Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2009年02月アーカイブ

2009年02月02日

オールスター・バンドが遂に来日

 チック・コリアとジョン・マクラフリン。エレクトリック・マイルスの記念碑となった『ビッチェズ・ブリュー』で共演するも、その後別々の道を歩み、70年代にはクロスオーヴァー/フュージョンのトップ・ランナーとなったビッグ・ネームが、マイルス盤から約40年を経たタイミングでダブル・リーダー・バンドを組織して、昨年はヨーロッパ・ツアーを行った。噂のオールスターズが昨秋の欧州ライヴ2枚組『ファイヴ・ピース・バンド』のリリースと同じタイミングで、「ブルーノート東京」に出演した。レコーデインング上ではマクラフリンの『エレクトリック・ギタリスト』(78年)で1曲共演したのが最期。ライヴでは主にデュオで何度か共演しているというが、いずれにしても2人のコラボレーションはジャズ界でまず実現しない案件だと多くが認識していた。
 今回はレコーディング・ドラマーのヴィニー・カリウタが、ジェフ・ベック・グループでの来日公演と重なったこともあり、ブライアン・ブレイドが加入。結果的にはブレイドがバンド・サウンドのキー・パーソンを演じる格好となった。大御所となったチック&マクラフリンは一体どのようにかみ合うのか、合わないのか。1時間25分のステージは意外なことに、チックが敢えてでしゃばらず一歩引いた姿勢でマクラフリンを立てたことが、バンドに和やかなムードをもたらした。唯一アルバム未収録の新曲「スピリット・ライズ」は作曲者のチックらしい、キーボード&ギター・ユニゾンのテーマからコルトレーン・ライクな曲調へと展開。チックと縁がなさそうなコルトレーンとの親和性は、マクラフリンを意識した作曲書法なのだなと感じた。そしてブレイドの演奏ぶりだが、事前にカリウタ参加2CDを聴いていただけに、違いが際立ち、これはおそらく2度と観ることができないパフォーマンスだと体感。アンコールの「イン・ア・サイレント・ウェイ~イッツ・アバウト・ザッツ・タイム」に、チック&マクラフリンの大河ドラマにも似たドラマチックなキャリアが重なったのであった。

2009年02月21日

オランダから来日した双頭ユニット

 昨年末に本邦デビュー作『マリガン・ムード』をリリースしたヤン・メヌー&ジェシ・ヴァン・ルーラーが、レコーディング・メンバーのカルテットで来日。丸の内「Cotton Club」でのステージを観た。メヌーは昨年日本に紹介されたジャズ・オーケストラ・オブ・ザ・コンセルトヘボウのアルバムに参加しているバリトンサックス奏者。ジェシはすでに何枚ものリーダー作でお馴染みのギタリストだ。同作はモダン・ジャズにおけるバリトンの巨匠ジェリー・マリガンのレパートリーをカヴァーしたトリビュート・アルバム。このような企画作がアメリカではなくヨーロッパのミュージシャンから生まれたことが興味深い。
 50年代のマリガンはチェット・ベイカー(tp)とのピアノレス・コンボで西海岸ジャズ隆盛の中心的な役割を担ったことで知られるが、バリトン&ギターは60年代に率いたバンドと重なる。人数はマリガン・バンドの方が多く、メヌー&ジェシ・カルテットは50?60年代のマリガン・グループのエッセンスを最少人員で体現したユニットと考えられよう。40代後半以上の世代には特別な思いがあるマリガン盤『ナイト・ライツ』のタイトル曲を演奏するメヌー&ジェシに、マリガン&ジム・ホールがオーヴァーラップした。60年代生まれのオランダ人ジャズメンが「バーニーズ・チューン」「ウォーキン・シューズ」を演奏する姿に、西海岸ジャズの良き伝統が継承される大河の流れを感じた。折り目正しいステージ・マナーにも好感。

