Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2007年10月アーカイブ

2007年10月01日

シリーズ・コンサートを締めた異色のデュオ

 「ランデブー・イン・トーキョー」と題したチック・コリアの「ブルーノート東京」連続公演。その3組目は今年アルバムをリリースしたベラ・フレックとのデュオだ。バンジョー界に革命をもたらしたフレックは、フレクトーンズのリーダーとしてグラミー賞を受賞しているアメリカでのVIPミュージシャン。しかし日本ではまだまだアンダーレイテッドなのが、ファンにはジレンマのようである。今夜は上原ひろみとのデュオやチック・トリオほどの集客ではなかったのが、フレックの日本でのポジションを物語っていたが、客席にいたぼくとしては程よい空間だと感じて幸いだった。ジャズとブルーグラスというジャンルを超えて信頼関係を築いたビッグ・ネームの2人が、好きな音楽を演奏するという趣味的な色合いが浮き彫りになり、客席の音楽ファンにもたちまち共感が広がった。演奏が終わった後、ほのぼのとしたムードに包まれたのは、BNTでこのプログラムを実現させた意義として記憶したい。

2007年10月02日

北欧からの強烈な即興演奏家たち

 ザ・シング2デイズ@新宿ピットイン。今夜はその2日目だ。マッツ・グスタフソン(bs,as,etc)+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン(b)+ポール・ニルセン・ラヴ(ds)はスウェーデンとノルウェーの混成トリオ。両国の新世代は交流が盛んで、ライヴとレコーディングで多くの成果を残している。今夜は大友良英(g)がゲストで参加した4人編成のステージとなった。セカンド・セットは40分間ノン・ストップの演奏。フィニッシュは全員ピタリと決めた。いつも思うが大友のギターは快感。北欧のミュージシャンたちも共演を通じた快感を得られるからこそ、再演を重ねているのだろう。北欧体験者からすると、国境を超えたこのセッションは収穫大だった。もちろん勝算があってのブッキングだったはずだが、この演奏の息の合い方は成熟したジャズの事例として記憶すべきだ。客席に多くの若者が詰め掛けていたのが、ジャズ界の光明と受け取った。国境を超えた新しいジャズが育っている好例ライヴだった。

2007年10月04日

新世代の鬼才ピアニストが初登場

ロバート・グラスパー@丸の内コットンクラブ。以前サイドマンとして出演した新宿ピットイン公演を観た時、アルバムを通じて抱いていた若手実力者のイメージを再認識した。今夜は高級感漂うクラブに、一枚看板として初めて登場。今年ブルーノートから2枚目のリーダー作をリリースしており、モダン以降のジャズ・ピアノを踏まえながら自由な表現を追求する点で、注目すべき才人だと言える成果を示している。来日メンバーはベースが新作にも参加しているヴィセンテ・アーチャー、ドラムスが告知されていたクリス・デイヴからエリック・ハーランドにチェンジしたトリオ。3人がステージに現れ、演奏が始まる。グラスパーは1曲目から速弾きが爆発。ハーランドは人力ドラムンベースを織り交ぜながら、疲れを知らないプレイでトリオに貢献する。山あり谷ありのパフォーマンスは曲間の切れ目がなく、終わってみれば1時間ノンストップのメドレ?として演奏されたのだった。アンコールでも20分近い1曲を演奏。グラスパーは中途半端が嫌いなミュージシャンであることを証明した。この個性は現在のニューヨークのジャズ・シーンにあって、得難い貴重なものだと思う。

