Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

« 2007年08月 | メイン | 2007年10月 »

2007年09月アーカイブ

2007年09月05日

ヴィブラフォンの名手が自己のユニットで来日

 2月にSFジャズ・コレクティヴの長老メンバーとして「ブルーノート東京」に出演したボビー・ハッチャーソンが、自己のカルテットを率いて同店のステージに再び立った。開演20分前に入店したところ、たまたまステージ至近中央の席が空いていたので着席。こんなに間近でヴィブラフォンを聴くのは初めてだったし、ましてやそれがボビーということになれば尚更期待が高まる。そして至近距離で体感したボビーの演奏は、この楽器が一見頑丈な造りの割りに、プレイヤーのエモーションを反映してよく動くことを発見させるものだった。60年代に新主流派の筆頭格として名を高め、80年代にはメインストリームへとシフトした経緯は知っていただけに、聴く者を驚かす革新的な要素は期待していなかった。 それでもぼくが感銘を受けたのはミルト・ジャクソン以降に登場したボビーが開発した、新しいヴァイブの音が健在だったこと。そして思いもよらない選曲で喜ばせてくれた「Herzog」。ボビーの60年代ブルーノート諸作の中では目立たない1枚である『トータル・エクリプス』からのナンバーだが、実はチック・コリア参加の秀作であり、今このタイミングで演奏してくれたことが嬉しい。ちなみに初日のセット・リストにこの曲がなかったのも、今夜のステージの価値を高めた。終演後、評論家の村井氏と合流し、早朝まで痛飲した。

2007年09月06日

米西海岸のジャジー・ソウル・ディーヴァ

 米サンフランシスコ、ベイエリア出身のフィリピン系アメリカ人であるRADが初来日。丸の内「Cotton Club」公演を観た。本名のローズ・アン・ディマランタの頭文字をアーティスト名とする女性SSW&キーボード奏者。プリンス、ハービー・ハンコック、タワー・オブ・パワー、サンタナといった著名アーティストの下で経験を積んだミュージシャンがバンドを構成しており、その点でも期待していた。ステージは存在感の大きいRADの歌唱がグイグイと引っ張りながら進行。エレピ使用の弾き語り曲も盛り込んで、多くの観客にとって初体験となる西海岸のジャジー・ソウルを体感させてくれた。プリンス・ファミリーのエリック・リーズがテナーに加えてキーボードも演奏。フュージョン好きからの支持も厚いギターのレオ・オビエドは、職人肌の実力を発揮した。ドラムスのビリー・ジョンソンがメイズのメンバーだったことが明らかになって、バンド・サウンドに納得。“キメ”が多いのもこのバンドの特徴であった。

2007年09月07日

邦人女性ピアニストが8年ぶりに出演

 本邦ジャズ・シーンの頂点にまで上り詰めながら、突如第一線を退いて沈黙を守り続けた大西順子が、ゆかりの深い「ブルーノート東京」に8年ぶりの出演を果たした。すでに大野俊三グループのツアーに参加し、自身のトリオでのクラブ・パフォーマンスもこなしていたが、BNTほどの大舞台は実に久々。ぼくは前回、大西が出演したBNTの旧店(骨董通り沿い)でのステージを観ている。途中で席を立つカップルもいた。あのエレクトリック・プロジェクトは時期尚早だったのか、それとも本人には不向きだったのか。その後 21世紀に入って本邦ジャズ界の環境は激変。上原ひろみを始め、新世代ピアニストが続々と登場しており、勢力図は大きく塗り替えられた。今夜、復活劇を演じる晴れの舞台のために、大西は94年にNY“ヴィレッジ・ヴァンガード”で共演したレジナルド・ヴィール(b)+ハーリン・ライリー(ds)の黒人2リズムを起用した。共演関係のブランクがあるとは言え、これほど頼もしいパートナーはいない、ということなのだろう。ステージに立った大西トリオは、ノンストップで約30分演奏。テンポを自由に変化させながら展開するスタイルに、往時の記憶が甦る。MCなしでこのまま進むのか、と思っていたらマイクを持って話し始めた。髪型と相まって、妖艶さが加わったのが新生・大西順子だと言いたくなるステージ・マナー。1曲ごとに調子を上げてゆく。ブランクを感じさせないどころか、演奏中の要所でメンバーに指示を出すリーダーシップも発揮して、トリオの結束も示してくれた。普通これだけ空白期間があれば、かつてのポジションはなくなっているのだが、今夜の演奏は即復帰が可能であることを確信させた。今年40歳という節目を迎えたことが、大西に再出発を決断させたのかもしれない。新作の制作を早急に望みたい。
 

