デイヴィス・グループにあこがれてニューヨ?クに進出したというエピソードを話してくれたのが印象的だった。スタンダード・ナンバーを主体としたファースト・セットでは、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」でマイルスとの思い出を語ってからプレイ。オリジナル曲の「レッド・スカイ・ワルツ」では、『ユーマスト・ビリーヴ・イン・スプリング』の頃のビル・エヴァンスを想起させるピアノのアドリブを聴かせたのが、興味深いシーンだった。60年代初めにリーダー作をリリースした時のフリードマンは、ビル・エヴァンスに続く新感覚派ピアニストと認知されていたからだ。そんなフリードマンがバド・パウエルの偉大さを称えて「バウンシン・ウィズ・バド」を演奏した場面は、モダン・ジャズの偉大な歴史が脈々と続いていることを実感させられた。
 終演後、バックステージでメンバーと談笑。ベースのマーティン・ウインドとはMySpaceつながりで事前にメールのやり取りをしていた。マーティンの厚意で観たセカンド・セットはファーストとダブリ曲が1曲もなく、フリードマン自身が久しぶりの演奏と言った「サークル・ワルツ」や即興色の濃いオリジナルを取り上げて、ぼくを驚かせた。

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