2007年10月06日

待望の来日公演を実現させた欧州の人気ピアニスト

 日本のレコード会社による企画・制作のアルバムも数多いニルス・ラン・ドーキーは、この国と縁が深いにもかかわらず、なかなか来日公演を行わないピアニストだった。その間、メールでのインタビューを通じてラヴ・コールを送っていた。今年4月にはプロモーションのため、デンマーク大使館で関係者向けのライヴを行った際、ニルスと“旧交”を温めた。今夜は半年前にニルスが予告してくれたレコーディング・メンバーによるステージを、丸の内「コットンクラブ」で観た。ムソルグスキー、チャイコフスキー、ラフマニノフ等、ロシアのクラシック作曲家の有名曲を取り上げた最新作『展覧会の絵?ロシア紀行』からのナンバーを中心に構成。ニルスの演奏を聴きながら改めて思ったのは、自分の“節”を持っているピアニストは強い、ということ。前半のプログラムではその定説を再認識した。また「くるみ割り人形」で大小のシンバルを中心にソロを組み立てたアレックス・リールの匠の技に感嘆。後半に進むと、ミディアム・テンポの「アイ・ラヴ・パリ」でトリオが本領を発揮。4ビートを新鮮に若々しく響かせるリールの技術には、つくづく感心した。67歳でこのセンスを保っているリールは、北欧最高峰の称号に恥じない。終演後、楽屋を訪れてニルスと談笑。初対面だったベースのピエール・ブーサゲとはメール・アドレスを交換し、リールからは最新リーダー作を受け取った。

2007年10月07日

今年も横濱のイヴェントは大盛況

 この時期の土日の2日間に開催される「横濱ジャズ・プロムナード」。2日目の本日、赤レンガ倉庫でのライヴを訪れた。「モーション・ブルー」と同じエリアなのでいつも感じるのだが、都心からは小旅行感覚だ。休日をまるごと過ごすのであれば満喫できるのだろうが、取材目的ではモチベーションも異なる。赤レンガ・エリアへ行くと、広場にビール&ワイン・フェスティヴァルのブースが設けられていた。これは休日の過ごし方としては最高かもしれない。仲間とワイワイやりながら横浜のベイエリアで過ごす。最高の贅沢だろう。脇をすり抜けながら、北欧での夏を思い出した。夏場は午後10時過ぎまで明るいので、人々は野外でビールを飲みながら楽しむ。赤レンガで最初に観たのはオランダの女性サックス奏者=ティネカ・ポスマ。カルテットを率い、堂々のパフォーマンスを披露した。続いてはクリスチャン・ジェイコブ・トリオ。アルバムを通じて抱いていたイメージと変わらない実力を発揮した。終演後はサイン会に長蛇の列ができ、ジャズ・ライヴの好ましい状況を現出した。詳しくは「スイングジャーナル」12月号を参照してください。

2007年10月09日

北欧ホット!07パート2

 北欧ジャズ・ミュージシャンの出演がすっかり定着している「新宿ピットイン」。今夜は先週のザ・シングに続くシリーズ第2弾として、インゲブリグト・ホーケル・フラーテン(b)とポール・ニルセン・ラヴ (ds)がキー・メンバーとなる2つのバンドがブッキングされた。ファースト・セットは八木美知依(20絃筝、17絃筝)が加わったトリオで、今回は久々の再会パフォーマンス。約40分、ノンストップの演奏は終始、全力疾走。爆音系のポールとウッドベースに電気的処理をしたフラーテンに対して、八木はスティックを使用した斬新な奏法で自己主張。ふとした瞬間に立ち上る筝の美しい音色に魅了された。セカンド・セットはラウール・ビョーケンハイム(g)がリーダー格のスコーチ・トリオ。フィンランド人とノルウェーの2リズムが組む電化フリー・ジャズ・トリオというのは、北欧各国のミュージシャン間で交流が盛んになっている現在でも珍しい存在かもしれない。八木とのトリオとは異なり、緩急をつけた展開で演奏は進んだ。疲れを知らないポールの力演に拍手。客席は若い音楽ファンが多く占め、北欧の前衛ジャズが日本でも確実に支持を集めていることを実感したのだった。