2007年09月09日

邦人ピアニストのレコ発ライヴ

 ヤコブ・ヤング@東京TUC。前回の来日は3年前、カーリン・クローグとのデュオ・アルバムをリリースしたタイミングで、ぼくはノルウェー大使館での関係者向けパフォーマンスを観ている。今回は2004年発表のECMデビュー作『イヴニング・フォールズ』と同じレコーディング・メンバーのクインテット公演だ。1970年生まれのヤングが率いるバンドは、20代から60代までの超世代で構成されている。それを可能にするのは彼らに共通言語があって、常識的にはモダン・ジャズということになるのだが、ヤング・クインテットの場合は事情が異なる。北欧らしいクールネスを湛えているのが特徴で、ECMサウンドとしてジャズ・ファンの間で共通的に認識されているものと言っていい。トランペットとテナー&バスクラがフロントに立つのだから、このような音が出てくるという常識はこのバンドには当てはまらない。かつてECMには「沈黙に最も近い美しいサウンド」のキャッチ・コピーが冠せられたが、彼らのパフォーマンスを聴きながらこの言葉を思い出した。5人の繊細な音作りに2時間集中。11月にはECM第2弾となる『Sideways』が登場する。この日ノルウェーの代表的な新聞社ダーグブラーデの記者が同行していて、ビデオと写真撮影をしていたのだが、休憩時間に急遽ぼくがビデオ取材された。

 終演後にはヨン・クリステンセン(ds)との談笑シーンも撮影。今回28年ぶり2度目の来日となったクリステンセンの、前回1979年のキース・ジャレット公演もぼくは観ていて、そんな話題も弾んだ。それらの模様は同社のウエブサイトに記事と動画がアップされた。やはり北欧のジャズ関係者は初対面でもフレンドリーである。

2007年09月20日

東京JAZZ初日

 会場が都心の「東京国際フォーラム」に移って、ファンの間に定着した感のある「東京JAZZ」。今年は昨年よりも1日増えたプログラムが用意され、本番前に定着ぶりを裏付けた。初日は「ビッグ・バンド&スタンダード・ナイト」と題して、4組が出演。トップ・バッターのデューク・エリントン・オーケストラは、「サテン・ドール」「ムード・インディゴ」等の名曲を演奏。ソロイストでは「イン・ア・センチメンタル・ムード」でのシェリー・キャロル(ts)が光った。60?70年代にビル・エヴァンス・トリオのメンバーで名を上げたマーティー・モレル(ds)のプレイに、感慨もひとしお。ラストは「A列車で行こう」で締めた。ピアニスト2人の兄弟デュオ・チーム=レ・フレールは、ピアノ1台を弾く連弾スタイルで人気。客席を見渡すと、この若者目当ての集客が高いことがわかった。トリを務めた小曽根真プレゼンツ・ノー・ネーム・ホーセズは、現在の本邦ビッグ・バンド界で活躍する売れっ子たちが集結した大編成であり、小曽根の自作曲を発表する場としてもデビュー作が高く評価された。本編が終わった後、アンコールでサプライズが用意されていた。22日に小曽根が共演する予定のマイク・スターン(g)+クリス・ミン・ドーキー(b)+デイヴ・ウェックル(ds)が加わった特別オーケストラの演奏だ。スタッフに無理をお願いしたという小曽根のファン・サービスだったのだが、これは嬉しいプレゼント。終演時刻は午後11:00を過ぎていた。

