Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年08月アーカイブ

2008年08月06日

新進邦人ジャズ・シンガーが丸の内に初登場

グレース・マーヤ@Cotton Club。非常に層が厚い邦人女性ジャズ・ヴォーカル界にあって、2006年にアルバム・デビューしたグレース・マーヤはドイツでの生活が長かったこともあって、英語が堪能。語学の壁を越えるのがヴォーカリストにとっての最初の必須であることを考えれば、マーヤはすでに高いアドヴァンテージを得ていることになる。今夜はボサノヴァをテーマにした新作『イパネマの娘』のリリース記念ライヴ。内外の著名アーティストが毎日出演するクラブでの初登場、というプレッシャーを感じさせないほど、グレースはパフォーマンス、MC共に落ち着いていた。それもそのはずだったのは、彼女のサポート・メンバーが経験豊かな面々だったからだ。峰厚介(ts)、安ヵ川大樹(b)の存在は頼もしい。 そこに荻原亮(g)がフレッシュな空気を送り込んだ。急遽代役で起用されたドラムスが大槻カルタだったのは、マーヤにとって幸いだったと思う。純粋な日本人なのにそうとは思えない容姿とピアノ弾き語りは、頼もしいミュージシャンの助演を得て、さらに輝いていた。ステージ・マナーをチェックし、日本人若手女性ヴォーカリストで屈指の1人であることを確認した夜となった。

2008年08月10日

ジャンルを越境するディーヴァが4年ぶりに来日

 カサンドラ・ウイルソンといえば、エラ+サラ+カーメン以来脈々と続いてきた黒人女性ジャズ・ヴォーカリストの系譜に、90年代に突如風穴を開けた革新者。ジャズ以外の音楽ファンにも訴求力がある点で、別格的な存在でもある。今回は新作『ラヴァリー』のリリースと同じタイミングでの来日となった。同作が久々のスタンダード集であることを含めて、時代の節目を飾った過去の作品に比べるとパンチが欠ける印象があったし、ぼくの周囲でも同じような意見が聞かれた。アルバム・カヴァーで微笑むカサンドラの姿も、どことなく「丸くなったな」との印象があって、年齢も50代に入ってギア・チェンジなのかなと邪推したりもした。ところがどうだろう。“ブルーノート東京”でのステージは、最新作で抱いたイメージは完全に払拭し、昔も今も変わらない魅力を強く印象付けてくれたのである。カサンドラはアフリカン・アメリカンであることを意識しながら音楽活動を続けてきた。アルバムではやや希薄になっていたこの部分を、ステージでは前面に表現。デビュー時からのファンを、これぞカサンドラと再認識させてくれたのが最大の収穫だった。声だけで納得させる力の凄さ。邦人を含めて、ジャズ・ヴォーカルというジャンルを再考させられた一夜であった。

2008年08月12日

オーストラリアの陽気なジャズ・カルテット

 まだレコード・デビューしていないオーストラリアのグループを、丸の内Cotton Clubで観る。99年にメルボルンで結成されたシャッフル・クラブだ。アルト・サックスをフィーチャーした4人編成。今回は「札幌シティ・ジャズ2008」に招聘された関係での、東京でのクラブ出演となった。彼らの音楽性はスイングを基盤にモダン・ジャズもしっかりと押さえ、エンタテインメントに溢れたもの。ジャズ初心者でも楽しめるという意味では、野外フェスティヴァルにうってつけのアクトだろう。どちらかと言うと高級店に属すCotton Clubで、初登場の彼らがどのように受け入れられるかに若干の不安はあったが、それは杞憂だった。ジャズ・ビギナーが多いと見受けられた客席は、オーヴァー・アクションも散見されたステージを十分に楽しんだ。このグループはそれぞれの主楽器が上手いばかりでなく、ヴォーカルも堪能なのが強み。アルト・サックス→ピアノ→ドラムスと主楽器を交代する場面に、メンバーの役者ぶりを味わった。日本では広く知られていない海外アーティストの来日公演が日常的に行われている。これは東京のアドヴァンテージではあるが、もっと有意義に活用するべきだと日々考えているのもまた現実である。

