Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー

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2009年05月アーカイブ

2009年05月20日

ノルウェーへ出発

 昨年5月に招待されたJazzNorway In A Nutshellは、初めて訪れたノルウェー西海岸のフィヨルド地帯でのジャズ・フェスティヴァルで、音楽もさることながらホスピタリティの素晴らしさと共に、一生忘れられないほどのイヴェントとなった。今回有難いことに再び招待を受けて、渡欧の運びに。Nattjazzの会期に合わせた、ベルゲンでの3日間の取材である。以前から懇意にしている外務省ルンデ氏の勧めにより、前日に「オスロ・ナイト」を追加。KLMオランダ航空利用、アムステルダム経由で、まずオスロに向かった。ホテルのチェックインもそこそこに、待ち合わせ場所へ。市中心街カール・ヨハンス通りに位置する「Nasjonal Jazzscene」を訪れる。以前は映画館だった古い建物をリニューアルした
ジャズ・クラブで、昨年オープンしたばかりの新しいジャズ・スポットだ。今月のスケジュールにはジャズモブ、ビーディー・ベル、ジョー・ロヴァーノ・アス・ファイヴ、デイヴ・ホランド・クインテットら、内外の旬なアーティストがブッキングされている。入店するとファースト・セットの終盤。ホーヴァル・ヴィーク(p)+アクセル・ドーナー(tp)・カルテットによる、前衛的な演奏だ。続いてアグスティ・フェルナンデス(p)&インガー・ザック(per)・デュオの、こちらも実験色たっぷりなパフォーマンスを鑑賞。終演後、ヴィークと談笑。来月、自己のトリオ、およびモティーフのメンバーとして来日する。120席ほどの場内は若い男女から年配者までの幅広い客層で、このような音楽が世代を問わず根付いていることをうかがわせた。Bare Jazzの経営者でもあるボディル・ニスカ(ts)夫妻、元ノルウェー大使館駐在のマリアンネさんと合流し、近くのレストランで再会を祝して乾杯。宴は深夜まで続いた。

