Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2009年01月アーカイブ

2009年01月01日

年頭所感

 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いします。
 昨秋から急激に世の中が不況に陥り、ジャズ業界もその波を避けられそうにない状況です。しかしピンチはチャンスを座右の銘とする自分としては、仕事を通じて多くの有益な情報を提供することによって、音楽ファンに喜んでもらいたいと願っています。音楽の聴き方も激変していますが、ジャズはクラシックと並んでまだまだパッケージ・ソフトの支持が根強いジャンル。今年も内外の優れた作品をご紹介することで、ジャズ・ファンのお役に立ちたいと思っております。

2009年01月03日

The Year In Music 2008

 ぼくの洋楽歴で大きなウエイトを占めるのが、米ビルボード誌だ。1974年から10年間、カウントダウン番組を欠かさず聴き、チャートを記録した。その後色々な大学で「全米トップ40研究会」が立ち上がったことを踏まえると、個人レベルでの先駆的なことをしていたのだと思う。ビルボードの年間最終号には、1年間の集計チャートが掲載され、もう30年以上も欠かさず購入している。70年代半ばはまだ輸入品の規制があった関係で、日本には20部足らずしか入荷していなかった。それを扱う今は無き洋書店の銀座イエナに始発から並んで、ようやく入手したのは、自分の洋楽経験の原点だ。その後、外資系ショップが進出してきたこともあって、BBの入手は格段に容易になった。ラジオ番組でポップスの最新ヒット曲を聴く機会は皆無になり、「ベスト・ヒットUSA」が個人的には旬な情報。BB年間号が自分にとって人気ポップスを知る重要なツールになっている。今日は200円バーゲンが開かれているタワーレコード渋谷店へ行き、17枚を購入した足で5Fへ移動。BBトップ・カントリー・アルバム第2位にエントリーした『テイラー・スイフト』を購入した。70年代にチャートインした楽曲に親しんだせいか、女性カントリー歌手には今でもシンパシーを抱いている。自分の音楽生活では橋休めといったところの楽しみである。

2009年01月04日

新年初めてのビッグ・イヴェント

 大晦日から元旦にかけて歌、格闘技、討論番組を見ながら、何か新年にパワー・アップできそうなものを、自分に注入したいと思った。そこで浮かんだのが恒例のプロレス・イヴェント。新日本プロレスリング主催の「レッスルキングダムIII in 東京ドーム」に行くことを急遽決意し、インターネット経由で無事チケットを事前入手できた。何しろドームは自宅至近の駅の隣ということで、後楽園エリアは子供の時から馴染み深い。プロレス鑑賞歴は小学生以来、40年近くになる。今回は新日のドーム興行20周年の節目ということで、ノア、全日本、TNAが参画。それが奏功して主催者発表の観客数は4万人だった。自分の目算でも近年の2万人程度に比べれば、かなり健闘していた印象で、それはやはり他団体のファンを動員したことが大きい。午後4:00開始の興行は、その前に第0試合が組まれ、主催者の意気込みを観客に伝える格好となった。開演前と言えば、30年前の新日本の興行では選手がリングで練習する風景が常であった。コンサートに置き換えれば、リハーサル風景を公開するようなものだが、当時「キング・オブ・スポーツ」を標榜した新日本にとっては舞台裏を披露することが、リアリティをファンに伝える重要な要素になっていたのだと思う。
 全10試合は想定外のサプライズが起こることもなく、テンポ良く進んだ。メイン・イヴェントのIWGPヘビー級選手権試合=武藤VS棚橋が、30分を超える長丁場の末、チャレンジャー棚橋の勝利に落着した時は、ちょうど午後8:00。4時間の興行はまさに予想通りの進行であった。ハプニング性こそ少なかったものの、ミスティコ(メキシコ)の驚異的なムーヴ、永田の防衛、ノア杉浦の底力など、生鑑賞だからこそ得られた感動が多数のイヴェントであった。