2007年10月12日

フレンチ・ピアニストの東京ライヴ

 7日の「横濱ジャズ・プロムナード」に出演したクリスチャン・ジェイコブ・トリオを、神田「TUC」で観た。この日はライヴ・レコーディングを兼ねていた2部構成。「TUC」史上、かなりの上位にくる集客で、開演時刻を待った。プログラムは先日のジャズプロで演奏しなかったナンバーも取り上げて、ファースト・セットが終了。セカンド・セットはファーストで演奏した楽曲でジェイコブが不満足だった3曲の再演を含むプログラムとなった。ぼくが最も感銘を受けたのは、広範囲の年齢層の人々が集い、長丁場のステージを拍手と共に見守ったこと。日本のファンの優しさがトリオの好演を生んだとも言えるだろう。このレコーディングは来春に内外でリリース予定である。ライヴ・イヴェントの告知と集客に関しても考えさせられる好例だった。

2007年10月13日

邦人ピアニストの意欲的なホール・コンサート

 数年前にインタビューしたことがきっかけとなって、たびたびコンサートを観ているのが塩谷哲だ。今日は渋谷「オーチャードホール」で、「スケッチ・オブ・ニューヨーク」と題したステージをウォッチ。この会場では塩谷と小曽根真のデュオ・コンサートを観ているが、塩谷にとっては先輩格の小曽根さんに頼れた前回のステージとは異なり、すべてを自分がオーガナイズしなければならないわけで、責任重大だ。バンドはリズム・セクションにホーンズとストリングスが加わった大所帯。さらに3人のゲストを迎えるという豪華なセッティングである。管楽器と弦楽器を取り入れた音作りは、ジャズからポップスまで幅広く活躍してきた塩谷にとっては得意なジャンルのはずだ。約20年間の音楽活動の集大成となるステージ、という意識が本人にあったことも想像に難くない。休憩を含めた2時間40分の公演は、塩谷のMCを整理すれば冗漫にならなかったと思う。ファースト・セットでは塩谷が敬愛するチェリストの溝口肇をフィーチャーし、スティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」を演奏。セカンド・セットでは三味線の上妻宏光が「津軽じょんがら節」で観客の心を掴み、ストリングスとの共演で異ジャンル交流の音楽成果を浮き彫りにした。昨年デビューし、瞬く間にスターダムに躍り出た手嶌葵(vo)が、「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」と「この素晴らしき世界」を歌唱。アニメ映画畑の20歳の女性歌手がジャズでポピュラーな名曲を、自分のスタイルで歌い、観客を魅了したのが新鮮。パワフルな歌唱力で圧倒するタイプではない。しかし聴き手を引き付ける力には、特別な声だと感じた。プログラムの最後に長尺の「スケッチ・オブ・ニューヨーク組曲」を用意。塩谷が持てるすべてを込めて、ラストを迎えた。

2007年10月15日

邦人アーティストのショーケース・ライヴ第1夜

 イーストワークスエンタテインメント所属アーティストが出演するシリーズ・コンサート「Jazz Today 2007」が、今年も六本木「STB139」で開催された。4夜連続となるステージのトップ・バッターを務めたのは渡辺香津美。長年日本のジャズ界でトップに君臨するギタリストである。渡辺は近年、アコースティック・ギターによるソロ演奏に取り組んでおり、『ギター・ルネッサンス』と題したアルバムをすでに4枚リリースしている。今夜は吉田美奈子をゲストに迎えた2部構成だった。ファースト・セットは3本のアコースティック・ギターを弾き分けたソロ・パフォーマンス。ビートルズが大好きだという渡辺の思いを投影した「エリナー・リグビー」を皮切りに、「雲」?「マイナー・スイング」のジャンゴ・ラインハルト・メドレー等で、本領を発揮した。ガルシア・ロルカ「血の婚礼」が原作の森山末来主演舞台で、渡辺が音楽を担当した経験は、本人の芸域を広げることになったようだ。セカンド・セットではエレクトリック・ギターを主体に演奏。そしてゲストの吉田美奈子が登場し、渡辺のリーダー作での共演曲「翼」(作詞・作曲=武満徹)を披露。さらにジョニ・ミッチェル「青春の光と影」、チャールズ・ミンガス「グッドバイ・ポーク・パイ・ハット」を歌唱。かれこれ30年以上も聴き続け、単独コンサートにも行っているファンのぼくだが、「ブルーゼット」他のスタンダード・ナンバーを歌う美奈子を聴いていて、晩年のサラ・ヴォーンが浮かんだことに我ながら驚いた。ラストは渡辺のリクエストで、美奈子の代表曲「リバティ」。アンコールに応えて再び登場した2人は、「ドナ・リー」と「スイングしなけりゃ意味ないね」で、ジャズ愛を全開に。“凄技”を持つ達人の芳醇なデュオ・ライヴだった。

