Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。

ピアニスト2人のダブルビル・コンサート

2009年06月30日

 VIJFでの取材は今日が最終日。それにふさわしく、ぼくが贔屓にしている2人のピアニストが登場するホール・コンサートに出かけた。会場は一昨日のザ・モンタレー・カルテットで感動に包まれたザ・センターだ。この会場ではまずVIJFのプロモ映像が流され、それに続いて司会者がアーティストを紹介する。今日のMCは今回のバンクーバー滞在中、たいへんお世話になっている事務局のメディア・ディレクター、ジョン・オリシク氏だった。昨日までに出演したソニー・ロリンズやザ・モンタレー・カルテットに触れながら、観客の気分を巧みに盛り上げる。最初のステージを務めたのはフレッド・ハーシュ・トリオ。一昨年、10数年ぶりに来日公演が実現し、長年のファンとしてはとても嬉しく思ったのだが、その時はソロ・コンサートだったので、いずれトリオかグループのライヴを体験したいと思っていた。今回は願ったり叶ったりのプログラムである。1曲目はケニー・ホイーラーに捧げた「ア・ラーク」。「みんなケニー・ホイーラーが好きですよね」と曲紹介をしたハーシュは、特定のミュージシャンに自作の捧げものをすることを好む。2曲目はウエイン・ショーターへのデディケーションで「スティル・ヒア」。ホイーラー、ショーター共にジャズ・ミュージシャンの間でカヴァー率が高まっている作曲家であり、そんな2人に対してカヴァー曲ではなくオリジナルで謝意を示したのが素晴らしい。ウィンストン・チャーチルにインスパイアされて書いた「ブラック・ドッグ・ペイズ・ア・ヴィジット」では、ハーシュお気に入りの作曲家であるオーネット・コールマンの「ロンリー・ウーマン」と、ビル・エヴァンスの「ナルディス」を引用。逆に「サム・アザー・タイム」ではエヴァンスの名演で知られるレナード・バーンスタイン作曲ではなく、同名のカーン=スタイン曲を取り上げて、美旋律をハーシュ流に披露してくれた。1曲終わるごとに、丁寧に頭を下げるハーシュは、2年前に東京で観た時と同じだった。その謙虚な姿勢は、自身がハンディキャップを抱えている現実を踏まえた、感謝の気持ちの表れなのだろう。感動的なパフォーマンスに、こちらこそ感謝したいと思った。
 休憩をはさんだ第2部はケニー・ワーナー5。ワーナーは今年、アレックス・リール3で東京公演を行っているが、今夜は自身がリーダーのセット。日本での実現性が薄い点で、これもお宝になりそうなステージだ。メンバーはワーナー(p)、ランディ・ブレッカー(tp)、ダヴィッド・サンチェス(ts)、スコット・コリー(b)、アントニオ・サンチェス(ds)。全員リーダー作をリリースしている著名人だが、ワーナーがどのような関係でこのバンドを結成したのかがわからないまま、ステージに臨んだ。試運転的な1曲目に続く2曲目「ザ・サーティーンス・デイ」で、バンドは急速にまとまりを見せた。全員がスコアを見ながらの演奏だったのは、ワーキング・バンドではないばかりでなく、ワーナーの複雑な書法に起因したのだろう。編成と選曲から、このグループが2007年作『ローン・チェアー・ソサエティ』を踏まえたものだとわかったが、同作のフロントがデイヴ・ダグラス&クリス・ポッターであると知れば、今回のメンバーのユニークさが浮き彫りになる。90年の同名作収録曲を『ローン?』でセルフ・カヴァーした「アンカヴァード・ハート」は、中間部のトリオ演奏を経て、再び2ホーンズが加わったエンド・テーマに感動の波が押し寄せた。映画『ハリー・ポッター』収録曲のカヴァーで本編を終えた後、ワーナー1人が再登場。「すべての音楽家の中で最も好きなのがジョニ・ミッチェル」と述べて、「アイ・ハッド・ア・キング」をピアノ独奏。バンクーバーへのお世辞ではなく、ワーナーのデディケーションが感じられ、心地よい余韻を残してくれた。

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