Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。

JazzNorway In A Nutshell 2009 初日

2009年05月21日

 今日は祭日ということで、オスロの多くのショップは休業。出発までの時間をどう過ごそうかと思っていたところ、昨夜会食した「バーレ・ジャズ」のボディル&トムが、ぼくのためだけに、1時間店を開けてくれると言ってくれた。有難いことである。市内を散策した後に向かった。昨年は2Fのイヴェント・スペースで行われていた「オスロ・ジャズ・サークル」の例会を見学させてもらい、ディスコグラファーのヤン・イヴェンスモ氏と交流したことを思い出す。貸切状態の店内では、新作を中心にボディルお勧めのCDを紹介してもらって購入。この店はいつ来ても洗練されていて、オスロの中心的なジャズ・スポットであるのも当然だと感じる。
 オスロ空港から50分でベルゲンに到着。フェスティヴァル関係者にピックアップされて、ホテルへ。昨年の5月に招待された時と同じ名称の「JazzNorway In A Nutshell」は、各国からジャズ関係者(フェスティヴァル・マネージャー、ジャーナリスト、写真家)を招いて、ノルウェーのジャズをさらに知ってもらおうとの趣旨で開催されるもの。今年は同国の主要ジャズ祭の1つである「Nattjazz」の開催期間に合わせた形で、40名超のゲストが参加した。19:00過ぎにウエルカム・パーティの会場に入ると、すでに大勢の関係者が集まっている。まずサックス奏者Kjetil Mosterのソロ・パフォーマンスを鑑賞。エフェクターを使用した演奏は1人サックス・アンサンブルと呼ぶべきノイジーなサウンドを展開。ベルゲンでの幕開けには強烈過ぎるステージだった。Natjazzは20日から30日まで11日間にわたって開かれ、我々ゲストは今日から3日間の取材である。連日21:00から深夜にかけて同じ敷地内にある4か所の会場で、複数のステージが同時進行するスタイルだ。「Nattjazz (=Night jazz)」と呼ばれる所以である。
 最初のステージはアルヴェ・ヘンリクセン。昨年末にECMから初めてリリースしたリーダー作『カートグラフィー』の参加メンバーでもあるアイヴィン・オールセット(g)+ヤン・バング(live sampling)からなるトリオは、ノルウェーが生んだフューチャー・ジャズ以降の新しいスタイルを代表する担い手たち。アルヴェは数回来日しているが、現地で観るのはやはり趣が異なる。トランペットのマウスピースを外して直接吹いたり、逆に息を吹き込まずにピストンを押して摩擦音を出したりと、アルヴェ独特の奏法でオリジナルな世界を醸し出す。フルートや尺八を思わせる音は、北欧人ならではのアイデアによって、この楽器から新しい表情を引き出したものであり、仲間2人との電気サウンドとの親和性が深い。バングがリズム・セクションの役どころを担っていたと考えれば、極めて現代的なユニットと言えよう。
 次に会場を移動して、テリエ・リピダル&ベルゲン・ビッグ・バンド。今回の取材で最も楽しみにしていたプログラムだ。ECM初期からのレコーディング・アーティストでもあるノルウェーのトップ・ギタリストを、今まで観たことがなかった。大物なのに来日の実現性が薄い、という典型的なヨーロピアン・アーティストゆえに、現地に乗り込むしかない。BBBはカーリン・クローグとの共演作などで、近年その実力が知られてきた存在。これまで様々な編成によるアルバムをリリースしてきたが、リピダル初体験が大編成とは、日本では絶対に実現不可能という意味で本当に幸運だと思った。アルバム『スカイワーズ』の参加者パレ・ミッケルボルグ(tp)をフィーチャーしたサウンドは、実に壮大な楽想で構築されていることが、次第に明らかになった。スライドバーやアームを効果的に使用し、他の誰でもないギター音を生みだすリピダルは、時にロック調のヘヴィーなプレイでバンドを強力に牽引。マイルス・デイヴィスを想起させるミッケルボルグが、定位置の舞台右手から徐々に中央へ寄り、リピダルとの2ショット状態になったところでクライマックスを現出し、このステージ最大のカタルシスを呼び起こした。
 終演後、急いで次の会場へ向かう。ジェリ・アレンズ・タイム・ライン・グループ。アレン・トリオにタップダンサーが加わった編成である。数年前にアレンにインタビューした時、このプロジェクトの話が出て、ヨーロッパではしばしばパフォーマンスを行っていることは知っていた。デビュー時からのファンとしては、これも今回の個人的なお目当て。会場に入ると、ちょうど「ソウル・アイズ」を演奏しているところだった。その後「悲しい噂」「ティアーズ・オブ・ザ・クラウン」と、モータウン・ナンバーを選曲。アレンはピアノとキーボードの両刀使いで存分に力を発揮した。タップのモーリス・チェスナットはなかなかのテクニシャンで、観客からの反響も大きい。曲のテーマとシンクロして、キメの場面を作るなど、単にトリオにダンスをフィーチャーしたのではなく、パーカッション奏者の役割も兼ねた存在感を輝かせた点は特筆したい。終演時刻は午前1:00近くになっていた。

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