2008年08月18日

希少な邦人女性ユニットのレコ発ライヴ

 スーパー・ジャズ・ストリングスというグループ名は日本制作の冠トリオにも通じるネーミングだが、これが新世代邦人女性弦楽器奏者4人からなるユニットだと知った時、そのギャップと共に彼女たちへの興味が湧くはずだ。SJSのリーダーでチェロ奏者の平山織絵から5月リリ?スのデビュー作『フットプリンツ』を送られたことがきっかけで連絡を取り合い、今日の「新宿ピットイン」でのライヴを迎えることとなった。ウエイン・ショーター作曲のタイトル・ナンバーを始め、「A列車で行こう」「おいしい水」「マイナー・スイング」と、ジャズ・スタンダード、ボサノヴァ等を選曲。カルテットにレコーディング・メンバーの3リズムが加わったことで、SJSのジャズ・バンド的魅力がさらに際立つ形となった。
 メンバーの中ではアドリブのセンスとテクニックにおいて、maiko(vln)の存在感が光っていたことを特筆したい。セカンド・セットにはレコーディング・メンバーで、自己のリーダー作も話題のフルーティストMiyaがゲスト参加。ピットインに女性4人が並ぶステージは、このクラブのヘビー・リスナーであるぼくにも前例のない光景となった。レコ発ライヴをすべて観てきた追っかけファンもすでについているのもSJSの強み。明るい前途を予感させるパフォーマンスに、ぼくも応援したい気持ちになったのである。

2008年08月28日

ジャズ・フェスティヴァルの前夜祭

 東京西部から風を吹かせる、とのコンセプトのもと、2002年に東京スタジアム(現・味の素スタジアム)でスタートした『東京JAZZ』は、会場を移転しながら近年は有楽町・東京国際フォーラムに定着。ホール前広場や、至近の施設で関連イヴェントも実施し、広がりを見せている。今夜は出演者と関係者を交えた前夜祭が、同ホール内スペースで行われた。主催者の乾杯に続き、ハンク・ジョーンズが挨拶。その直後、ハンクと談笑。すっかり元気な様子で何よりだ。「食事を中断させて悪かったね」。どこまでも気配りの巨匠である。ハンクにはケーキが供され、全員で90歳のバースデイを祝った。ロン・カーター、リシャール・ガリアーノ、ジョージ・ムラーツらも登場。関連イヴェント「フレンチ・ジャズ・クオーター」の出演者も続々と姿を見せた。今回エリック・レニーニ・トリオで来日したドラマー=フランク・アギュロンと再会を祝う。フランス人ジャーナリスト=ダニエル・ミン・トゥンとレニーニのプレ・ステージを観てからかけつけたアキコ・グレースと、近況を語り合った。

2008年08月29日

東京JAZZ初日

 今日から3日連続で「東京国際フォーラム ホールA」で開催される「東京JAZZ」(英語表記は「TOKYO JAZZ FESTIVAL 2008」)を観る。初日は「Masters’ Gala」と題した4組のステージ。トップ・バッターは同ホール至近の会場で開催された無料ライヴ出演組によるフレンチ・ジャズ・クオーター・オールスターズ。ぼくはそれらプレ・イヴェントのどれかに行こうと思っていたのだが、今週は天気に恵まれなかった。というわけで期待を込めて鑑賞。エリック・レニーニ・トリオの「コン・アルマ」を皮切りに、サックス&トランペットのベルモンド兄弟が加わったコルトレーン・トリビュート曲が続き、フレドリカ・スタールを迎えたヴォーカル曲で締めた。若手美人シンガーの呼び声が高かったスタールは、コケティッシュな魅力を発揮しつつ意外なほどジャジーで、確かな実力者であることを印象付けたのが収穫。2番手は日野皓正クインテット。実はこの日の16:00から、会報誌のためフォーラムの楽屋で日野に1時間のインタビューを行っていた。ジョークを交えた楽しいインタビューとは表情を変え、ステージでの日野はシリアスな音楽性を前面に出した40分間のパフォーマンスを披露。ビッグ・ネームだからといって、現状に安住しない姿勢を鮮明にした。ロン・カーター・カルテットはお揃いのスーツ姿で、定番とも言えるノン・ストップの演奏により独自の世界を展開。マイルス・デイヴィスゆかりの「セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン」「フラメンコ・スケッチ」をカヴァー。ラストは「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」だった。トリを務めたのはTKJ初登場となるデヴィッド・サンボーン。「ブラザー・レイ」「スマイル」「マプート」「ソウル・セレナーデ」等をプレイした1時間のステージ。気がつけば23:00であった。

