Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2008年09月アーカイブ

2008年09月04日

みちのくジャズの旅

 一般誌の依頼を受けて、3泊4日で東北5県のジャズ・スポットの取材旅行に行ってきた。ぼくにとってこのような旅は初めての経験。お店探訪もさることながら、地方でジャズ喫茶を経営するオーナーたちとの出会いも楽しみだった。山形「OCTET」「らぐたいむ」、岩手「ベイシー」「ダンテ」、青森「jazz time DISK」、秋田「RONDO」、宮城・仙台「KELLY」と、いずれも長年営業してきたオーナーの個性を反映したお店ばかり。うち3軒は「DUG」の中平氏と訪れ、氏がオーナーと旧交を温めるシーンの連続となった。レコード販売店としての実績も凄い「DISK」の鳴海氏、酒蔵を改造した音響が素晴らしい「RONDO」の那珂氏、名店であることを改めて体感させてくれた「ベイシー」の菅原氏、古き良きジャズ喫茶の伝統を守りながら新譜の紹介にも力を入れる「OCTET」の相澤氏、深夜営業のジャズ・バーとして地元に貢献する「KELLY」の松田氏、こだわりのジャズ観が多くのファンを惹き付ける「ダンテ」の高橋氏。個性的であるばかりでなく、人情味に溢れる共通点も発見だった。東北ジャズ・シーンの現況をリアルに体験できたのが、何よりの収穫である。牛タン、冷麺など、土地土地のグルメも楽しめた。今回は駅?ホテル?取材地の移動に終始したので、今度はゆっくりと街歩きをしてみたいと思っている。この取材は9/27発売の『男の隠れ家』11月号に掲載されます。

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2008年09月05日

最注目ドラマーが自身のバンドで待望の来日

 ブライアン・ブレイドはこれまでウエイン・ショーターや北川潔のグループで来日を重ね、そのたびに新世代実力派ドラマーであることを印象付けてきた。今回は10年前から活動を始め、先ごろ第3弾『シーズン・オブ・チェンジズ』をリリースした“フェロウシップ・バンド”を率いての初めての来日だ。とにかく引っ張りだこの人気ドラマーだけに、自己のバンド活動は本国でも断続的だった。この貴重なパフォーマンスを有楽町“Cotton Club”で観た。全員がステージに揃ったところで、ブレイドが挨拶。メンバー紹介を先に済ませてから演奏を始める。曲間のMCを含めて、結局最後までアナウンス無しで演奏に集中したのは、良い方法だと思った。
 2サックス+リズムのクインテットによる演奏は、今のNYの空気をそのまま東京に運んでくれたかのような趣。マイロン・ウォルデン(sax)の実力者ぶりを確認できたのが収穫。ブレイドは要所要所で力強いビートを送り込んでバンドを鼓舞する。あんなにスリムな身体から、あれほどのパワーが発せられるのが驚き。手首の強さが人並み外れているのだろう。アンコールなしの1時間20分のステージに、すでに多くのフォロワーを生んでいるブレイドの高い音楽性を体感した。

2008年09月06日

話題の若手女性ベーシストが初来日

 通算2枚目でメジャー・レーベル移籍第1弾となった『エスペランサ』をリリースしたエスペランサ・スポルディングを、“ビルボードライヴ東京”で観た。スペインのレーベルからリリースされた前作で、ぼくが好きなエグベルト・ジスモンチのナンバーをカヴァーしていたこともあって、個人的に注目していたベーシスト。その後あれよあれよという間に評価を高め、現在は自ら学んだバークリー音楽大学でベース学科の教員を務めるほどの実力者に成長している。今夜は最新作のレコーディング・メンバーでもあるレオ・ジェノヴェーゼ(p)+オーティス・ブラウン(ds)とのトリオによるステージとなった。アップライト・ベースを構えながら歌う姿は、女性の同業者がほとんどいないだけに新鮮に映った。
 ぼくはエスペランサに対してベーシストというイメージを抱いていたのだが、このステージではベーシストとヴォーカリストが本人の中では同等であることが明らかに。ベーシストとしてのスキルは事前情報があったとして、専業でも十分にイケるほどの声域の広い歌唱力には本当に驚いた。正式タイトルが未定の新曲も披露。親しみやすいキャラクターを含めて、今後日本で人気が拡大すること間違いなしと確信したステージであった。

2008年09月08日

若手トランペッターを起用した巨匠のクラブ・ライヴ

 マッコイ・タイナー+1@ブルーノート東京。同店ではトリオやビッグ・バンド(タップ・ダンサー=セイビアン・グローバーのパフォーマンスも素晴らしかった)でマッコイを観ているが、今回は若手のクリスチャン・スコットをフィーチャーした企画だ。マッコイのレコーディング・キャリアを振り返ると、このような形で若手を育てることを前面に出したことはほとんどなかっただけに、珍しさと共に会場へ足を運んだ。「ブルース・オン・ザ・コーナー」「モーメンツ・ノーティス」とお馴染みのレパートリーをプレイ。たびたびマッコイのもとに寄って指示を受けるスコットに、書生的なたたずまいも感じられて好ましく思った。ただしトランペッターとしてはまだ発展途上人である。
 「フライ・ウイズ・ザ・ウインド」を含め、打点の高いマッコイのピアノ・プレイにはマンネリズムを超えた一芸確立者のオリジナリティを強く感じた。終演後、スコットに挨拶。ファッションにもこだわりがあるということで、若い音楽ファンをジャズに引き込む牽引役に期待したいものである。