2007年10月16日

JazzToday第2夜

 六本木“スイートベイジルSTB139”での2日目は、「Big Cool Sound of JazzToday」と題して、ベーシストの水谷浩章がオーガナイズする2つのバンドが出演した。ファースト・セットは新進フルーティスト太田朱美が来春リリースするデビュー作の参加メンバーと、水谷率いるフォノライト・アンサンブルが合体した12人編成のラージ・アンサンブルが演奏。邦人女性ジャズ・フルーティストでは小宅珠美、赤木リエ、小島のり子が活躍するが、まだまだ層が厚いとは言えない中で、太田がジャズ界に登場したのは歓迎すべきことだと思う。リズム隊+金・木管5本+2チェロは大人数でありながら、スモール・コンボによる室内楽的な趣も醸し出した。太田のプレイは噂に違わぬ若き実力者ぶりを印象づけたのが収穫。本年度「スイングジャーナル」読者投票の木管楽器部門で15位にエントリーしている。アメリカの博物館で体験したことを創作モチーフとした組曲が、なかなかの聴きものだった。セカンド・セットはファーストの一部メンバーが入れ替わったフォノライトが出演。リーダー第2弾が控えるフルートのMiyaと太田のペアーと、チェリスト2人の女性陣がステージを華やげた。ロン・カーター作曲の「RJ」と先頃他界したジョー・ザビヌルへのオマージュ曲「イン・ア・サイレント・ウエイ」は、水谷が意図したのものではないのかもしれないが、期せずしてマイルス・デイヴィス関連曲が揃う格好に。ベテラン・ギタリスト中牟礼貞則の好助演も特筆したい。

2007年10月17日

JazzToday 第3夜

 劇場公開から1ヶ月以上経った映画『HERO』を、六本木ヒルズで観た。興行的にも大ヒットを記録しているこの作品は、結末がどのメディアでも明かされていなかった。観ながら巧みな脚本に感心しつつ、ラスト・シーンに思わず溜め息。松たか子の好演が印象的だった。
 「スイートベイジルSTB139」での3日目。今夜は「Elegies,Touches,Songs of JazzToday」と題し、2組が出演した。ファースト・セットは津上研太(as,ss)がリーダー格のカルテット=BOZO。メンバーのオリジナル曲を中心としたステージは、約束事を踏まえた上での自由なサウンドを追求するメンバーの姿勢が伝わってきた。循環呼吸法を使用した津上の演奏は、ウエイン・ショーターを想起させるもの。一見4人ががっちりと結束している風ではないのに、彼らならではのサウンドを表出するのがBOZOたるゆえんなのだろう。インターミッションに入ってしばらくすると突如、菊地成孔がステージに登場。セカンド・セットに行われる南博のトリオに弦楽四重奏が加わったバンドについて、コメントを発した。菊地は南の同コンセプト作『タッチズ&ヴェルヴェッツ』『エレジー』の2枚のプロデューサーでもある。饒舌なMCによって会場が温まったところでミュージシャンが揃った。「Bマイナー・ワルツ」「マイ・フーリッシュ・ハート」の選曲はビル・エヴァンスへのシンパシーの表明であり、アナザー・サイド・オブ南博と言えるだろう。以前、南にインタビューした時に知ったのは、中学生時代に不登校だったこと。曲間のマイクでも笑いを取るようなコメントを発していたが、根はシャイな人柄なのではないか。アンコールはトリオだけで、それまでの雰囲気を変えたアグレッシヴな姿勢で「ソーラー」をプレイ。冗漫にならないプログラムにも好感を抱いた。

