Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
イタリアの新鋭女性ヴォーカリスト
2008年07月23日
アリーチェ・リチャルディは先頃デビュー作『カムズ・ラヴ』をリリースした1975年生まれ。音楽院でジャズ・ヴォーカルを修め、20代の多くを教育活動に注いだこともあって、この遅咲きのデビュー作になったようだ。今夜は丸の内「Cotton Club」での初来日公演を観た。同作はトランペット、サックス等のゲストが参加していたが、来日バンドはレコーディング・メンバーを含むピアノ・トリオ。ぼくは「スイングジャーナル」のディスクレビューに、以下のような文章を寄稿した。「よく知られたスタンダード・ナンバーを揃えたプログラムは一見、定石風。しかし聴き進めるにつれて、アリーチェがこれまでに歌い込みながら自分のものにした、魅力を輝かせる最適なレパートリーが選ばれたのだなと納得できる。その歌いぶりで強く感じるのは、テンポを問わず安定した唱法で表現できる自己のスタイルを確立していること。アルバム・カバーは若手美形シンガーをイメージさせるが、いやどうして紛れもない本格派である」。
実際に観たアリーチェは落ち着いたステージ・マナーで、このゴージャスなクラブに相応しいパフォーマンスを披露してくれた。彼女の歌唱を聴いているうちにカーメン・マクレエが浮き彫りになったのだが、それは自ら影響を受けていることを表明したことを実証した形となった。アルバムで興趣に富むアレンジを手がけたロベルト・タレンツィが、歌伴奏の域を超えた個性的なピアニストであることを知ったのも収穫。