Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
16年ぶり、奇跡の来日公演
2007年08月20日
ECMを代表するアーティスト=エグベルト・ジスモンチが来日。92年に大病を患って以来、ライヴ活動が少なくなっていたこともあって、これは大げさではなく奇蹟的なイヴェントと言っていい。東京での1日公演が発表されるや、チケットは瞬く間に完売し、急遽決定した追加公演も完売という盛り上がりの中、初日の「第一生命ホール」公演に足を運んだ。シューズボックス型の同ホールは、比較的どの席からもステージが見やすい構造。ぼくはステージ至近の2階席に着席した。ファースト・セットはソロ・ギターによる50分間の独演。70年代に初めてレコードで聴いた時のジスモンチは、ギタリストのイメージが強かった。10弦と12弦ギターを駆使したパフォーマンスは、高度な技術と類例のない音楽性の粋を集めたもので、生初体験のぼくはすっかりノックアウトされてしまった。 セカンド・セットはピアノに専心したプログラム。ピアニスト=ジスモンチの魅力を知るまで個人的にはタイムラグがあったわけだが、今夜の演奏はギタリスト=ジスモンチを上回る凄さを見せ付けてくれた点で、全身が驚きに包まれた。事前に期待していたのが『サンフォーナ』からの楽曲を演奏してくれるか、だったが、ジスモンチは同作を忘れていなかった。ピアノゆえに際立ったジスモンチ・メロディを、曲ごとに味わえる幸福。終演後バック・ステージで談笑したジスモンチは、柔和な表情の紳士だった。今年60歳の名匠は今後もぼくたちを感動させてくれる作品を世に送り出してくれるに違いない。2007年度屈指のステージだった。