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2009年05月21日

JazzNorway In A Nutshell 2009 初日

 今日は祭日ということで、オスロの多くのショップは休業。出発までの時間をどう過ごそうかと思っていたところ、昨夜会食した「バーレ・ジャズ」のボディル&トムが、ぼくのためだけに、1時間店を開けてくれると言ってくれた。有難いことである。市内を散策した後に向かった。昨年は2Fのイヴェント・スペースで行われていた「オスロ・ジャズ・サークル」の例会を見学させてもらい、ディスコグラファーのヤン・イヴェンスモ氏と交流したことを思い出す。貸切状態の店内では、新作を中心にボディルお勧めのCDを紹介してもらって購入。この店はいつ来ても洗練されていて、オスロの中心的なジャズ・スポットであるのも当然だと感じる。
 オスロ空港から50分でベルゲンに到着。フェスティヴァル関係者にピックアップされて、ホテルへ。昨年の5月に招待された時と同じ名称の「JazzNorway In A Nutshell」は、各国からジャズ関係者(フェスティヴァル・マネージャー、ジャーナリスト、写真家)を招いて、ノルウェーのジャズをさらに知ってもらおうとの趣旨で開催されるもの。今年は同国の主要ジャズ祭の1つである「Nattjazz」の開催期間に合わせた形で、40名超のゲストが参加した。19:00過ぎにウエルカム・パーティの会場に入ると、すでに大勢の関係者が集まっている。まずサックス奏者Kjetil Mosterのソロ・パフォーマンスを鑑賞。エフェクターを使用した演奏は1人サックス・アンサンブルと呼ぶべきノイジーなサウンドを展開。ベルゲンでの幕開けには強烈過ぎるステージだった。Natjazzは20日から30日まで11日間にわたって開かれ、我々ゲストは今日から3日間の取材である。連日21:00から深夜にかけて同じ敷地内にある4か所の会場で、複数のステージが同時進行するスタイルだ。「Nattjazz (=Night jazz)」と呼ばれる所以である。
 最初のステージはアルヴェ・ヘンリクセン。昨年末にECMから初めてリリースしたリーダー作『カートグラフィー』の参加メンバーでもあるアイヴィン・オールセット(g)+ヤン・バング(live sampling)からなるトリオは、ノルウェーが生んだフューチャー・ジャズ以降の新しいスタイルを代表する担い手たち。アルヴェは数回来日しているが、現地で観るのはやはり趣が異なる。トランペットのマウスピースを外して直接吹いたり、逆に息を吹き込まずにピストンを押して摩擦音を出したりと、アルヴェ独特の奏法でオリジナルな世界を醸し出す。フルートや尺八を思わせる音は、北欧人ならではのアイデアによって、この楽器から新しい表情を引き出したものであり、仲間2人との電気サウンドとの親和性が深い。バングがリズム・セクションの役どころを担っていたと考えれば、極めて現代的なユニットと言えよう。
 次に会場を移動して、テリエ・リピダル&ベルゲン・ビッグ・バンド。今回の取材で最も楽しみにしていたプログラムだ。ECM初期からのレコーディング・アーティストでもあるノルウェーのトップ・ギタリストを、今まで観たことがなかった。大物なのに来日の実現性が薄い、という典型的なヨーロピアン・アーティストゆえに、現地に乗り込むしかない。BBBはカーリン・クローグとの共演作などで、近年その実力が知られてきた存在。これまで様々な編成によるアルバムをリリースしてきたが、リピダル初体験が大編成とは、日本では絶対に実現不可能という意味で本当に幸運だと思った。アルバム『スカイワーズ』の参加者パレ・ミッケルボルグ(tp)をフィーチャーしたサウンドは、実に壮大な楽想で構築されていることが、次第に明らかになった。スライドバーやアームを効果的に使用し、他の誰でもないギター音を生みだすリピダルは、時にロック調のヘヴィーなプレイでバンドを強力に牽引。マイルス・デイヴィスを想起させるミッケルボルグが、定位置の舞台右手から徐々に中央へ寄り、リピダルとの2ショット状態になったところでクライマックスを現出し、このステージ最大のカタルシスを呼び起こした。
 終演後、急いで次の会場へ向かう。ジェリ・アレンズ・タイム・ライン・グループ。アレン・トリオにタップダンサーが加わった編成である。数年前にアレンにインタビューした時、このプロジェクトの話が出て、ヨーロッパではしばしばパフォーマンスを行っていることは知っていた。デビュー時からのファンとしては、これも今回の個人的なお目当て。会場に入ると、ちょうど「ソウル・アイズ」を演奏しているところだった。その後「悲しい噂」「ティアーズ・オブ・ザ・クラウン」と、モータウン・ナンバーを選曲。アレンはピアノとキーボードの両刀使いで存分に力を発揮した。タップのモーリス・チェスナットはなかなかのテクニシャンで、観客からの反響も大きい。曲のテーマとシンクロして、キメの場面を作るなど、単にトリオにダンスをフィーチャーしたのではなく、パーカッション奏者の役割も兼ねた存在感を輝かせた点は特筆したい。終演時刻は午前1:00近くになっていた。

