Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブダイアリー」です。
杉田宏樹
音楽評論家。1960年東京生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。「スイングジャーナル」のディスクレビューアー、朝日新聞社「ジャズストリート」のレギュラー執筆等、ジャズ関係の仕事を多角的に展開。著書は「ビル・エヴァンス・ディスコグラフィー」、「ヨーロッパのJAZZレーベル」など。ジャズ・ディスク大賞選考委員。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。
※杉田さんへのメッセージはこちらから
hachi@7oaks.co.jp
ノルウェー映画鑑賞会&パフォーマンス
2009年10月20日
ノルウェー大使館で定期的に行われている映画鑑賞会。今夜は2003年作『キッチン・ストーリー』を上映。ジャズ・ギタリスト=ハンス・マティセンが音楽を担当した映画ということで、サウンドトラックへの興味もあって足を運んだ。B1の多目的ホールに入ると、開演前にハンスと話をすることができた。これまでの経歴や、今後の予定などを聞く。2005年作『Quiet Songs』以来となる新作が、来年リリースされるとのこと。映画は立場の異なるノルウェーとスウェーデンのおじさん2人が、禁を犯して友情を築くというストーリー。劇的な要素があるわけでもなければ、激しく心を揺さぶられるような場面が訪れるわけでもない。大笑いはないけれど、くすくすと笑えるような場面が随所にあり、この点にノルウェーの素朴な環境が重なって納得できた。約90分の上映の後に、音楽担当のマティセンがギター演奏とサウンドトラックのリプレイを交えて、映画音楽を解説してくれた。
スウェーデンの貴公子が新作の世界を披露
2009年10月19日
日本のレコード会社の制作によるリーダー作も多数リリースしているスウェディッシュ・ピアニスト=ヤン・ラングレンが、丸の内「Cotton Club」に初登場した。早いものでアルバム・デビュ?から15年になるラングレンは、自身40代を迎えたタイミングでドイツACTへ移籍。今年、同レーベルからの個人名義では第1弾となる『ヨーロピアン・スタンダーズ』をリリースしており、レコーディング・メンバーによる今夜は新作の世界を披露するステージとなった。ラングレンは母国の古謡などをカヴァーした『スウェディッシュ・スタンダーズ』というコンセプト作に取り組んだ実績があり、最新作はその拡大版だと見ることもできる。過去にも他のミュージシャンによる例がある企画とは言うものの、ラングレンはトラディショナル限定ではなくロックや映画音楽にも素材を求めて、10カ国13曲のカヴァー作を完成させた。ステージではクラフトワーク、ミシェル・ルグラン、ビートルズ、クリストフ・コメダといった欧州各国の作曲家のナンバーを演奏。ジャンルの異なる素材を手際よく自分たちのレパートリーにリメイクするトリオ・サウンドは、居ながらにしてスウェーデンに誘ってくれる趣だ。今春、日本制作の初リーダー作をリリースしたベースのマティアス・スヴェンソンは、ラングレンとの長年の協調関係をうかがわせるプレイ。ハンガリー出身のドラマー=ゾルタン・クゾーツJr.は、手数の多い躍動的な演奏で、トリオを鼓舞した。終盤には『スウェディッシュ?』収録曲を取り上げ、アンコールでは観客からのリクエストに応えて「ア・タッチ・オブ・ユー」で締めてくれた。客席には熱心な欧州ジャズ・ファンが散見されたのも、個人的に嬉しい状況であった。
神保町でのトーク・イヴェント
2009年10月16日
ノルウェー大使館からトーク・イヴェントの依頼を受けた。現在、神保町の喫茶店「喫茶去」で開催されている「n.c.cafe」は、店内でノルウェーのジャズを常時流して、親しんでもらおうとの企画。期間限定でノルウェ?・ジャズ喫茶を運営しているわけである。北欧のカフェとしては「フィンランド・カフェ」の実績があり、個人的にはこのような企画は待望だった。同店でぼくが最新の同国のジャズ情報とその魅力を伝えることが、イヴェントの趣旨。このようなシチュエーションでのイヴェントは過去に何度も経験があるが、今回はジャズ関係者よりも大使館つながりのクラシック関係者やジャズ・ビギナーが参加するとの情報を得ていたので、選曲に配慮した。昨年と今年に現地を取材したNutshellでの報告と、最新のアルバムをプレイ。平日の日中だったにもかかわらず、日本・ノルウェー音楽家協会の方々も参加されるなど、自分にとっても有意義な会となった。

人気フュージョン・バンドが丸の内に初登場
2009年10月15日
ギタリストのラス・フリーマンがリーダーを務めるリッピントンズを、丸の内「コットンクラブ」で観る。1985年に結成されたバンドは、これまでGRP?Windham Hill?Peakとメジャー・レーベルを歩いてきており、独自のポジションを築いてきた。20周年を迎えた4年前には個人活動でキャリアを高めたサックスのジェフ・カシワが復帰し、バンドはパワー・アップ。今回はカシワを含む5人編成でのステージとなった。サクサクとスムーズな進行がサウンド共々心地よい。アコースティックとエレクトリックを持ち替えるフリーマンのギター・プレイが、バンドを牽引する。カシワのサックス&EWIも聴きもので、リーダー作からのナンバーは、改めてフュージョン界のトップ・プレイヤーであることを納得させた。大型セットのデイヴ・カラソニーのドラムスが、リッピントンズのボトムを支えていることも、新鮮な発見であった。腕利きメンバーによるサウンドを堪能。
ボストン在住のヴェテラン・ピアニスト
2009年10月14日
バート・シーガーのアルバムを聴いて親しんでいるファンは、かなりのジャズ・ピアノ・マニアだと言っていいかもしれない。来日公演が10度以上を数えるということでは知名度が広がっているはずだが、今だに知る人ぞ知る域のピアニスト。今夜は渋谷「JZ Brat」で日本人ミュージシャン2人とのトリオを観た。ファースト・セットは「ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム」「ハウ・アバウト・ユー」等のスタンダード・ナンバーを織り交ぜたプログラムで、観客との親近感を図った。シーガーの演奏には確かにビル・エヴァンス譲りのフレーズが認められたが、全体としてはエヴァンス派とまでは言えない複合的な影響関係があり、そのあたりにシーガーの独自性がうかがえる。セカンド・セットでは自作曲を主体としたプログラムで、オリジナリティをアピール。レコーディングでも共演歴を重ねている池長一美(ds)が、複雑なリズム構成の楽曲にも対応して、シーガーの世界を観客に伝える原動力を演じた。来日前にメールでやり取りをしたシーガーと、終演後に談笑。真面目な人柄に触れたのだった。
