Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
プラハの新世代ピアノ・トリオが初来日
2007年05月12日
鯨の尾(?)をあしらったカヴァーのアルバムがピアノ・ファンから支持を得たチェコのヴィート・シュヴェツが、初めて日本にやってきた。シュヴェツはベーシストなので、正確に言えば“ベース・トリオ”なのだが、楽器編成からするとピアノ・トリオに区分される。そのあたりも今夜の見どころとなった。会場の新宿ピットインはほぼ満席の集客。日本のレコード会社との契約がないア?ティストが、これほどのファンを集めたのは嬉しく、驚きでもある。彼らがリーダーであるシュヴェツを目当てに来場したのか、それとも新しいピアノ・トリオという関心点で来場したのか、いずれの理由なのかはわからない。
ステージで曲紹介等のMCを務めたのは、ピアニストのマチェイ・ベンコだった。このシーンだけを見ると、リーダーがベンコだと思うのも自然だ。シュヴェツはシャイな人物なのだろうか。そこであえてシュヴェツに焦点を当てて聴き進めると、様々な点が見えてきた。チェコ出身者らしい作曲センス、ベース音の明瞭さと演奏の正確さ、硬質な音色と粒立ちのいいタッチと、シュヴェツの美点が浮き彫りになったのである。鯨の声を模したようなアルコ・ベース音は、チャーリー・ヘイデンのECM作が重なった。招聘者がCDを聴いて気に入り、現地でスカウトしたことで本公演が実現した経緯も見逃せない。アンコールに「煙が目にしみる」を演奏。これを足がかりとして、さらなる飛躍を期待したい。