Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
ヴィブラフォンの名手が自己のユニットで来日
2007年09月05日
2月にSFジャズ・コレクティヴの長老メンバーとして「ブルーノート東京」に出演したボビー・ハッチャーソンが、自己のカルテットを率いて同店のステージに再び立った。開演20分前に入店したところ、たまたまステージ至近中央の席が空いていたので着席。こんなに間近でヴィブラフォンを聴くのは初めてだったし、ましてやそれがボビーということになれば尚更期待が高まる。そして至近距離で体感したボビーの演奏は、この楽器が一見頑丈な造りの割りに、プレイヤーのエモーションを反映してよく動くことを発見させるものだった。60年代に新主流派の筆頭格として名を高め、80年代にはメインストリームへとシフトした経緯は知っていただけに、聴く者を驚かす革新的な要素は期待していなかった。 それでもぼくが感銘を受けたのはミルト・ジャクソン以降に登場したボビーが開発した、新しいヴァイブの音が健在だったこと。そして思いもよらない選曲で喜ばせてくれた「Herzog」。ボビーの60年代ブルーノート諸作の中では目立たない1枚である『トータル・エクリプス』からのナンバーだが、実はチック・コリア参加の秀作であり、今このタイミングで演奏してくれたことが嬉しい。ちなみに初日のセット・リストにこの曲がなかったのも、今夜のステージの価値を高めた。終演後、評論家の村井氏と合流し、早朝まで痛飲した。