JazzToday 第3夜

 劇場公開から1ヶ月以上経った映画『HERO』を、六本木ヒルズで観た。興行的にも大ヒットを記録しているこの作品は、結末がどのメディアでも明かされていなかった。観ながら巧みな脚本に感心しつつ、ラスト・シーンに思わず溜め息。松たか子の好演が印象的だった。
 「スイートベイジルSTB139」での3日目。今夜は「Elegies,Touches,Songs of JazzToday」と題し、2組が出演した。ファースト・セットは津上研太(as,ss)がリーダー格のカルテット=BOZO。メンバーのオリジナル曲を中心としたステージは、約束事を踏まえた上での自由なサウンドを追求するメンバーの姿勢が伝わってきた。循環呼吸法を使用した津上の演奏は、ウエイン・ショーターを想起させるもの。一見4人ががっちりと結束している風ではないのに、彼らならではのサウンドを表出するのがBOZOたるゆえんなのだろう。インターミッションに入ってしばらくすると突如、菊地成孔がステージに登場。セカンド・セットに行われる南博のトリオに弦楽四重奏が加わったバンドについて、コメントを発した。菊地は南の同コンセプト作『タッチズ&ヴェルヴェッツ』『エレジー』の2枚のプロデューサーでもある。饒舌なMCによって会場が温まったところでミュージシャンが揃った。「Bマイナー・ワルツ」「マイ・フーリッシュ・ハート」の選曲はビル・エヴァンスへのシンパシーの表明であり、アナザー・サイド・オブ南博と言えるだろう。以前、南にインタビューした時に知ったのは、中学生時代に不登校だったこと。曲間のマイクでも笑いを取るようなコメントを発していたが、根はシャイな人柄なのではないか。アンコールはトリオだけで、それまでの雰囲気を変えたアグレッシヴな姿勢で「ソーラー」をプレイ。冗漫にならないプログラムにも好感を抱いた。

2007年10月18日

10周年記念パーティー

 この日記を運営しているサイトの(株)セブンオークス・パブリシングが、設立10周年を迎えたことを記念して、お台場のレストランでパーティーが開催された。会場には約70名が集って大盛況。ぼくがオーナーの小野里さんと知り合ったのは1998年で、ぼくにとっては初めての単行本の企画を受け取ったことだった。当時、小野里さんは別の出版社に在籍されていて、その処女作をきっかけに3冊の単行本が世に出た。その間、オフィスが水道橋?九段?水道橋と移ったのだが、最後の水道橋ではワーク・スペースと飲食店を併設するという画期的なレイアウトが実現。イベント・スペースとしてぼくのDVD会や音楽ライヴなどが開催された。

 これは忘れられない出来事だし、一定の成果があったと思っている。7月には南青山のブティックでDVDイベントを行い、その成果が別の形で波及することにもなった。今夜の宴は、ぼくにとって小野里さんと知り合って9年間の歴史が凝縮されたものとだったと思う。何人かの懐かしい人たちや、現在も仕事関係のあるバンダイのみなさんと再会を祝しながら、この関係をこれからも長く続けたいと感じた。