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2009年01月05日

大物ギタリストの越年ライヴ

 昨年20周年を迎えた「ブルーノート東京」は、これまでに数々のミュージシャンが出演し、大晦日のカウントダウン・ライヴが年末の人気定番企画となっている。今回は史上初めて、年末と年始がまたがる形でアーティストがブッキングされた。スケジュールが合い、偶然のタイミングで実現したのがパット・メセニー・グループである。PMGはコア・メンバー4人にトランペット、ヴォイス、パーカッション奏者が加わった形態を指すのが一般的だが、今回はカルテットでの来日。カルテットと言えば96年発表作をファンならすぐに想起するわけだが、同作と比べるとドラムスが現在のPMGメンバーであるアントニオ・サンチェスに交代した顔ぶれということになる。昨年は2003年のBNT収録ライヴ作『トウキョウ・デイ・トリップ』がリリースされており、このヴェニューとメセニーの親和性がファンの間に浸透した状況でのステージとなった。
 会場は補助椅子席を出し、2Fバルコニー席にも客入れした超満員。期待が高まる中、メンバーが登場し、始まった1曲目は「ハヴ・ユー・ハード」だった。『ウィ・リヴ・ヒア・ライヴ』と同じオープニング・ナンバーは、これまでのパットのグレーテスト・ヒッツ的な選曲で楽しませてくれることを予感させるに十分なものだった。今回、リハーサルで40曲を確認したとのことで、セットごとにプログラムは異なっていたという。どうやら今回の連続公演で最多の選曲になりそうな「ディス・イズ・ノット・アメリカ」や「トゥ・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」など、この至近距離で観ることができる興奮と幸せをかみ締めた。もう30年間もパットの音楽に魅了され続けてきた自分史が演奏に重なり、感慨もひとしお。メセニー・メルドーのリリース時に雑誌取材でインタビューもしているが、それでもいまだに一ファンの気持ちが変わらない。曲始めにギター・ソロをピックで弾いたところ、しっくり来ないと中断して指弾きにチェンジした場面は、クラブ・ライヴだからこそだろう。アンコールに応えたナンバーは「トラヴェルズ」。大満足の80分であった。

2009年01月08日

丸の内の初荷クラブ・ライヴ

 昨年数多くライヴを楽しませてもらったのが丸の内「Cotton Club」。今宵は同クラブで今年初めての出演者となるケニー・バロン・トリオを観た。数年前にバロンにインタビューする機会があり、「スイングジャーナル」で2ヶ月連続のディスコグラフィーをぼくが作ったことを紹介すると、その情報をバロンも知っていて、点と点が繋がる喜ばしい場面もあった。今回のトリオのベーシストでもある北川潔がリーダーになったバロン参加のトリオとそのホール・コンサートの実績もあり、会場には多くの観客が詰め掛けた。90年代初めのスタン・ゲッツとのデュオ作で名声を決定的なものにして以来、バロンはマスター・ピアニストとしての評価を揺ぎ無いものにしている。
 ステージはスタンダード曲「アイ・ヒア・ア・ラプソディ」で始まった。バロンの自作曲「ララバイ」「ニュー・サンバ」と進んだところで、これがアフター・アワーズ的な演者のリラクゼーションに基づいたものではなく、このヴェニューの意義を踏まえたパフォーマンスであることがわかった。スタンダード・バラード「ブルームーン」はシンプルなメロディーを持つオールド・ファッションドな曲調が特徴だが、そんな楽曲をバロンが選んだのは何故かの問いに対する答えは、演奏が進むにつれて徐々に明らかになった。軽やかに指が舞うピアノのアドリブ表現のための、格好の素材なのではないか。かつてインタビューした際に、やりがいのある名曲として「ナルディス」を挙げてくれたことが重なった。自作曲「ニューヨーク・アティテュード」ではバピッシュなテーマから、長時間のアドリブ・プレイで、ピアニストとして語りたい多くのことを一気に表現。思った以上に饒舌なバロンのプレイで、大きな満足感を与えてもらったのだった。

