Jazz Diary 杉田宏樹のジャズダイアリー
セブンオークスとコラボレートしている音楽評論家の杉田宏樹さんによる「ライブ・ダイアリー」です。
邦人女性ピアニストが8年ぶりに出演
2007年09月07日
本邦ジャズ・シーンの頂点にまで上り詰めながら、突如第一線を退いて沈黙を守り続けた大西順子が、ゆかりの深い「ブルーノート東京」に8年ぶりの出演を果たした。すでに大野俊三グループのツアーに参加し、自身のトリオでのクラブ・パフォーマンスもこなしていたが、BNTほどの大舞台は実に久々。ぼくは前回、大西が出演したBNTの旧店(骨董通り沿い)でのステージを観ている。途中で席を立つカップルもいた。あのエレクトリック・プロジェクトは時期尚早だったのか、それとも本人には不向きだったのか。その後 21世紀に入って本邦ジャズ界の環境は激変。上原ひろみを始め、新世代ピアニストが続々と登場しており、勢力図は大きく塗り替えられた。今夜、復活劇を演じる晴れの舞台のために、大西は94年にNY“ヴィレッジ・ヴァンガード”で共演したレジナルド・ヴィール(b)+ハーリン・ライリー(ds)の黒人2リズムを起用した。共演関係のブランクがあるとは言え、これほど頼もしいパートナーはいない、ということなのだろう。ステージに立った大西トリオは、ノンストップで約30分演奏。テンポを自由に変化させながら展開するスタイルに、往時の記憶が甦る。MCなしでこのまま進むのか、と思っていたらマイクを持って話し始めた。髪型と相まって、妖艶さが加わったのが新生・大西順子だと言いたくなるステージ・マナー。1曲ごとに調子を上げてゆく。ブランクを感じさせないどころか、演奏中の要所でメンバーに指示を出すリーダーシップも発揮して、トリオの結束も示してくれた。普通これだけ空白期間があれば、かつてのポジションはなくなっているのだが、今夜の演奏は即復帰が可能であることを確信させた。今年40歳という節目を迎えたことが、大西に再出発を決断させたのかもしれない。新作の制作を早急に望みたい。