2009年02月24日

本邦初登場のソウル・ブラザーズ

 昨年4月以来となるコーネル・デュプリー@ビルボードライヴ東京。今回は「コーネル・デュプリー with ジェームス・ギャドソン」のクレジットによる初めてのステージだ。ギャドソンは70年代のモータウン・サウンドを支えたドラマーで、誰もが知る数々の名曲に参加しているベテラン。デュプリーとの活動歴はほとんど重なっていないが、ソウルフルな歌心を持つ職人肌の黒人ミュージシャンという共通点がある。フュージョン畑のトップ・ギタリストとして長く活躍するデュプリーと、ソウル/ファンクのグルーヴ・マスターであるギャドソンの共演は、両者のファンが同じクラブに集う形となった。ステージはエリントン・ナンバーの「昔はよかったね」でスタート。ビル・ウィザースのヒット曲「ユーズ・ミー」ではヴォーカリストとしての優れた魅力も発揮し、現役感も満点。
 デュプリーはスタッフ時代の盟友リチャード・ティーに捧げて作曲した「ティー」を披露し、70年代からリアルタイムで聴いてきたファンには、思わぬプレゼントとなった。前回は酸素吸入器を装着した姿がちょっと痛々しかった、との情報も得ていたので驚きはなかったが、今夜はまったく言葉を発さず、その分ギャドソンがMC役も買って出たことで存在感を示す格好に。紅一点のメリー・ディーン(vo)が、アニタ・ベイカー曲「ギヴィング・ユー・ザ・ベスト」やソウル・クラシック「アンティル・ユー・カム・バック・トゥ・ミー」を熱唱し、無名ながら実力を示したのも収穫であった。

2009年02月26日

NYのSSWが丸の内のクラブに初登場

 ここ数年、欧米で新人ジャズ・ヴォーカリストが続々とシーンに登場する傾向が顕著になっている。新人とは言えないが、先頃本邦デビュー作『実りゆく季節』をリリースしたレベッカ・マーティンも、そのような日本でのニュー・フェイスに位置づけられよう。レベッカ(vo,g)、カート・ローゼンウィンケル(g)、ラリー・グレナディア(b)、ブライアン・ブレイド(ds)のレコーディング・メンバーのうち、ドラムスがダン・リーザーに代わった4人編成で「Cotton Club」に出演した。これまでのアルバムを振り返ると自作曲を中心としており、今世紀に入って大きな流れが生まれたポップス/フォークの要素を吸収したシンガー・ソングライターということになる。グレナディアがプライヴェートでのパートナーということも手伝って、NYサブ・メインストリーム派との人脈を築いている印象もあり、そのあたりのイメージと実像を確認する好機とも考えていた。
 アコースティック・ギターを奏でながら歌うプログラムは、自作曲を主体としたもの。次々と楽曲が進むにしたがって、普段着姿のレベッカにNY直送と言うよりも彼女が生まれ育ったメイン州ポートランド時代の姿が想像上で重なった。言い換えれば“カントリー・ガール”のイメージだ。「ラッシュ・ライフ」「バット・ノット・フォー・ミー」といったスタンダード・ナンバーも取り上げて、構成のフックになったのが収穫。ローゼンウィンケルとグレナディアがサポート役に徹したことに、レベッカへの愛を聴いた。

2009年02月27日

日本が誇るビッグ・バンドのリリ?ス・ライヴ

 1月に3枚目のオーケストラ新作『グルーヴィン・フォーワード』をリリースした守屋純子のリサイタルを、新橋「ヤクルトホール」で観た。ぼくが所属しているミュージック・ペンクラブ・ジャパン制定賞を守屋が受賞したこともあって、応援している邦人アーティストだ。セロニアス・モンク・コンペティション作曲賞の栄誉を獲得したのは、日本人関係者にとっての誇らしい朗報だった。2部構成のコンサートは、第1部は過去作の収録曲等で構成。MPC賞受賞作からの「ハイウェイ」を皮切りに、エリック宮城のフリューゲルホーンをフィーチャーした「レイト・サマー」や、作曲家として敬愛するチャールズ・ミンガスに捧げた「ア・タッチ・オブ・ミンガス」と進行。NYから久々に帰国した岡崎好朗(tp)のフィーチャリング・ナンバー「ウエルカム・ホーム」は新味となった。
 衣装を変えた第2部ではアルバム収録順に3曲を演奏。バッハ「平均律」的なギア・チェンジのピアノ独奏を挟んだメドレーは、ハイライトとなった。守屋が意識して作曲したのかはわからないが、「グルーヴィン・フォーワード」に秋吉敏子の作曲書法を感じるのはぼくだけではないと思う。アンコールで登場した守屋は、米西海岸の老人ホームを訪れた時にリクエストされて披露したという古謡「ふるさと」を演奏。短いトラックながら味わい深く、トランペット、トロンボーン、サックスの各セクションを生かしたアレンジが光った。

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