2008年09月09日

アジアン・ビューティーに初取材

 ジャズに関してはまだまだ発展途上にある中国は重慶出身のヴォーカリスト=ベイ・シューは、ニューヨークでOLをしながら歌手活動を続けてきたアジアン・ビューティー。第4弾となる新作『ユー・アー・ソ?・ビューティフル』の話を聞くために、ユニバーサル本社を訪れた。ベイに関しては取材した人やライヴを観た人から情報を得ていたが、自分がアーティストであることを前面に押し出すのではなく、むしろ自然体を崩さないあたりに、彼女の生き方を感じた。少女時代は母国の公的な楽曲を歌っていたのが、渡米後にジャズと出会って、趣味の域からプロフェッショナルへと進化したキャリアも、ハングリーさとは異なるベイの柔らかいスタンスが一貫している。現在は上海に拠点を移しており、新作と共にキャリアの第2章がスタートしたと言っていい。この取材は10月下旬発売の『男の隠れ家』12月号に掲載されます。

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2008年09月10日

還暦シンガーの武道館コンサート

 小田和正@日本武道館。オフコースで活動していた70年代は、軟弱な音楽性ゆえにあまり好きではなかった。解散後、『東京ラブストーリー』の主題歌をきっかけに、気になる男性シンガーとなった。広告代理店を舞台にした堤+深津+坂口のフジテレビ・ドラマに使用された「キラキラ」でクローズアップ。近年、年末にTBS系で放映される小田主演の音楽番組「クリスマスの約束」が、出演者を含めてぼく好みというのが再評価のダメ押しとなった。レコーディングでコラボレートしている松たか子との繋がりも、もちろんぼくにとっては大きな要素である。たかちゃんのゲスト出演を期待していたというわけではないが、今夜はiPodのお気に入りでもある小田のコンサートを初体験。休憩を挟まないがうまくブレイク・タイムを作った約3時間はボリュームたっぷり。小田が会場内を走るのは定番だが、それにしても精力的にファンを楽しませようというエンタテインメント性には、年齢を踏まえればなおさら感服した。アンコールでは次のシングル曲のための収録が急遽企画。すでにフジTVの早朝番組「めざましテレビ」のテーマ曲として使用されている「今日も どこかで」の観客合唱ヴァージョンが実現した。意外に男性客が多かったのも発見であった。

2008年09月17日

ジャズ・トランペット界の性格俳優がクラブ出演

 トム・ハレル@有楽町Cotton Club。大学時代に神経衰弱を患って以来、肉体的なハンディキャップを負いながら、第一線で活躍してきたのは、トランペッターとしての優れたスキルばかりでなく、人間として同じジャズメンを惹き付ける何かを持っているからだと想像できる。今夜のクインテットのメンバーは、ハレルを除く全員が黒人。敢えてそうした人選なのか、たまたまそうなったのかはわからないが、少なくともハレルが新世代ニュ?ヨーカーに目配りをして自己の音楽を作っていることは間違いない。モーダルなオープニング・ナンバーや60年代マイルス・デイヴィス・クインテットを想起させるナンバーは、ハレルがモダン・ジャズの伝統にも目配りをしている証と聴いた。
 ハレルは終始、直立不動で、出番のない時間はうつむいていたが、ひとたびトランペットを吹き始めると別人のようにミュージシャン・モードにチェンジするのが凄い。ベースとのデュオで演じた「ボディ&ソウル」では、フリューゲルホーンを使用し、バラード・アーティストリーの真髄を聴かせてくれた。アンコールでは「ライク・サムワン・イン・ラヴ」を演奏。ハレルのマナーを遵守したバンド・メンバーも好ましく感じたステージであった。

2008年09月18日

元ヤング・ライオンが自己のビッグ・バンドを率いて

 近年はソウル・プロジェクト“RHファクター”も率いているロイ・ハーグローヴ。90年代に頭角を現した若手トランペッターも、すでに30代末ということで、年月が経つのは早いものだと実感する。今夜は「ブルーノート東京」でハーグローヴ率いるビッグ・バンドのステージを観た。約10年前からこのジャンルにも参入しているハーグローヴは、自身の音楽表現のアウトプットとしてこの大編成を維持してきた印象もある。それ自体が経済的な困難を伴うことを考えると、ハーグローヴのたゆまぬ志は評価したくなる。ダレン・バレット(tp)、ジャスティン・ロビンソン、ブルース・ウイリアムス(sax)といった新世代を擁したバンドは、特に目新しい音楽性を発揮するわけでもない。ハーグローヴはバンドをバックに気持ちよさそうにソロをとる。そんな光景を観ているうちにわかった。ハーグローヴはこのBBを、趣味性の高いプロジェクトと位置づけているのだなと。BBの楽しさを世に広めるという大きなテーマを踏まえれば、このプロジェクトの意義が浮き彫りになろうというもの。1時間半にも及ぶ演奏に、ハーグローヴのバンド運営のポリシーを知り、嬉しく思った。

