Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
人気女性ピアニストの新たな展開
2008年02月21日
日本のレコード会社による原盤制作を含むリーダー作を通じて、多くのファンを獲得しているイリアーヌ。彼女はぼくと同年ということもあり、デビュー時からウォッチしてきたアーティストだ。今夜は1年8ヶ月ぶりの出演となる「ブルーノート東京」でのステージを観た。最新作『サムシング・フォー・ビル・エヴァンス』と同じトリオ編成で、同作と同様にエヴァンスゆかりのナンバーを持ち込んだプログラムとなった。世代的にはエヴァンスの影響下にあって不思議でないイリアーヌだが、ブラジル出身者というルーツとヴォーカリスト兼業の音楽性が、独自のポジションを築いてきた。そんなわけで今回、イリアーヌがエヴァンス・トリビュート作に取り組んだのは、近年公私共に重要なパートナーとなっているマーク・ジョンソンの存在が大きい。エヴァンス最期のトリオでベーシストを務めたジョンソンは、当代白人メインストリーマーとしては屈指の実力者と認知されている。前回の来日ステージでは前作『アラウンド・ザ・シティ』のコンセプトに沿って、エレクトリックを盛り込んだサウンドを披露したが、今回はアコースティックなトリオ・サウンドに徹した。ジョンソンが所有していたエヴァンス・トリオ末期のテープを聴き、感銘を受けたのが、本プロジェクト始動のきっかけだと語ったイリアーヌ。間接的にエヴァンス・ミュージックの真髄に触れた経験を、観客に伝えてくれるステージとなった。