2009年01月13日

新年初めての観劇

 新春に松たか子が芝居を演じるのは、もはや定番化している。ファンである自分としては、今年が良い1年になることを祈念する意味でも、楽しみなステージだ。今回は野田秀樹演出作『パイパー』@シアターコクーン。野田芝居に関して、たかちゃんは『オイル』『贋作・罪と罰』の実績があり、コクーンは串田和美『ヴォヤージュ』を含めて、慣れているハコだと言えるだろう。ファン・クラブ先行予約で購入したチケットは、前から2列目。2時間・休憩なしの舞台は、野田らしい早口とジョークを交えた言葉遊びをちりばめたセリフまわしを楽しませてくれた。ほとんど出ずっぱりのたかちゃんにとっては、かなりの負担だったはずだが、それを感じさせない完璧な演技に唸った。姉妹がテーマという意味では前回の出演作『シスターズ』ともリンクするわけで、実生活でも2人姉妹のたかちゃんには、この仕事をこなす中で何か特別な思いがあったのかもしれない。姉役が宮沢りえという2枚看板は、予想通り強力だった。舞台女優として生き始めて久しい宮沢は、過去のTVドラマとはまるで違う発声で、姉役を見事に完遂。存在感に圧倒されたのは収穫だった。実年齢では4歳違いだが、プライヴェートでもたかちゃんと良い姉妹関係を続けてほしいと思った。先輩女優として、たかちゃんが宮沢から学んだ点は少なくないだろう。声の地金の強さにおいて、宮沢は女優陣で傑出していた。これまでに出演したどの作品とも異なる作風は、たかちゃんの新境地を示してくれた点で収穫大。火星を舞台に、非日常的な空間での人間模様を描く物語は、驚きの連続だった。橋爪功はさすがの存在感であった。

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2009年01月15日

フィンランドの人気バンドのリリース記念ライヴ

 2005年にデビュー作『チェイシン・ザ・ジャズ・ゴーン・バイ』をリリースするや大反響を巻き起こし、翌2006年2月の「ブルーノート東京」のワン・デイ公演は立ち見の盛況となったファイヴ・コーナーズ・クインテット。ヨーロピアン・ニュー・ジャズ?クラブ・ジャズの若手旗手に名乗りを上げた格好となり、ジャンル人気の底上げに多大な貢献を果たしたことは改めて評価されていい。今夜は東京ミッドタウンの「ビルボードライヴ東京」での再来日公演を観た。座席数はBNTと近い感じだが、造りの違いはFCQのメンバーにとっても新鮮だったに違いない。新作となる第2弾『ホット・コーナー』は前作の成功例要素を踏襲しながら、新味も盛り込んだ仕上がりだ。アルバムはヴォーカル、ヴィブラフォン、ストリングスを盛り込んだカラフルなプロダクションだが、ライヴはあくまでFCQのコア・メンバーだけのステージ。つまり彼らの地金で勝負し、魅力をアピールしようとのセッティングだ。ハードバピッシュ&ファンキーな2曲が終わったところで、ドラムスのテッポ・マキネンがアナウンスした。「ぼくたちは“フィンランドのジャズ・メッセンジャーズ”です」。とてもわかりやすいキャッチ・フレーズだが、しかしそれが彼らの音楽性のすべてを物語っているわけではない。つまりライヴではシンプルに60年代主流派へのトリビュートをメインにすることによって、ストレートなメッセージを伝えるとの企図である。300近い座席がほぼ満席になったことで、3年前と変わらない人気を保っていることを証明したFCQは、若い音楽ファンにジャズの魅力を伝えてくれた点で、再び大きな仕事を成し遂げてくれた。終演後には旧知のトランペッターであるユッカ・エスコラと、バック・ステージで談笑。