2007年10月19日

新感覚のピアノ・トリオが丸の内に登場

 フィリップ・セス・トリオ@コットン・クラブ。パリで生まれ、アメリカに移住して30年近くになるピアノ&キーボード奏者は、フュージョン界で名を高め、近年はトリオ作を連発して新しい評価を得ている。今夜はトリオにとって初登場となる会場でのステージだ。セスのレギュラー・メンバーはデヴィッド・フィンク(b)+スクーター・ワーナー(ds)なのだが、スケジュールの関係でベーシストを務めたのがクリス・ミン・ドーキー。クリスはコンパクトなヤマハ製アップライト・ベースの使用者ということで、日本との関係が深い。セス・トリオに初めて加わったわけだが、演奏はスムーズだった。 「オール・ザ・シングス・ユー・アー」ではドラムンベース・アレンジで現代性を表出。ピアノとキーボードを同時に演奏する技を駆使しながら、ベテランの存在感を発揮した。中盤には思いがけずアルトサックスの伊東たけしが登場。約20年前に共演したことがきっかけの2人が、旧交を温めるステージは好ましく映った。伊東の若々しさも驚くべきことかもしれない。ワーナーのバスドラのキック力も特筆したい。

2007年10月20日

ベテラン・ドラマーの新作記念コンサート

 新作『ニュー・ディール』リリース記念として大隈寿男が「草月ホール」でリサイタルを行った。いわゆる「レコ発ライヴ」はよく開催されるが、今回のコンサートは少々趣が異なっていた。客席に足を踏み入れると、年齢層が高い。ジャズ・ファンという外見でもない人々が少なくない。マダム、女将系の女性が多数。ファースト・セットはレコーディング・メンバーを中心としたメンバーによる“若手クインテット”。フロントの2管に同じ楽器の近藤和彦と太田剣のアルトサックス2人を配したことに関して、大隈はMCで「本人たちに無理を言ってお願いした」と説明したが、音楽的理由は明かされなかった。それを演奏を聴きながら読み解いてみると、ハードバップに音楽性の基盤を置く大隈が,50年代のアメリカの2アルトズをモデルとして、自己のバンドを編成したことが想像できる仮説に行き当たった。フィル&クイルがそのモデルなのだろうが、演奏を聴くとそうでもないようだ。このバンドでは“ニュー・カマー”だったピアノのハクエイ・キムが健闘。セカンド・セットになるとトリオのピアノが納谷嘉彦、ベースが井上陽介にチェンジし、ステージの雰囲気がアダルティーに。レーベル・メイトの女性ヴォーカリスト=安富祖貴子が登場すると、ぐっと華やいで、「ワーク・ソング」を熱唱。さらに後半に進むとバンドによるダウンタウン・ブギウギ・バンドの名曲のリフに乗って、宇崎竜童が登場。大隈と宇崎は明治大学の後輩/先輩の関係で、後輩の大隈が宇崎に何度も共演のラヴ・コールを送っていて、今回それが実現したということだ。宇崎はロック/ポップス畑のミュージシャンだが、ジャズ・ステージにも即座に対応できたのはキャリアのなせる業だと思った。<横須賀ブルース>でも宇崎のジャジーなステージ・マナーに感嘆。アンコールのラストでは「ウォーターメロン・マン」で大団円となった。