2007年09月21日

東京JAZZ第2日&MORE

 「東京ジャズ・パーティー・エクスプレス」と題した4組のステージ。2組目のソウル・バップ・バンドは2005年にアルバム・デビューしたランディ・ブレッカーとビル・エヴァンスが中心のグループだ。70年代ブレッカー・ブラザーズのレパートリーを皮切りに、90年代ブレッカーズも参照。四半世紀前にマイルス・デイヴィスの新宿西口公演で観たエヴァンスが、当時とほとんど変わらぬ外見で登場したのは嬉しかった(バンダナ付き)。ギターのハイラム・ブロックは、かなり身体が膨張していて驚いたが、客席に降りて会場を走りながら演奏するお約束パフォーマンスをきっちりと行ってくれて満足。ロドニー・ホームズ(ds)のスーパー・テクニックにも驚愕した。

 続くキャンディ・ダルファーのステージの途中で失礼し、目黒へ移動。西山瞳@Jay-Jユs Caf獅を観る。スウェ?デンでのレコーディングとライヴを経験して、さらに成長した西山の今を知るクラブ・ライヴである。ぼくは遅れて入店する格好になったのだが、いっしょにストックホルムで取材したライターの服部さんや、通訳の斉藤さんと再会。西山の吉祥寺の常連店よりもキャパシティが広いこの店も満員となり、東京での新たな拠点が増えた感を抱いた。終演後は写真家の常見氏と居酒屋でプチ打ち上げ。

2007年09月22日

東京JAZZ第3日

 この日は昼夜の2回公演がプログラムされ、フェスティヴァルのハイライトとなった。昼の部は松居慶子、リー・リトナー、ボブ・ジェームス、エリック・ベネイ&マイケル・パウロ・バンドの4組が出演。最も印象的だったのがボブ・ジェームスで、DJを起用したバンドはヒップホップ方面でジェームスの作品がサンプリングされ、定番ネタとして有名になっている状況に、本家が応える形となった。ラストの「ウエストチェスター・レディ」では、出番を終えていた松居慶子が登場して、ジェームスとのピアノ連弾を披露。スムース・ジャズ界の超世代共演が実現したシーンとなった。

 夜の部は「マスターズ・セッション」と題して3組が出演。トップ・バッターのベニー・ゴルソン・カルテットは、今回のフェスティヴァルにあって唯一のアコースティック・ジャズ・コンボだ。スピルバーグ監督作品『ターミナル』に出演したことでも話題になったゴルソンは、同作の日本封切と同じタイミングで来日しており、現役のジャズ・ジャイアンツの1人として存在感を示したのが記憶に新しい。

 今夜のステージでは「ウイスパー・ノット」「アイ・リメンバー・クリフォード」「アロング・ケイム・ベティ」等の代表曲をMCで紹介しながら取り上げた。演奏を聴きながら、作曲家ゴルソンの素晴らしさとモダン・ジャズの歴史が重なり、今このタイミングで日本に居ながらにしてゴルソンの演奏を体感できることの幸せを噛み締めた。トリを務めたのは東京JAZZ2007スペシャル・セッション。ランディ・ブレッカーとボブ・ミンツァーがフロントを飾るセクステットは、70年代ブレッカーズの「ストラップハンギン」でスタート。マイケル・ブレッカーへの追悼を打ち出したパフォ?マンスは、「ロックス」も選曲し、スペシャルに相応しいステージに。アンコールで「ジャン・ピエール」を演奏したのは、マイク・スターンの自薦だったに違いない。