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2009年01月16日

恒例の年初ジャズ・パーティー

 第42回ジャズ・ディスク大賞が東京プリンスホテルで盛大に開催された。ぼくは選考委員をしているので、この会場で関係者に新年の挨拶ができる場としても重要な機会である。単なる挨拶や近況報告ばかりでなく、ビジネス・チャンスとして新しい企画が始まることも少なくない。世界的な経済危機は日本のジャズ業界も直撃している。受賞者スピーチでユニバーサル石坂氏が指摘した、文化としてのジャズの力を信じて、これからの活性化に貢献したいと再認識。例によって2次会の1FラウンジではEMIミュージックのみなさん、中平さん、大阪の藤岡さん、清水さん、NHK八島さんと談笑。

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 銀座へ移動して、懸案の映画を観る。映画鑑賞は平日の午後と決めており、今日は格好のタイミングとなった。有楽町マリオン9Fで『K-20』。NTV製作ということで、番宣番組は観ていた。ところが作品のテーマなどを重ねると、松たか子参加作ではあってもさほど大きな期待は寄せていなかった。テーマは恋愛ではなく、希代の大泥棒を主役としたリメイク・ストーリ?。過去のたかちゃん参加作とは明らかに異なるジャンルの映画。ところが画面が進むにつれて、印象が変わった。令嬢という役柄にぴたりとハマッたことに加えて、観る者に(特に女性に)親近感を抱かせるような演技がナイス過ぎる。プロット面では最期にどんでん返しがあり、さらに大どんでん返しが用意されている。巧みな特撮にも魅了された。予想を大きく超える感動に包まれた娯楽大作である。 

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2009年01月17日

新人女性ピアニストのインストア・ライヴ

 このところ関西から才能豊かなミュージシャンが登場していて、目が離せない状況が続いている。昨年12月にデビュー作『ローズバッド』をリリースしたばかりのピアニスト妹尾美里も、そんな1人だ。ぼくは同作のライナーノーツを執筆したこともあって、東京在住者としては、いち早く彼女の存在を知ることができた。今日はリリース記念のインストア・ライヴ@タワーレコード渋谷店ジャズ・フロアー。会場には100人近くの観客が集い、妹尾トリオのパフォーマンスが行われた。デビュー作収録曲ばかりでなく、その後に書いた新曲も披露してくれたのが収穫。本人にとっては手ごたえが予想できない状態での東京での演奏に、多くの人々が集まったことが最大の収穫だったに違いない。CD購入者限定ではなく、そこに来れば誰でも観ることができるというイヴェントは、40分間のラストまでほとんど全員の観客が聴き入り、妹尾の演奏に魅了されていたようだ。拙稿で「妹尾美里のピアノを初めて聴いた時に感じたのは、どのようなテンポや楽想のナンバーであっても、それらには一貫して“優美さ”が溢れていることだった」と記したことを、生演奏でも証明してくれたのが嬉しい。レコーディング・メンバーとは異なる田嶋真佐雄(b)+海老澤幸二(ds)との新トリオの、今後の成長にも期待が寄せられる。次の目標は東京での正式なデビュー・コンサートだ。

2009年01月20日

多忙なトロンボーン奏者のクラブ・ギグ

 村田陽一Hook Up@新宿ピットイン。昨年は自身が率いるソリッド・ブラスをビッグ・バンドに拡大し、ランディ・ブレッカーをフィーチャーした『トリビュート・トゥ・ブレッカー・ブラザーズ』をリリース。また12月にはデヴィッド・サンボーン&Y.M.ホーンズで、「ブルーノート東京」の観客を沸かせた村田は、ジャズ/フュージョンにとどまらず、ポップス畑でも活躍する多忙なトロンボニストだ。2ギター+3リズムのセクステットのHook Upは、ソリッド?を含めて普段の村田の活動に比べると、ワン・ホーンで思いっきりプレイできるアドバンテージがある。ファンにはそこが魅力となるパフォーマンスだ。初めて聴いたバンド・サウンドは、70年代からリアルタイムでフュージョンを聴いてきた者にとっては親近感が抱けるものだった。向井滋春、福村博の名前が浮かんだと同時に、ジャパニーズ・フュージョンの良き伝統を継承する小野塚晃のキーボードがバンドに最大級の貢献をしていることを体感。最近村田のマイ・ブームだというスティーヴィー・ワンダーのナンバーから「ロケット・ラヴ」をカヴァーした。スティーヴィー・ナンバーはジャズ・ミュージシャンにも人気だが、この曲は村田がMCで言ったように確かに珍しい。満席の会場を見渡して女性が多い客層に、ジャズの裾野の広がりを感じたのだった。すでにレコーディングを済ましたこのバンドのアルバムを、自主制作の形でリリースするという。そちらも楽しみだ。