2008年08月30日

東京JAZZ第2日

 13:00開演の昼の部は「GREAT AMERICAN STANDARDS」をテーマに、4組が出演。人気急上昇の邦人アカペラ・ユニット=ジャミン・ゼブが露払い役を演じた後、上原ひろみ&熊谷和徳が登場。ピアノ&タップダンスだけのステージは、他のジャズ・タップダンサーが活躍していることを考えると新奇ではないものの、演者がひろみちゃんとなれば何か新しい部分を期待してしまう。両者の共演は即興的な要素を盛り込みながら、ジョージ・ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」がたびたび顔を出す流れを作り、結果的にこの名曲が全体の通奏低音になったことを明らかにした。その中でチャーリー・パーカーの「ドナ・リー」やスティーヴィー・ワンダー『キー・オブ・ライフ』収録曲「ラヴズ・イン・ニード・オブ・ラヴ・トゥデイ」を盛り込んで、パフォーマンスを構成した点に、ひろみちゃんの音楽家としての奥深さを知ったのが収穫。ザ・グレイト・ジャズ・トリオにデヴィッド・サンボーンが2曲加わったステージは、初共演ならではの興趣がフェスティヴァルらしさを醸し出した。昼の部のハイライトになったのがハンク・ジョーンズ&ロン・カーターwith NHK交響楽団。ペイトン・クロスリー(ds)が加わり、オルジナルGJT&現カーター・グループが重なるトリオとオーケストラの共演、という図式となった。出てきた音楽はスタンダード・ナンバーを中心としながら、ガーシュイン・メドレーを配する練られたもの。ドン・セベスキーの編曲が光った。60年代にCBSのスタッフ・ミュージシャンを務めたハンクにとって、日本のステージでは珍しいセットだったかもしれないが、自分の経験では余裕でこなせる仕事だったに違いない。
 夜の部は「DRAMATIC NIGHT」と題して3組が出演。1番手の上原ひろみ?ヒロミズ・ソニック・ブルームは新作『ビヨンド・スタンダード』からのナンバーを日本でライヴ初披露。本フェスティヴァルで欠かせないアーティストであることを実証した。リシャール・ガリアーノ&ザ・タンガリア・カルテットは、ヴァイオリン奏者が欠場のアクシデントに見舞われ、急遽寺井尚子がピンチ・ヒッターを務めた。驚いた。譜面を確認しながらの演奏だったが、初見的なぎこちなさがないどころか、過去何度もガリアーノと共演を重ねていたようなスムーズさで、立派にステージを完遂。これまで寺井が実践してきた音楽が、本場のガリアーノと自然に溶け合って、感動を呼んだのであった。

2008年08月31日

東京JAZZ最終日

 昼の部は「ブルーノート東京」とのコラボレート企画。1番手のロベン・フォードはB.B.キングに捧げた自作曲などをプレイ。2番手はサム&デイヴのサム・ムーア。近作や昨年のBNT公演が好評だったことを受けての登場となった、バンド+コーラス4人+4ホーンズを従えての歌唱は、昔の名前で出ているどころか、現役感たっぷりで、ベテランの底力を体感した。「ホールド・オン・アイム・カミング」「ソウル・マン」等を熱唱。3組目は多くの観客がお目当てだったスライ&ザ・ファミリー・ストーン。蓋を開けるまで誰もが半信半疑だったステージは、70分間の最初と最後をバンドだけが務め、メイン・パートを御大が演じる構成となった。中央に据えられたキーボードの前に座って歌い始めるが、声は弱々しい。椅子を回転させてバンドに指示しながら、徐々にエンジンがかかってきたのか、突然マイクを持って立ち上がりエネルギー全開に。ミュージシャンとしての本能がそうさせたのだろう。「ファミリー・アフェア」「スタンド」等の代表曲を披露。60~70年代に一世を風靡したバンドの初来日に、動くスライを観られたことで満足したファンが多かったようだ。
 「SUPER PLAYERS」と題された夜の部は、フュージョン・ファンには見逃せないプログラムとなった。当初発表のアーティストになかったジョージ・ベンソンの出演は、今回のラインアップをぐっと魅力的なものにした。「オン・ブロードウェイ」「ターン・ユア・ラヴ・アラウンド」「ギヴ・ミー・ザ・ナイト」等、学生時代にリアル・タイムで親しんだナンバーを次々と演奏してくれたのは嬉しく思った。続いて登場したのは新作『エナジー』を発表したばかりのフォープレイ。まさに大人のためのフュージョン・ユニットである。期待に違わぬパフォーマンスで魅了してくれた後、セット・チェンジもそこそこにそのままジャム・セッションへと移行。告知されていたデヴィッド・サンボーンとのジョイントは、「マプート」で幕を開けた。考えてみればこの曲はサンボーンとボブ・ジェームスのダブル・リーダー作『ダブル・ヴィジョン』のキラー・チューン。MCでジェームスが「デヴィッドとステージで演奏するのは世界初」と紹介したことで、俄然空気が変わった。ネイザン・イーストがマーカス・ミラー流のベース・プレイで好アシスト。2曲目も同作からの「ユー・ドント・ノウ・ミー」。サンボーンの泣き節がたまらない。すると昼の部に出演したサム・ムーアが登場。全員での「カム・オン・カム・オーヴァー」が始まる。ジャコ・パストリアスのファースト作収録曲。この粋な演出には参った。R&Bセットで生来の音楽性に火がつけられたサンボーンが燃えに燃える。イーストはジャコそっくりのベース・ラインで、ファーンのニーズに呼応。国際フォーラムでの本フェスティヴァル史上、最高のステージが繰り広げられたのだった。

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