2008年09月22日

東京コンフラックス2008

 都内3会場、5日間連続で開催されたイヴェント。欧米から超世代の即興演奏家が集結し、様々な組み合わせでステージを務める。今夜は新宿ピットインでザ・シング+ケン・ヴァンダーマークを観た。マッツ・グスタフソン(reeds)+インゲブリグト・ホーケル・フラーテン(b)+ポール・ニルセン・ラヴ(ds)のザ・シングは、昨年の来日公演で北欧フリー・ジャズの勢いを強烈に印象付けた実績がある。最新作『Immediate Sound』(Smalltown Superjazz)でお披露目済のシカゴの武闘派テナー=ヴァンダーマークが加わったカルテットがブッキングされた。
 セカンド・セットから入店すると、ステージには5人のミュージシャンが登場。本イヴェントの最終日に出演予定のペーター・ブロッツマン(reeds)がそこにいたのだ。1曲目からいつものように全力疾走のプレイを繰り広げる様は、スペシャル・ゲストというよりもレギュラー・メンバーと呼ぶのがしっくりくるほど。ブロッツマンにとっては子供と同じ年齢のミュージシャンと、何の違和感もなく演奏できるのは国境を超えた共通言語があるからだと改めて認識させられた。バークリー音楽大学関連とは別の人脈で、欧米のミュージシャンが密接な関係を築いていることも頼もしく感じたのだった。

2008年09月23日

「ニューヨークのため息」のラスト・コンサート

 長い間活躍しているミュージシャンには、これ1枚で一生ファンを引き付けられるというくらいの決定的代表作を持っている者が多い。その意味でクリフォード・ブラウンとの共演作を残したヘレン・メリルは、日本で絶大な人気を誇るこのジャンルのトップ・ヴォーカリストと言えるだろう。60年代には日本に居住し、アルバムを残しているメリルは、毎年のように来日公演を行って、ファンに健在ぶりを示してきた。今夜は「さよならコンサート」と題したコンサートを、五反田ゆうぽうとで観た。メリルがさよならとは。引退するということなのだろうか。誰もが思ったに違いない疑問を抱えながら、会場へ向かう。
 ファースト・セットはスコット・ハミルトン(ts)+ウォーレン・ヴァシェ(cor)+テッド・ローゼンタール(p)+スティーヴ・ラスピナ(b)+テリー・クラーク(ds)によるインスト。トリオ、カルテット、クインテットと曲によって編成を変えながら進行した。ヴォーカリストのライヴの場合、バンドが1,2曲演奏した後に主役が登場するのが通例なのだが、結局メリルは姿を現さなかった。セカンド・セットに時間的にも厚みを置く構成なのか。ようやく登場したメリルは「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」「ユード・ビー・ソー・ナイス」「アントニオの歌」等、お馴染みのレパートリーを披露。アンコールでは当たり曲「ス・ワンダフル」でファンのニーズに応えてくれた。ここまでメリルの出番は1時間足らず。「さよなら」と冠したコンサートにしてはあっさりしていたのは何故なのか。1929年生まれのメリルは来年80歳という節目の年を迎える。もう何も思い残すことのない音楽家人生だったということなのだと思った。

2008年09月29日

老舗ユニットが待望の初来日

 オレゴン@ビルボード・ライヴ東京。70年代半ばに初めて聴いて以来、約30年間このユニットのファンであり続けている。ところが不思議なことに、オレゴンが来日公演を行う機会はこれまでなかった。去る5月にノルウェーのジャズ・フェスティヴァル“MaiJazz”に招待された時、たまたまブッキングされていたので、ステージを観ることができた。ぼくにとっての初体験となったオレゴンのパフォーマンスは、数多くの作品を通じて認識していた印象に比べて、いい意味で違う部分もあった。その一番の理由は故コリン・ウォルコットに代わって加入したドラムス&パーカッション=マイク・ウォーカーの存在による。管楽器担当者が1人抜け、打楽器専任のミュージシャンが加わったことは、バンド・サウンドに大きな変化をもたらした。
 今夜は思いがけない形で実現したオレゴンの初来日公演である。MCを務めたポール・マッキャンドレスは「結成38年にしてようやく実現した」と言っていたが、会場に集ったファンにも万感の思いは同じだったに違いない。2つのデュオ・ナンバーを盛り込んだプログラムは、オレゴンの名曲選ではなく最新作を中心としたものだった。初来日を勘案するのではなく、現在の等身大のオレゴンを示してくれたのは、それはそれとしてファンには嬉しい。ラルフ・タウナーがキーボードを、ウォーカーがエレクトリック・パーカッションを使用し、アップ・トゥ・デイトな音作りを見せてくれたのも収穫。終演後、マッキャンドレスに話を聞いた。初来日まで何故こんなに長く時間がかかってしまったのか。「誰もぼくたちを呼んでくれなかったんだよ」。

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