2009年01月21日

ベテラン・ミュージシャンの新しいデュオ・チーム

 昨秋デュオ作『ナウアデイズ』をリリースした吉田美奈子&渡辺香津美を、「ビルボードライヴ東京」で観た。自分の音楽ファン歴を振り返れば、先に聴いたのは美奈子。ジャズ・ファンになる前は歌謡曲や洋楽ポップスを普通に聴いていた中で、“シティ・ミュージック”の山下達郎を知った流れで美奈子のファンになったのが、70年代半ば。『ベルズ』のオリジナル盤をリアルタイムで南青山パイドパイパーハウスで購入した、と言えば、根っからのファンであることがご理解いただけると思う。ぼくの渡辺初体験は、それから数年後の77年。ジャズを本格的に聴こうと決意し、近所の図書館にあったLPを片っ端から借りた中に、渡辺のアルバムがあって興味を抱いた。それから約30年間に両人のアルバムを聴き続け、ライヴも何度か観続けながら、このプロジェクトに接したのである。美奈子に対して個人的にはポンタ・ボックスを含めて、スタンダード・ナンバーのカヴァーでは持ち味を発揮できないと感じていたのだが、新作はそのマイナス・ポイントを払拭していたと思った。レコーディングのギター音源を再生しながらの架空トリオとなった「エリナー・リグビー」での、渡辺の生き生きとしたプレイがいい。同作のために練習して取り組んだホレス・シルヴァーのナンバーが、美奈子の世界を広げたことを、当夜でも実証してくれた。アルバム収録曲を披露した後、アンコールに応えて美奈子のレパートリーである「リバティ」を熱唱。長年の美奈子ファンには満足度が高い、終演後の余韻を感じた。

2009年01月24日

米国のビッグ・バンドが奇跡の来日

 チャールズ・トリヴァーの名前は、70年代にリアル・タイムでジャズを聴いていたファンにとっては今でも特別な響きがある。クロスオーヴァー/フュージョンが台頭し、それ以前のメインストリーム派がヨーロッパに新天地を求め、フリー・ジャズ系ミュージシャンがロフトへと移行した時代、トリヴァーは自主レーベルを立ち上げて、アメリカで自分の音楽を表現する姿勢を貫いた。現在率いるビッグ・バンドの2007年作『ウィズ・ラヴ』が高い評価を受け、同作が来日記念盤としてようやく国内リリースされた盛り上がりでのライヴ@東京TUC。会場は立錐の余地がないほどの盛況だ。個性豊かなメンバーが揃ったBBは、おそらくこの機会を逃したら2度と日本では観られないと誰もが思っていたのだろう。昨年から来日BB公演が顕著になり、このジャンルが盛況を呈していることが印象的な中、トリヴァーBBはアンサンブルの整合性に敢えてこだわらない姿勢によって、他のBBと差別化を図ったとも思えるようなサウンドを展開した。もちろんそのようなアンサンブルが醸し出す動物的なエネルギーにも圧倒された。さらに聴きどころとなったのは個人プレイ。「アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」ではこの曲の決定版を残しているジョン・コルトレーンを想起させるビリー・ハーパーのソロに感銘を受けた。フレディ・ハバードの遺作『オン・ザ・リアル・サイド』で音楽監督の役割を務めたデヴィッド・ワイス(tp)のシャープな吹奏も収穫。アンコールで登場すると、曲名を知らせずに「ラウンド・ミッドナイト」を演奏。終わったところで観客に曲名を尋ねた後、「みなさんは本物のジャズ・ファンです」とトリヴァーがアナウンスして、ハッピー・エンディングとなった。