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2009年05月22日

JazzNorway In A Nutshell 2009 二日目

 午前中に電車でヴォスへ北上。ナットシェル・コミッティーが用意した今回のリクリエーションは、ラフティングだ。初めて経験した川下りは、想像以上にハードなスポーツであった。昼食後パーク・ホテル・ヴォッセヴァンゲン内に併設するイヴェント・スペースで、我々ゲストのために準備されたシゼル・アンドレセン(vo)&ホーコン・コーンスタ(ts)・デュオを観る。それぞれのライヴは別の形で体験しているが、2人の共演を観るのは初めて。まずコーンスタがアタッチメントを使用して、ディレイとオーヴァーダブによるサウンドを作り、そこにアンドレセンの歌詞付きヴォーカルが加わる。息を吹き込まずに音を発するコーンスタの奏法に、前日のアルヴェ・ヘンリクセンとの共通点を発見。圧巻だったのはアンドレセンの独唱だ。マイクに電気処理などをせず、声の出し方だけで多彩な効果をあげており、相当のテクニックとスキルがなければできない表現力の豊かさがまさに驚異的。近年ノルウェーからは次々と女性シンガーが登場しているが、広くジャズ・ヴォーカリストのカテゴリーではやはりアンドレセンが第一人者であることを再認識した。
 21:00からのNattjazzはボボ・ステンソン・トリオでスタート。昨年リリースされた新作『カンタンド』のレコーディング・メンバーだ。ステンソン主導のインタープレイ曲を皮切りに、3人が絡み合う場面ではキース・ジャレットのヨーロピアン・カルテットを想起させるメロディが飛び出したり、トリオの即興で進みながら全員キメのユニゾンでフィニッシュするなど、生のステージに接したからこそわかる発見があった。長年のパートナーであるアンダーシュ・ヨルミンとステンソンがアイ・コンタクトを交わしたり、それぞれが自由なスタンスでトリオに貢献している様子を目の当たりにしたのも収穫。3年前にレギュラー・ドラマーとなったヨン・フェルトは、シンバルをスティックでゴシゴシ擦ったり、演奏中に声を出すなど、トリオに新風を吹き込んでいた。ステンソンが時にアグレッシヴなプレイを見せたのは、フェルトの刺激を受けた反応とも言えよう。終演後ステンソンと談笑。前回ECM関連のイヴェントで来日して以来、かなりのご無沙汰になっている。本人も再来日に意欲的だった。
 次のステージに登場したのはバンガロー。2003年にベーシストMagne Thormodsaeterが結成した2管クインテットだ。マイルス、コルトレーン、マッコイ・タイナーから影響を受けた音楽性が特徴というだけあって、60年代のジャズを想起させるモーダルなサウンドを繰り広げた。その後急いで別の会場へ移動し、オーラ・クヴァーンバーグ・トリオ+1を観る。今春Jazzland第2弾『フォーク』をリリースしたクヴァーンバーグ(1981?)は、現在のノルウェー・ジャズ・シーンでは数少ないヴァイオリン奏者。4人編成のバンド・サウンドは、リーダーのルーツであるフォーク・ミュージックをベースに、部分的にウッド・ベースのスタイナール・ラークネス(エフェクター使用)を含むエレクトリックの要素も導入し、即興性を重視した音作りはなかなかスリリングだった。2枚のアルバムは日本未発売のためこちらではほとんど無名だが、生演奏を体感して要注目の若手ノルウェー人だと確信した。

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2009年05月23日

JazzNorway In A Nutshell 2009 三日目

 ホテルで朝食を済ませてほどなく、ナットシェルのゲスト一行は小型ボートに乗船。ランチ・イヴェントのため30分の船旅ののち、小島の「Cornelius pa Holmen」に到着した。我々を待っていたのは、レストランのシェフによる「クラブ・ショー」だった。クラブとは貝・甲殻類のことで、新鮮な食材をその場でさばきながら客にふるまう内容。このシェフの口上が役者かお笑いタレントばりの上手さで、たちまち引き込まれてしまった。ホタテの殻を開いた時、「この周りの紐の部分は普通食べないんだけれど、日本人は食べるんだよ」と発言。直後にその紐をぼくは美味しくいただいて拍手喝采。レストランに移動すると、我々のための特別ライヴが始まった。ECMからリーダー作をリリースしたばかりのニルス・エクラン(1961?)のソロ・パフォーマンスだ。過去に2枚のリーダー作をリリースしており、ECM作はエクランを世界的にアピールするための満を持したアルバムなのだろう。ナットシェル・スタッフのそんな思惑が、この昼下がりのライヴに結実。最新作ではハルデンダンゲル・フィドル、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダモーレの3本を使用したが、この時はさらに1本を加えて、曲ごとに楽器の由来を解説しながら、玄妙でニュアンス豊かな弦楽器を響かせてくれた。直後に海老とカニが盛りだくさんのランチを堪能。
 夜のフェスティヴァル、1組目はユニークなユニットであった。プラタグラフというグループの取材を選んだ決め手は、ヨン・バルケだった。90年代のオスロ13から昨年の取材時に観たシワンまで、ハイブリッドなサウンドを常に追求してきたシリアスな音楽家だ。ところが今回は様相が異なる。事前に関係者から仕入れた情報では、2人のスタンダップコメディアンによるシャベリを中心としたステージだとのこと。一体何が飛び出すのか、との疑念を抱きつつ入場。蓋を開けると、数秒に1回の割合で笑いが起きるパフォーアンス。そこではバルケが黙々とパーカッションを演奏している。2005年リリースのバタグラフ/ヨン・バルケ名義作『ステイトメンツ』と楽器編成的には共通するのだが、このステージはもちろん様相が異なる。何よりバルケがこのようなセッティングのステージを務めていることが驚きだし、おそらくバルケのキャリアを知っているであろう現地の観客がこれはこれとして演奏を楽しんでいる様子も衝撃であった。バルケにとっては遊び心満点の仕事だったのかもしれない。

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