2007年10月24日

精力的なジャズ夫妻の記念コンサート

藤井郷子(p)と田村夏樹(tp)が活動拠点をニューヨークから東京に移したのが1997年。今年で節目を迎えたことを祝して、帰国10周年記念コンサートが「新宿シアターモリエール」で開催された。10年前にぼくは同会場で藤井のビッグ・バンドによる帰国コンサートを観ている。ここに来たのはその時以来のこと。時間が経つのは早いものだと改めて思った。それにしてもこの10年間における藤井&田村の活動は、実に精力的だ。ソロから大編成までの様々なプロジェクトを同時進行させ、45タイトルに及ぶアルバムをリリース。特定のレーベルに縛られることなく、自由な制作活動を始め、その姿勢を貫いてきたのは、ジャズ・レコード業界の常識を覆すものであり、他の邦人ジャズ・ミュージシャンにとってもビジネス・モデルとなったに違いない。着席して評論家小西氏と談笑。3部構成のコンサートは、予想に反して最初に藤井郷子オーケストラ東京が登場。メンバー個々のフリー・スタイルでの演奏やオノマトペを織り交ぜながら、アンサンブルとしてもしっかりとまとまっていたのが印象的。セカンド・セットは2004年に始動したガトー・リブレ。アコースティック楽器のカルテットが、哀愁を帯びたサウンドを奏で、オーケストラとは正反対のゆったりとした時間と空間を作った。ラストは藤井+田村+早川岳晴(el-b)+吉田達也(ds)からなる藤井郷子カルテット。ロック・イディオムを大胆に導入したバンド・サウンドは、キメを多用した痛快なもの。個人的には3つのセットで最も楽しめた。作曲家の才能も含め、藤井の多彩なキャラクターのショーケース・ライヴとなった2時間超。200席のキャパシティがもっと広ければ、と思ったイヴェントであった。


2007年10月25日

トップ・ベーシストの要注目ステージ

 デイヴ・ホランド・クインテット@ブルーノート東京。欧米の専門家筋でも非常に高い評価を得ている、当代最高峰のベーシストが率いるバンドのクラブ・ライヴである。見どころは多々あって、サックスのクリス・ポッターはコンボとウィズ・ストリングスの新作2タイトルを同時リリース。トロンボーンのロビン・ユーバンクスはユニークなエレクトリック・トリオによるCD+DVD作を今年リリースした。旬のミュージシャンを擁した点でも、玄人筋だったら絶対に見逃せないステージだ。注目ポイントは1曲から早くも訪れた。ドラムスとの小節交換が通例とは異なり、ドラムス対4人のアンサンブルという図式を呈したのだ。これはサウンド的な面白さを現出したばかりでなく、バンド・メンバーの親和性をもアピールしたのが収穫。若き巨匠の風格も漂わせるポッターは、一点を見つめたテナー・ブロウで実力者ぶりを体感させてくれた。ポッターのレギュラー・バンドのメンバーでもあるネイト・スミスは、若手黒人ドラマーの注目株と呼ぶべき地金の強さを実証。近年の流れとして人材層の厚さを増す米国黒人のトレンドを再認識した。アンコールを含めた1時間半のステージは、現代ジャズ・シーンにおけるこのユニットの重要性を浮き彫りにしたのだった。

2007年10月28日

秋恒例の北欧イヴェント

 今年で6回目を迎えた「フィンランドカフェ」。同国の衣食住や文化を紹介する1ヶ月期間限定のイヴェントは、中目黒や赤坂を舞台に、年々集客を増しながら開催されてきた。今回はアルファロメロのショールームを借りたスペースで、初めての自由が丘での開催。若者に人気のある土地を選んだことは、このイヴェントの新たな広がりを予感させた。恒例のジャズ・ライヴは昨年の「東京TUC」とは異なり、同カフェと同じスペースでの開催。2Fスペースを利用してアトロ“ウェイド”ミッコラ・トリオが出演した。主催者によれば2年連続でクラブ・ジャズ系アーティストが出演したこともあり、今回はあえてアコースティック・トリオをフィーチャーしたとのこと。トリオ・メンバーは1950,60、70年代生まれの超世代。80?90年代にアメリカで活動したミッコラが、エリック・アレキサンダーを迎えて制作したリーダー作で個人的に注目していたミッコラは、予想通りの実力者だった。ティモ・ラッシー盤にも参加したピアノのジョルジオ・コントラフォウリスは沈着冷静&ファンキーなキャラクターを表出。トリオに参加して間もないドラムスのアンドレ・スメリウスの力演がステージを盛り上げたことも特筆したい。北欧ファンと思しき多くの若者が、ネーム・ヴァリューにとらわれずジャズの生演奏を楽しんでいた状況を嬉しく思った。

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