2009年01月26日

日本を代表するサックス奏者に初取材

 渡辺貞夫はジャズのジャンルにとどまらず、広く一般的にも知られているミュージシャンだ。これまでほとんどのアルバムは聴いてきたし、コンサートは何度も生鑑賞している。しかし20年近いジャズ・ライター歴の中で、直接会ってインタビューする機会は一度もなかった。今日は青山のワーナーミュージック・ジャパン本社で、渡辺の初取材に臨んだ。1983?93年までのワーナー時代にリリースした、コンピレーションを含む14タイトルが、最新24bitデジタル・リマスターで再登場することに関連したインタビューである。同社は東京メトロ青山一丁目駅から地下で繋がっているビルの3Fにあり、雨に濡れず移動できる好立地。アーティスト・ルームに通されると、あのサダオ・スマイルで迎えてくれたのが嬉しい。四半世紀前のワーナー移籍作から、発表順に歴史を振り返ってもらった。海外でもアルバムがリリースされたこの時代は、アメリカの一流どころとのサウンド・プロダクションが定例化し、日本のナベサダから世界の“サダオ・ワタナベ”へと飛躍したキャリアの重要期だ。インタビューは公表できないような裏話を含め、和やかに進行。この仕事をしていて、いつかお会いしたかった旨をサダオさんに伝えた。取材の模様は「CDジャーナル」3月号に掲載されるのでお楽しみに。

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2009年01月29日

人気ピアニストが渋谷のジャズ・クラブに初出演

 西山瞳トリオ@JZ Brat。今回が同店への初出演ということで、「Mikrokosmos vol.1」のタイトルが冠せられた。その出演決定の経緯が興味深い。店員さんが着ていたTシャツが、西山出演のストックホルムJF2007のものだったことがきっかけで会話が生まれ、今回のステージに繋がったとのこと。人と人の縁はどこで転がっていくかわからないものだ。今夜のメンバーはぼくが前回のお茶の水NARUで観た佐藤“ハチ”恭彦(b)+前々回のNARU共演者だった小前賢吾(ds)。西山がこれまで演奏してきた都内のクラブに比べて、席数が多いハコではあったが、音楽に対する姿勢は変えていなかった。アルバム未収録曲も多数披露してくれたので、ファンには西山の最新形を知ることができて収穫大だったに違いない。自身の作曲作法に関する情報を開示し、アーティストとリスナーの距離を縮めたMCも、等身大の西山瞳であった。

2009年01月30日

若手黒人トランペッターが自己のバンドを初披露

 クリスチャン・スコットは期待の星の呼び声も高い、気鋭の新進トランペッター。今夜は「ブルーノート東京」でのクインテット公演を観た。昨年9月のマッコイ・タイナー@BNTを含めて、これまで2度ステージに接しているが、実力者であることはわかるが、まだ発展途上人だなと思っていた。その意味でも自身のバンドを率いる今夜のステージは、スコットの試金石となる。トランペット+キーボード+ギター+ベース+ドラムスのクインテットは、ワン・ホーンということでスコットの自己主張をストレートに発揮しながら、ギターの起用によって独自の色合いを施す効果を生むわけで、最新作『ライヴ・アット・ニューポート』の世界を踏襲しながら、クインテットの実力を判断できる機会となった。
 サックス奏者こそ不在なものの、スコットの演奏スタイルは60年代マイルス・デイヴィス・クインテットを想起させるもので、スコットの吹奏も『フォア&モア』あたりのマイルスとオーヴァーラップした。ファッション・モデルとしても活動しているからだろうか、BNTのいつもの客層とは違う若い人々も客席を占め、新しいジャズ・ミュージシャン像を示したのも、マクロ視点での収穫となった。

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