2007年09月27日

2000年代の名デュオ・チームが初来日

 2枚のアルバムをリリースしたパット・メセニーとブラッド・メルドーが、カルテットで来日。渋谷NHKホールでの公演を観た。昨年、第1弾がリリースされたタイミングでメセニーとメルドーにインタビューした折、「来年の秋には日本公演ができると思うよ」と言っていたことが実現したわけである。すでに全米とヨーロッパ・ツアーを経ての上陸であり、ライヴ・パフォーマンスがかなり練れていることは想像に難くない。ステージはまずメセニー=メルドーのデュオでスタート。アルバム未収録曲「エアジン」は最初のデュオ・パートでのハイライトとなった。その後カルテット?デュオと進み、2度目のカルテット・パートではサラ・ヴォーンの歌唱でジャズ・ファンに知られるアルバム未収録のミルトン・ナシメント曲「ヴェラ・クルーズ」も披露。ラリー・グレナディア(b)とジェフ・バラード(ds)はメルドー・トリオのメンバーなので、カルテット=メセニー&メルドー3と見ることもできる。しかしデュオ、カルテットのどちらにおいても、サウンドの中心にいたのはメセニーだった。アルバムでは気にならなかったが、ライヴを初めて観て、デュオにおいても想像以上にメセニーの存在感が大きかったのは意外。プロ入りする前からメセニーのファンだったメルドーにとって、共演する喜びのファン気質がプロ意識を上回った、などということはないと思うのだが。それにしても休憩なしで2時間40分を演奏し通し、終演時にそれほどの長さを感じさせなかったのは、演奏が充実していた証し。ピアノのアコースティック感が損なわれていた音響には苦言を呈したい。

2007年09月30日

ピアノの詩人が15年ぶりに来日

 遂にこの日がやって来た。再来日は無理だろうと思っていたフレッド・ハーシュの、ソロ・コンサートが実現したのである。会場のお茶の水「カザルスホール」はクラシック向けで、ジャズの催しが行われることはあまりない。しかしキャパシティ500人規模でハーシュのソロ・ピアノを聴くホール・コンサートとしては、これほど贅沢な空間はなく、最上の選択だと言える。来日に尽力した広瀬氏は日本一のハーシュ・ファン。8月に来日したエグベルト・ジスモンチもそうだったが、ファンならではの強烈な情熱が様々な問題をクリアして日本のファンに幸せをもたらす好例と言えよう。 ハーシュの初来日は30年前、レッド・ミッチェルとの共演で、2度目はトゥーツ・シールマンス、3度目はジャニス・シーゲルとのデュオで来日。今回が15年ぶり4度目の日本公演となる。ステージの詳細に関しては「スイングジャーナル11月号」を参照してほしい。ハーシュの誠実なステージ・マナーも印象的だった。マネージャー氏に話を聞いたところ、決して海外での演奏旅行が難しいというわけではなく、ヨーロッパでのステージもかなりこなしているということなので、次回はぜひトリオでの来日に期待を寄せたい。 

新トリオのレコ発ライヴ

 「ランデブー・イン・トーキョー」と題して、チック・コリアが「ブルーノート東京」を舞台に3つの編成で連続公演を行っている。今夜はその2組目となるトリオ公演を観た。今月リリースされたチックの新作『ドクター・ジョー?ジョー・ヘンダーソンに捧ぐ』のレコーディング・メンバーであるジョン・パティトゥッチ(b)+アントニオ・サンチェス(ds)との初来日ステージである。パティトゥッチとはエレクトリック・バンド以来、長年の関係で、サンチェスとはこれが初めてのバンド共演関係が始まった形。過去チックがバンドに起用したドラマーを振り返ると、トム・ブレックライン、デイヴ・ウェックル、ジェフ・バラードはいずれもその時点で無名だったわけであり、チックの新人発掘の手腕が評価される副産物も生んだ。その意味でパット・メセニー・グループで名声を高めたサンチェスの起用は、チックが別の動機で白羽の矢を立てたことが想像できる。ぼくは7月にストックホルムを訪れた際、ジャズ・クラブでジョシュア・レッドマン3のサンチェスを観た。あれから2ヵ月後のサンチェスを観て、改めて今、最もノッているドラマーだと体感。演奏の詳細に関しては、「スイングジャーナル11月号」を参照してください。 

Editorial Office

エディトリアル・オフィスの仕事を紹介します。

Work's Diary

エディトリアルスタッフの取材ダイアリーを紹介します。

Kimono Gallery

染物・着物に関する情報をお伝えしています。

Jazz Diary

音楽評論家・杉田宏樹のライブダイアリーです。

Hachi Diary

セブンオークスのボーダーコリー「ハチ」のフォトダイアリーです。

セブンオークスへのお問い合わせを受け付けております。
メール:hachi@7oaks.co.jp
住所:〒134-0081 東京都江戸川区北葛西2-10-8
Phone:03-3675-8390
Fax:03-3675-8380